第40話 バレのち…
リオナ先輩に連れられて先輩の部屋にやってきた僕は、その広さに驚いていた。
「僕たちの部屋と比べて広いんですね」
「そうね、学年が上がると少しずつ広くなるわよ。それに……まぁいいわ」
それに……の続きが気になるけどまあ藪は続かない方がいいに決まってるからね。
「それじゃあエリュシオン様の話をする前に紅茶でも淹れるわね。あなたはそこの椅子に座って待っていてもらえる?」
「ありがとうございます」
僕は勧められた椅子に座りながら部屋を見渡すと、ベッドが一つに棚が一つ目に入る。
他には勉強をするためであろう机と、僕が今座っている椅子が二組、それにテーブルが置いてある、といった感じだった。
見た感じ"一人用"の部屋、といった印象を受けるんだけど寮はみんな相部屋だったよね。
そんな事を考えながら、持っていた本をテーブルの上に置いた。
結構な量だったからちょっと腕が疲れちゃったからね。
紅茶を淹れにいったまだ先輩は戻ってこなさそうだったので、テーブルに置いた本の中から簡単そうなものを選んで、しばらくパラパラとめくっていると先輩がトレーを持って戻ってきた。
「お茶請けはこれでよかったかしら?」
そういいながら運んできてくれたのは……この街に来た日に食べたあのプディングという不思議な食感のお菓子だった。
「私が遠征しているとき突然人気になったお店があってね、それを昨日知って今日買ってきちゃったのよ」
ええっとそれはつまり——。
「それってもしかして太陽の住処っていうお店ですか?」
「あら、知っていたの? そんなに人気のお店だったのね」
先輩はちょっとつまらなそうにそういった。
知ってるもなにも僕らも働いているので……とは言わないでおいた。
でもよく考えたら先輩が好きそうなお店かもしれないな。
女の子がフリフリ成分多めのメイドさん姿で働いているんだから。
「えっと、いただきます」
僕は一瞬躊躇したけど、ここまできて食べない理由もない。
まぁロウさんのプディングを目の前ににして我慢が出来なかったっていうのもあるけど。
「ええ、どうぞ。私もまだ食べてないから一緒に頂くわね……ん、これは……不思議な食感ね」
リオナ先輩もその言葉通り、気に入ったようでスプーンが凄い勢いで進んでいる。
どうやらリピーターが増えそうですよ、と僕は心の中でロウさんに伝えておいた。
「紅茶もどうぞ。茶葉にはちょっとしたこだわりがあるのよ?」
「本当ですね、甘くてとっても美味しいです」
「でしょう? お口にあってよかったわ」
意外にも普通に饗されているようで僕は内心驚いていた。
少なくとも部屋に入った途端に押し倒されて……というのがなくて良かったよ。
「ごちそうさまでした」
「ええ、お粗末様。それじゃあエリュシオン様の話をしましょうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
「実はさっきから思っていたのだけど、その一番下の本ってもしかして……」
「これは……日記の断片をまとめたものって先生は言ってましたけど」
「やっぱり……それはかなり貴重なものね。私も読んだことがなかったのよ。ちょっと見てもいい?」
「ええ、どうぞ」
僕が本を一番下から引き抜いて渡すと、先輩は宝物を触るように優しく受け取ってくれた。
それからしばらく読んで、大きく驚いたり、頷いたりしていた。
そしてバッと顔を上げると先輩はいった。
「とんでもない事が分かったわ……」
「と、とんでもない事……ですか!?」
こちらを見る顔が紅潮する程なんて……一体何が分かったのだろうか?
僕はごくりと生唾を飲み込んでその言葉の続きを待つ。
「エリュシオン様はね……」
「エリュシオン様は……?」
「女の子が好きだったのよっ!!」
…………うん、そっか。
僕は感情の死んだ目をしながら先輩の話の続きを聞く。
「実はそうじゃないかって思ってたのよ! ほら、『今日もリンドヴァースが寄り添ってくる』、『今日はルクソラがお尻を触ってきた』っていう記述が読み取れるもの。両方とも女性として名前が残っている人物よ!」
いや、それは好きだったというか好かれていたというか……まぁなんでもいいです。
それより後世の人に日記を読まれるとか結構キツイね。
「まだあるわっ! ほらこれだって……っ」
先輩の興奮は収まりそうになかったので僕は別の本を読むことにした。
まずは分かりやすそうなエリュシオン様の英雄譚を手にした。
ふむふむ。
はぁなるほど、やっぱり手にしている槍に魔力を込めて戦うのが基本戦術だったみたいだ。
時にはその槍を投げて、地面に大きな穴が開くほどの大爆発を起こす……か。
そこに水が溜まったのがリスティア湖と言われていますって、地形まで変えちゃうなんてとんでもない威力だね。
それから……あれ、本を読んでたらなんだか……眠たくなってきたな。
昨日はちゃんと寝たんだけど。
眠いから今日は帰ります……あれ、口がうまく動かないな。
「……ふう、やっと効いたの?」
「……へ……」
「私、本当はそういった薬を精製する魔法が得意なの」
そういって先輩は刻印の入った舌をペロリと出した。
そんな先輩の満足気な顔を見ながら僕は、僕は……眠りに落ちてしまった。
「……れって……んな…………ゃあ…………ね」
霞がかった頭の外で何かが聞こえる。
「……も…………かに……わっ!」
どうやらとても驚いているような声だ。
それなのに瞼が重くて……くそぉ。
ダメだ、ダメだ……よりにもよって先輩の部屋で寝てどうするんだ、僕!
起きろ、起きろ、起きろよぉぉぉっ!
「…………っ!」
「あら、お目覚め? 予定より随分と早いわねぇ」
どうにか目をこじ開けると先輩は…………一糸まとわぬ姿だった。
ちょうど開いた目の前にいたから思わず目に焼き付けてしまったよ。
「おはよう、坊や。いえ……大人になった、のかしら? うふふ、冗談よ」
「……な……なん、でっ!?」
「なんで私が裸かって事? 決まってるじゃない。熱かったから、よ」
「それよりなんでって私が聞きたいわよ? 分かっているわよね?」
「…………」
「だってあなた——」
——男じゃない。
その言葉は耳元で囁かれたひどく小さい声だったけど、僕の耳の奥に……いや心の奥にこびりついて、離れなかった。
バレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたバレた。
……ついにバレてしまった。
どうしたらいいだろうか?
どうしたら……。
お読みいただきありがとうございます。




