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第38話 実戦的授業②

 僕の吶喊が聞こえたか、ゴーレムはその巨体を揺らして動き始めた。

 と思ったら、村にある自宅くらいの巨体が思いのほか俊敏に動いて、岩のような拳を振り下ろしてきた。

 なんとかギリギリで反応できた僕は軽く後ろに飛ぶことで拳を回避した。

 僕という目標を逸したゴーレムの拳は実習室の土をえぐり、大穴を開ける。

 えぐった土が(つぶて)となって、僕に勢いよく降り注いできたけど、僕のアイギスにぶつかるとキャンキャンと甲高い音で泣くように落ちていった。


「ふう、なんとか大丈夫そうだ。 みんな、今のうちに魔法を!」


 僕がそういうや否や、後ろからは魔法が飛んでくる。きっと僕を信じて準備をしてくれていたんだろう。

 火が、土が、風がその巨体にぶつかって——弾けた。


「わ、硬いな」

「ですねぇ、お姉様は大丈夫ですか?」

「うん。僕は大丈夫だよ。次は僕が攻めてみるからみんなはそれに続いて攻撃してみて」


 そういうとみんなが頷いてくれたので、僕はゴーレムに向かって駆け出した。

 その速度はやっぱり全開の時よりも遅くて、無意識下で自縛の鈴に縛られているのを感じた。


「それでもっ! 僕がやらなきゃっ!」


 僕が顔を狙って突き込んだ槍は、僅かに身をよじられたことで肩付近に当たった。

 魔法で包まれている槍はゴーレムの装甲と僅かに拮抗して——爆ぜた。

 轟音が響き、粉塵が巻き上がる。

 砂埃がはれてゴーレムを見ると……どうやら肩の一部が抉れていた。

 つまり攻撃力では僕の方が上回っているらしい。

 正直その結果には少しびっくりしたけど、ここがチャンスかもしれない。


「お願いっ!」


 僕はそう叫ぶと同時に横へ跳び射線をあける。

 そこへ狙いすましたように、三人の弾が次々と突き刺さる。

 一度削られて脆くなっていたゴーレムの肩はぶら下げていた腕を持ち上げようとして——地面へと落とした。


「やりましたわっ!」

「やったね、マルちゃんっ!」


 腕をもぎ取っただけではあるけれど、僕らがここ一ヶ月近く続けてきた練習が無駄じゃなかったという証のようでちょっと胸が詰まった。

 そんなちょっとした交錯の中で思いついた事があった僕は、ゴーレムが固まっている隙をついて三人の所に合流する事にした。


「あのさ……こういうのって出来ないかな?」

「なるほど……やったことはないですけど、お姉様がやれというならなんでもやってみせますわ」

「ええ、私もあまり魔力を使わなそうだから大丈夫だと思いますわ」

「私はいつも通りだからバッチリだよ!」

「良かった、じゃあ僕が合図を出すからそのタイミングでお願い!」


 こうして短い時間で作戦を確認しあった僕は再度ゴーレムと対峙する。

 もちろん痛みも感情もないんだろうけど、心なしか怒っているような気がしてくるから不思議だ。


「さ、ここからが正念場だぞ」


 僕は自分で自分を鼓舞すると、地面を蹴ってゴーレムに迫っていく。

 すると先程の僕の攻撃を驚異に感じたか、根に持っているのかは分からないけど僕を叩き潰そうと上から拳を雨のように降らせてくる。

 まぁそれでも腕が一本になっちゃったそんな攻撃は当たらないんだけどね。

 攻撃されてはじめて分かったけど、僕は”この状態”になると反応速度も目も数段能力が向上するようだった。

 だからこうやって悠長に考えながら攻撃を捌けるんだろうね。


 ゴーレムは当たらない攻撃に焦れたのか、一際大きく腕を振りかぶった。

 ——ここだっ!


