第44話 ゴブリン退治
王都から外へと続く大きな門を抜けると、そこは街道になっていた。
確か最初はここから入ったはずだけど、あんまり覚えていないもんだね。
あの時は近づいてくるお城や大きな門に感動していた気がする。
「さあ、目的地は……どっちでしたっけ?」
「マルちゃん……。あっちだよ」
アイヴィは、残念な子を見るような目でマルグリッドさんを見てから街道の先を指をさした。
あれ、僕も知らなかったから残念な子ってこと!?
ま、まぁはじめて街を出るんだから仕方ないよね。
「じゃあ僕が先頭で進んでいくね」
気を取り直してそういうと、僕はギルドで借りた槍を片手に前へ出た。
ちなみに銀貨1枚で借りた槍は、ちょっとだけ曲がっているような気がする。
気のせいだと思うけどさ。
しばらく街道を歩いていると……なんだかピクニックみたいで楽しいな。
村ではリッカとハルトと三人でたまに丘や川まで行っていたっけ。
「なんだかピクニックみたいで楽しいね」
アイヴィも僕が思っていた事と同じ事を思っていたらしい。
「ちゃんと気を引き締めないといけませんわ!」
そう諌めるマルグリッドさんの口元も緩んでいるのが分かる。
ちょっと緊張するけど、ちょっと楽しい、そんな感じかな。
「でもおやつやパンを持ってくれば良かったですね」
セイラさんまでそんな事を言っている。
やっぱりみんなピクニック感があるんだろうね。
こうやって仲間とワイワイするのっていいものだな、なんて改めて思う。
まぁこれはちゃんとした依頼なんだけど。
「あれ、これはどっちに行けばいい?」
「えっとここを左に行くとレイノール街道だよ」
なるほど、僕の村はあっちにあるんだね。
「じゃあもうすぐ依頼のあった場所ですわね?」
「うん、しばらく行った場所のちょっとした森みたいな所に住み着いてるって書いてあったよ」
よし、じゃあ僕もそろそろこの首の鈴を外そうかな。
そう思って首に手をかけるとセイラさんから待ったがかかった。
「あら、お姉様。それはそのままでも大丈夫じゃありません?」
「そうかな? でもこれがあると全力が出しづらくてね」
「そうですか……可愛いのに……」
まぁ自縛の鈴一個だけなら無理矢理引きちぎれる気もするけどね。
僕は残念そうな顔をしているセイラさんに謝ると、アイヴィに作ってもらったフリフリのついた鈴を外した。
今日の朝出来たよって渡してくれた物だからいきなり引きちぎるわけにはいかないもんね。
「あっ! あれじゃありません?」
マルグリッドさんの指差す方をみると確かに小さな森が見えてきた。
うん、きっとあれだね。
「それじゃあ行こう!」
僕らは頷きあうと、森へと足を踏み入れた。
街道よりもひんやりしたそこはなんだか懐かしい香りがした。
おっと、また気を抜きそうになってしまった。
ここはいわば戦地だからもう気は抜かないようにしないと。
そう気を引き締めた僕の前に緑色の小人が顔を出した。
顔は醜悪に歪んでいて、ひと目でそれが討伐対象のゴブリンであると分かった。
「出たよ! じゃあいつも通り僕が前でみんなを守るからっ!」
そういうと僕はみんなを背負って一歩前に踏み出した。
魔力はもう練ってあったからすぐにアイギスは発動した。
相手がどれくらい強いか分からないし、まずは全力だ!
僕がアイギスを発動したのと同時にゴブリンが「キィ」という声を上げて僕に飛びかかってくる。
それを手に持っていた槍で迎撃しようとして——ゴブリンは溶けた。
ギャっという断末魔をあげて。
「…………イニスさん?」
「あれ、僕なにもしてないんだけど……」
「お姉様のそれ、ちょっと火力が高すぎるんじゃありません?」
「あらら、確か倒したら耳を持って帰らないといけないんだよね?」
僕は周りを見渡すけど、さっきまでいたはずのゴブリンは跡形もなく消えていた。
「ごめん……」
僕は小さく謝ると、首に自戒のための鈴をつけた。
どうやらここで全力を出す必要はなさそうだね。
「まぁ仕方ないですわ。練習のゴーレムと比べても相当な実力差がある事がはっきりしただけ良かったですわね」
「あはは、ならよかった。じゃあ次を探そう。確か五匹でいいんだったよね?」
「うん、そこからは一匹増えるごとに銅貨三枚だって」
うーん……ってことは十五匹倒しても依頼達成料を含めて銀貨五枚。
みんなの登録料にも満たない。
初心者用の依頼だったらこんなもんなのかな。
これでハルトはちゃんとやっていけてるのかな?
いや、もしかしたら僕らがデルソルの高給に慣れすぎているだけかもしれないけど。
そんな事を考えていたら前の茂みがガサガサっと揺れた。
もしかしたらさっきのゴブリンが帰って来ないから様子を見に来たのか?
「キィ……キキィッ!!!」
「キャッ!!キャキャッ!!」
何をいっているのかは分からないけどとても怒っているのは伝わる。
でもごめんね、こっちも仕事なんだ。
茂みから出てきたゴブリンは二体……と思ったらあとから三体増えて五体だ。
一度に沢山出てきたけど大丈夫かな?
「ギャアッ!」
そんな僕の弱気を吹き飛ばすように石弾が後ろから飛んできて、ゴブリンに命中した。
当たったゴブリンはもう動かない、か。
どうやら一撃で倒したようだ。
「さっき魔力を練っていたのに使えなかった分ですわ」
あ、僕のせいでね?ごめんごめん。
「さすがマルちゃん! じゃあ私もっ」
「私もいかせてもらいます」
そういってアイヴィ、セイラさんも続いて魔法を撃った。
ゴブリンたちはその魔法の速度に反応すらできないようで、気持ちのいいくらい命中した。
最後は……僕だ!僕は槍をしっかり握りなおすと、慌てて動けないゴブリンを二体同時に突き刺した。
ずぶぶ、という嫌な感触が手に伝わってきて、すんでの所で槍を落とすところだった。
「ふぅ、どうやら今回は大丈夫そうだね」
「ええ、火力を調整してもらえてなによりですわ」
マルグリッドさんが笑いながらそういってくれた。
「で、これから耳を切り取るんだっけ?」
「うん、ナイフも借りてきたよー」
アイヴィが肩にかけたカバンから解体用のナイフを取り出した。
解体……僕は今しがた感じた嫌な感触を思い出していた。
耳を、切るのか。
「誰が……やりますの?」
マルグリッドさんはちょっと震えた声でそういった。
みんなお互いに顔を見合わせている。
うん、そりゃ誰もやりたくないよね。じゃあここは僕が——っ!?
「今、叫び声が聞こえなかった!?」
「ええ、お姉様にも聞こえましたか? あっちの方からでしたね……」
セイラさんはそういうと森の奥を指で示した。
確かにあっちの方からだった。
「ど、どうしますの?」
「僕は……様子を見に行きたいんだけど……。みんなは待っていてくれる?」
「イニスが行くなら私も行くよ!」
「私もお姉様についていきます」
なんか危険な香りがするし、サッといって無理そうなら逃げたかったんだけど……。
「……ふう、じゃあみんなで行こうか」
まぁいざとなれば僕が守れば逃げるくらいはなんとかなるかな?
僕は先頭を歩きながら首の鈴をそっと外した。




