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第43話 校外実戦

 先輩と契約をしたその日、僕は夢をみた。

 夢の中には僕がいて、僕は僕と何かを話していた。

 それは凄く懐かしい気もしたけど、はじめてのような気もするという不思議な感覚だった。


 そんな夢からさめて、目覚めると何故か手が動かせなかった。

 ふと見ればなんだ、自分の左手と右手を繋いでるだけだった。

 それは何かに……いや、誰かに祈りを捧げているようでもあった。

 固く繋がれた手をゆっくり離すと、僕はまず涙を拭いた。

 所々乾いていたところもあって……どんだけ泣き虫なんだ僕は。


 昨日は夕食を抜いてしまった事もあってお腹がペコペコだったから、起きてすぐ朝食を食べに食堂へ行った。

 するとそこで食事が終わったリッカとばったり鉢合わせた。

 食堂で食事を共にするのはメリンダの手前避けてはいたけど、デルソルで一緒に働いている事もあって、朝の挨拶くらいは出来るような関係なんだよね。


「おはよう、イニス。早いんだね」

「あ、ああ。おはよう。リッカこそ早いね」

「うん、私はこれから朝練なんだ」

「あ、そうなんだ。頑張って……はおかしいか。ほどほどに、ね?」


 そういうとリッカは右手を軽くあげる事で返事をして、食堂を出ていった。


 笑顔で挨拶してくるリッカに、僕は妙な感情を覚えた。

 一種の背徳感、いや罪悪感といった方がいいだろうか。

 決して僕が悪いことをしたわけじゃないのに、そんな気持ちになってしまった。



 そんな感情のせいか、今日の僕は授業も上の空だった。

 それでもなんとか一日のスケジュールをこなすと、最近の日課となっている放課後のチーム練習をしていた。

 今日はロイゼ先生に作ってもらったゴーレムとの戦闘訓練だ。


「そっちにいったわよ!」

「はい、任せて下さいっ!」


 ロイゼ先生に作ってもらったゴーレムにセイラさんの水弾が命中してその体を揺らした。

 さらに反対側からアイヴィの魔法も命中する。

 マルグリッドさんは同じ属性のゴーレム相手だとあまり効果がないこともあって、指揮をする役割を担当していた。

 僕は当然いつものように最前線に立ってゴーレムを牽制していたんだけど……。


 気が抜けていた——本当にそうとしかいいようがない。


「危ないよっ!!」


 アイヴィの声が聞こえた時にはもう遅かった。


 ゴーレムが力任せに振ったその右腕が僕の全身を(したた)かに打った。

 全身にアイギスを纏ってはいたんだけど……それでも不意打ちに近いそれは僕を壁際まで吹き飛ばした。


「イニスさんっ!?」

「お、お姉様っ、大丈夫ですか?」

「凄い勢いで飛んでいったね……。マルちゃん、ゴーレムを!」


 マルグリッドさんがゴーレムを緊急停止するための魔石を割ると、三人は僕のところへ駆け寄ってきてくれた。


「あいたたたた……」

「大丈夫ですの?」

「う、うん。まぁアイギスは発動してたから……」

「ねぇイニス。今日はちょっと変じゃない?」

「私もそう思っていました」


 三人が心配そうな、それより不安そうな目で倒れた僕を見下ろしていた。


「だ、大丈夫だって! ほらピンピンして……痛っ」

「お姉様、ダメですよ。じっとしててください」


 そういうとセイラさんは僕に腕を添えると魔法をかけてくれた。


「回復……魔法? いつの間に?」

「どうやら私には攻撃よりもこちらに適正があったみたいで……」

「凄いでしょう? 昨日の放課後に練習していたらあっという間に出来るようになったのよ!」


 何故かマルグリッドさんが自分の事のように胸を張っている。

 ああ、色々あって忘れていたけど確か昨日練習したい魔法があるっていっていたっけ。

 それがこれだったわけか。


「はい、これでどうですか? まだ練習中なので効果は薄いんですけれど」

「ありがとう、セイラさん。すごく良くなったよ。よいしょ……っと」


 僕は立ち上がって、さっき痛めた肩をぐるぐる回してみる。

 うん、本当に痛みはなくなっているみたいだ。


「あ、ごめん。ゴーレムは緊急停止しちゃったんだね」


 実習室を見渡すとさっきまで堂々と立っていたゴーレムが砂になっていた。


「ええ、いいですわ。仕方ありませんもの」

「明日は休みだから今日はみっちりやろうって言ってたのに……僕のせいで本当にごめん」


 そう肩を落とす僕を励ますように、アイヴィが明るい声を出す。


「それじゃ明日、続きをする?」

「それはどうでしょうか……ゴーレムは先生に出して貰わないといけませんし」


 セイラさんが困ったような顔をして唇に指を当てている。

 なんだか色っぽ……じゃない。

 いつから僕は仲間をそんな目で見てしまうようになったんだ!ダメ、ダメ!

