第41話 緊迫の緊縛
ついに、ついに僕が男だという事がバレてしまった。
最近は意識しなくても女の子らしい動きが出来るようになってきていたし、可愛いものも大好きになりつつあった。
毎日の学校はなんだかんだ楽しかったし、デルソルでのアルバイトだって好きだった。
そんな日々がずっと続いていくだろうって、そう油断しはじめていた時にこれだ。
つまりそんな毎日が……終わる?
前まではバレたら逃げようなんて考えていたけど、僕はいつの間にかこの当たり前の毎日を手放したくなくなっていたみたいだ。
なのに、なんでバレてしまったんだ……。
そう考えて寝ぼけている頭を振ってスッキリしようと思ったら、頭がなにかに固定されていて簡単には動かすことができない事に気付いた。
ならば、と自由な瞳を限界まで動かしてみると、水魔法で作られたわいせつな鎖が僕の手足を縛っているのが目に入った。
そうか僕は……僕は先輩に拘束されているのか。それもこんな姿で。
呆然とする僕に楽しそうな声がかかった。
「うふふっ、それにしてもこれは楽しい状況ね。滾るわぁっ。あら、坊やは若いのにもう賢者さんなの?」
「…………ぼ、僕を……どう、するんですか?」
「そうねぇ、それじゃあ……もいで本当に女の子にしちゃうとか?」
「……ッ!」
もぐという言葉を聞いて僕は縮みあがった。
身動ぎすらできないし……それにこの体勢からだったらきっと簡単にもがれてしまうだろうから。
「冗談よ、そんな事したら楽しめないじゃない」
先輩は楽しげにそう言っているけど目が笑っていない。
このまま先生や治安官なんかを呼ばれたらこの情けない姿でお出迎えする羽目になってしまう。
そんなのは流石にごめんだった。
だから……。
先輩ごめんなさい、そう心の中でいうと全身に力を込めた。
僕の全力の魔力でもってこの鎖を引きちぎるんだッ!
体の奥底にドロドロと流れる魔力を自分の意思で引き寄せて、全身から放出させた——まさにその瞬間だった。
リン……リンリンリリリーン……。
部屋の中に鈴の音が幾重に重なって聞こえた。
「こ、これは……!?」
「あら、悪い子ねぇ。魔法を使おうとしたの? でもそれは無理よ。自分の体をよーく見てごらんなさい?」
そう言われて動かしづらい首を限界まで傾けて、さらに目を端の端まで移動させる事でようやく理解する事ができた。
手首、足首……などに鈴がぶら下がっていたのだ。
見えはしないけど、感覚としては首にもついているのだろう事に気付いた。
きっと体の中で”首”と付く部分全てにつけたのだろう。
この鈴はきっと昼間に見たアレだろうと直感した。
「自縛の鈴……」
「あら、知っていたの? これってつければつけるほど効果が重複するのよ。だから今のあなたはなにもできない赤ちゃんみたいなものよ。その素敵な格好も含めて、ね」
趣味が悪い、あまりにも趣味が悪すぎる。
普通に指摘してくれれば謝る事もできたし、素直に捕縛される事も考えたかもしれない。
なのに、こんなのってないよ……。
僕は自分の情けない姿や、どうにもならないもどかしさから自然と涙が溢れそうになった。
「あら、ごめんなさい。泣かせるつもりはなかったのだけれど……」
先輩はそういうと僕の顔に自分の顔を近づけて、溢れかけたしょっぱい雫をベロリと舐めとった。
「……っ!」
「大丈夫よ、怖がらないでね。ああ、そうね。勘違いしているのね」
「…………なに……が……です、か?」
「うふ。私は本来どっちでもいけるのよ?」
それは今となっては余程聞きたくのない告白だった。
「さて、じゃあ取引をしましょうか。それ次第ではそうね……見逃してあげない事もないわ」
「……えっ!?」
「何を驚いているの? あなたはそれを望んでいるのでしょう? こっそり忍び込んで何をしようとしているのか知らないけれど——」
「何もッ! 僕は何かをしようとしている訳じゃっ……うぅっ!」