「今ッ!」


 僕がいうとやはり後ろで練っていてくれていたのだろう魔法が発動した。

 それは一言でいうなら『泥沼』だ。

 マルグリッドさんの土魔法で土を柔らかくし、セイラさんの水魔法でその土を泥へ変えたのだ。

 ゴーレムはその自重のせいもあってか、足元に突如現れた沼へ見事にハマった。


「最後、お願い!」


 そう叫ぶとアイヴィが「ごめんっ!」と言いながら走る僕の背中に向けて風の弾を打ちこんだ。

 その弾はアイギスに阻まれて、僕の体に届く事はなかった。

 けれどその衝撃までもが消えることはない。

 衝撃を加速に変えて僕は跳んだ。


 沼にハマって動けないゴーレムとの距離はすぐになくなり——。

 実習室内に小さな爆発音が鳴り響いた。

 もちろんその音は僕がゴーレムに槍を突き立てた音だ。

 顔の単眼に槍を刺されたゴーレムは、足を固定されている事もあって衝撃を逃がせなかったのだろう。

 膝上、大腿部の辺りにいくつもの亀裂が走って……割れた。

 そしてその家ほどの巨体はゆっくりと後ろに倒れていくのだった。


「ふう、これで終わったかな?」


 ゴーレムに槍を突き立てた僕は倒した、という感覚を手に残しながら満足感に浸っていた。

 そんな時、不意に鋭い声が僕の鼓膜を震わせた。


「キャーッ!」

「ルコラちゃん、逃げてっ!!」


 見れば、倒れゆくゴーレムが道連れを作ろうとしているかのようにルコラちゃんへその影を落としていく。

 そのスピードはまさにスローなものではあったけどルコラちゃんは足がすくんだのか逃げることが出来ないでいる。


「まずいっ!」


 あれが直撃してしまえば即死もあるかもしれない。

 もしそうなるとさすがに先生でも治せないだろう。

 そう直感した僕は——全力で魔力を放出した。

 すると僕の首に巻かれていた鈴がリンッ——となって僕は力が抜けそうになる。

 駄目だ、このままじゃ間に合わない……もっと、もっとだっ!!

 僕は自分を縛っているものを突き破るように魔力を迸らせる。


 すると何かが壊れる音がするのと同時に体を縛る感覚が消えた。


「間にあえっ!!」


 僕は全力でルコラちゃんの元へ走ると、まさにルコラちゃんをぺしゃんこに押し潰さんとしていたゴーレムに力一杯の体当たりをした。

 体当たり衝撃はとんでもないものだったようで、ゴーレムの体は実習場の端まで転がりながら吹き飛び、そして最後は砂になった。


「ふ、ふわぁぁ……」

「ルコラちゃん、大丈夫だった? ごめん、ゴーレムの後ろまで確認してなくて……無駄に危険にさせちゃったみたい」

「ふぇっ!? だ、大丈夫……だよぉ。ル、ルコラを助けてくれてあ、りがとう」


 僕はアイギスを解除してから、腰が抜けてしまったらしいルコラちゃんの手を取って立ち上がらせてあげた。


「うん。本当に怪我はないみたいだね、良かった」

「はい。良かったですね、お姉様。それにとっても格好良かったですっ!」


 チームメイトの三人もこちらへ駆けつけてくれていたのか、すぐに側まで来てくれた。


「確かにルコラが助かったのは良かったですわ。でも……確実にライバルが増えましたわね」

「ん、ライバルって?」

「な、なんでもないですわっ!」


 こうしてなんとも締まらない空気の中、初の実戦的授業が終わったのだった。

 尚、もう一体のゴーレムは僕が倒した方が砂になったのと同時に砂へ還っていったのだった。

 もしかして先生が砂に変えたのかもしれないね。

 そうだったとしたら僕がルコラちゃんを助けにいったのは無駄だったのかもしれないな。

 まぁ自分の最善をつくしたんだからいいか、と僕は苦笑いとも安堵ともつかないような渋い笑顔になるのだった。

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