 そんな自己嫌悪に陥りかけた僕を横目にマルグリッドさんが一つ手を打った。


「あっ! ……それじゃあ、こういうのはどうですの?」



 * * * * * *



 翌日、僕らは冒険者ギルドの前にいた。


「それじゃあ入るよ? いい?」


 僕が後ろの三人に聞くと、三人は覚悟を決めたような顔をして頷いた。

 そう、ゴーレム錬が出来ないのなら魔獣を相手に練習をすればいいんじゃないかという事になったのだ。


 魔獣というのはモンスターと違って、魔女じゃなくても倒す事ができる。

 一般的な獣よりは少し大きくて強いんだけれど、まぁ言ってしまえばそれだけだ。

 ちなみにこの魔獣がさらに成長して魔の力を集めたのがモンスターだと言われている。

 今日はその魔獣を狩りにいく予定になっていた。


 冒険者ギルドの中に入ると……あれ、今日はだいぶ人が少ない気がする。

 まぁ休みの日だから冒険者の人も休みたいって事かもしれないね。

 それでもやっぱりテーブル席の方からは不躾な視線が飛んでくる。

 小さな声で「おい、あれってデルソルの子じゃねえか?」なんて声も聞こえてきたからちょっと笑っちゃったよ。


 カウンターに行くと、はじめてここへ来た時にいたお姉さんがいた。

 えっと確か……そうだ、メリッサさんだ。


「あら、どうしたの? また人探し?」


 メリッサさんもどうやら僕の事を覚えていてくれたらしい。


「いえ、今回は依頼を請けたいんですけど……」


 僕がそういうとメリッサさんは驚いたような、哀れむような目をした。


「あのね、ここは子供たちが遊びで来るようなところじゃないのよ?」

「あら、私達は魔女ですのよ?」


 子供たちと言われたのが気に障ったか、マルグリッドさんがずいと前に出てそういった。


「あ、あら。魔女学園の生徒さんだったのね。ごめんなさい。でも冒険者は登録制になっているからやっぱりいきなりは無理なのよ」

「それじゃ登録したら大丈夫なんですか?」


 アイヴィが聞くとメリッサさんはもちろん登録すれば大丈夫ですよ、と頷いた。

 聞けば魔女学園の生徒も何人かは登録しているようだし、将来のデメリットも特にないようだったので僕らは揃って登録をする事にした。


「それではこの用紙に必要事項を記入して下さいね」


 そういって渡された紙はどうやら魔女用のものらしく、得意属性を書く欄があった。

 さて、僕はどうしようかな?確認されるわけでもないだろうからここは適当に書いておこうか。


「はい、ありがとうございます。そしたら登録料として銀貨二枚をお支払い下さい」


 そういわれたので僕らはそれぞれ銀貨二枚を支払った。

 僕も借金はとっくに返し終わって、お給料をもらっているからそれなりにお金を持っていたからちゃんと自分で払った。


「ではこちらが冒険者タグになります。最悪の場合、このタグで身元が分かるようになっていますので依頼へ向かう際は必ず身につけて下さい。それから——」


 僕らはしばらくメリッサさんに冒険者としての基本を教えてもらった。

 他に順番待ちをしている人がいなかったからか、結構長い時間喋っていた気がする。

 これが普通なのかな。



「それじゃ依頼掲示板を見にいきましょう」


 メリッサさんの話が終わるとマルグリッドさんは待ちきれない、とばかりに掲示板へ向かっていくので僕らは慌ててついていった。

 魔獣退治と言い出したのもマルグリッドさんだし、もしかしたら冒険者に憧れていたりもするのかもしれないね。


「うーん、どれがいいかな……あ、これなんてどうだろう?」


 アイヴィが指差した依頼を見るとルルアッソ峠でカンカン鳥退治、とあった。

 カンカン鳥と聞くとなぜだかよだれが出てくる。なぜだろうね?


「ルルアッソはちょっと遠いですわ。もう少し近い場所はありませんの?」

「あ、こちらはどうですか?」


 そういってセイラさんが選んだのはゴブリン退治の依頼だった。

 場所はレイノール街道……っていうと僕が王都にくる時に通った道だね。


「ええ、これならいいかもしれませんわね」


 確認すると僕ら初心者でも受注可能な依頼だったので危険は少ないだろう。

 みんなで確認しあうと、掲示板に貼られていた紙をとってカウンターに持っていった。


「これにしますわ!」


 マルグリッドさんはカウンターに叩きつけるようにして依頼票を置いた。

 これはかなり気合いが入っているように見えるね。


「ええっと、こちらの依頼には魔女の帯同はいらないし……ってみなさん魔女見習いでしたね。もちろん魔法は使えますよね?」

「もちろんですわ!」

「それなら大丈夫です。騎士を付けますか?」

「それならお姉様がいるので大丈夫です」


 セイラさんがそういうとメリッサさんは不思議そうに首を傾げていた。

 マルグリッドさんもアイヴィからもちらりとこちらを見ていて僕に期待してくれているみたいだ。

 よし、今日は昨日みたいに気を抜かないようにしないと。

 僕はそう気持ちを引き締めて、冒険者ギルドを出た。


 さあ、はじめての校外実戦だ!

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