「いーい? 今は私が、話そうとしているの。聞かれていない事で口を開いたら手が滑って……もいじゃうかもしれないわぁ」
それ以上、指先に力を込められないように……と僕は押し黙る事しか出来なくなった。
「いい子ね。じゃあまずは質問よ。あなたはだあれ? どこから来たの?」
「僕は……イニ……カイネウス、です。アグロス村から来ました」
「ふーん。目的は?」
「魔女の刻印が何故か男の僕に現れたので……その、魔法の勉強をしに……」
「あはっ、その為に女の子に変装して?」
先輩は楽しそうにそういうと指先に力を込めた。
「ぐあっ!」
「本当のこと……教えて? 私もむやみに他人の性別を変えたりしたくないのよ?」
「本当にっ……本当なんです……。あとは学園に幼馴染が入学する事になったから側にいれたらってそれだけでっ!」
「その子のお名前は?」
「……リッカ、です。でもリッカはこの事を知らなくてっ、本当に関係ないっていうか……ああぁっ!」
「余計なこと、言わないで?」
僕が急いで口を閉ざすと先輩は「本当にそれだけ……?」とボソボソ呟いている。
本当にただそれだけで、誰にも迷惑を掛けないで毎日を楽しく過ごしているだけなのに……どうやったら分かってもらえるのだろう。
「あなた、臭うのよ……あの忌々しい女の匂いがプンプンするわ」
「……?」
「だから私はすぐにあなたに目をつけた」
「…………」
「そして最初の日……あの日は邪魔が入ったから予定を変更して、今度はあなたを泳がせることにしたわ」
最初の日、というのは寮を案内してくれた日のことだろう。
コレットが帰ってきて事なきを得たんだよね。
「そうしたら笑っちゃうくらい何もないのよ。普通の女の子、だったわ。だから今日確認する事にした」
「…………」
「そしたらビックリ、普通の女の子じゃないどころか女の子ですらなかったなんてっ!」
「…………」
「でも、これではっきりしたわ。まぁ男が、なんていうのは聞いたこともないけれど……いいえ、だからかしら? あなたは何も啓示を受けていない」
啓示というのはなんだろう?僕は思ったけど口に出さないでおいた。
熱っぽく喋る先輩の独演会に口を挟んだらきっと大変な事になるだろうから。
「ああ、あなたのそれは<魔女の刻印>なんかじゃないのよ?」
「……えっ!?」
なんとか口を開かずにいた僕だったけど、さすがにこれには声が出てしまった。
けれどそんな僕を咎めることなく、先輩は話を続けてくれた。
「それはね、<女神の祝福>よ」
「女神の……?」
「うふっ、そんな事も知らされていないなんてね。ま、やっぱり少なくともあなたは敵ではなさそう、か。……それじゃあ条件を出しましょう」
そういうと先輩は僕へ顔を近づけてきて……。
「……んっ!?」
その妖艶な唇を、僕の唇へと押し付けた。
しばらくその熱い口づけは続いて……苦しくなってきた時に、口の中へ何かが入ってきた。
それと同時に先輩は僕の唇から離れて——。
「それを飲みなさい」
糸を引いたその唇をペロリと舐めながらそういった。
僕は思わず反射的にそれを……飲み込んでしまった。
「な、何をするんですかっ!?」
「だって口約束じゃ私もあなたも心配でしょう? だから……はい、あなたも私に飲ませて?」
そういって僕の口に何かを含ませた。
それからまた僕の唇に吸い付くと、舌で乱暴に僕の口から何かを奪って……飲み込んだ。
「はい、これでいいわね。私は<あなたの性別を他人に漏らさない>これを条件にするわ。だからあなたは——」
そういって先輩は僕に条件を突きつけたんだ。
その条件は僕の運命を……僕の未来を大きく変えるものだった。
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ブクマ、評価も嬉しいです。だから続きが書けます。
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