第37話 実戦的授業①
「ん。そろそろ、いいかも。集合、して?」
実習室で魔法の練習をしていた僕らにロイゼ先生が声を掛けてきた。
そろそろいいってなんだろう。
みんながそんな顔をしながら先生の周りに集まった。
「そろそろみんなに属性ごとの魔法を、教えるから。とりあえず属性ごとに、分かれて」
ここ一ヶ月ほどは「基礎が、大事」という先生に従って属性毎の基本「弾」の練習をさせられていて、飽き始めていた事もあってみんなの顔が輝いたのがよく分かった。
とりあえず各属性の子同士でまとまったけど……僕はどうしたらいいんだろう。
そんな事を考えてたら「イニスはあっち、いって」と言われてしまった。
追い払われたんじゃ……ないよね?
分かれた人達を見てみると水が二人、風が三人、あとは火と土が一人ずつだった。
「まず水……は人を治したりするのが得意、かな? あとは意外と攻撃力も、ある。見てて」
先生はそういうと指を一本立てて、的へ向かって指した。
次の瞬間、右の目が光ったと思ったらその細い指先から線のような物が凄いスピードで飛び出てきて的を襲った。
結果として的はすっぱりと二つに斬られていたのでその攻撃力がよく分かる。
「こんな感じ、かな」
見ていた僕らは思わず「わぁっ」という歓声をあげた。
現象そのものよりも発動まで非常にスムーズだったのが印象的だった。
僕らはまだまだ集中しないと魔法が使えないので、もし先生と戦うとしたら魔法を使う前に首と胴体が分かれてしまいそうだ。
よし、絶対に怒らせないようにするぞと僕は心に誓った。
「次は土……マルグリッドだけ、だね。土は防御バフとかできるし、あとはやっぱりゴーレム、が有名。やってみる、ね」
先生は僕らに離れててと一言呟くと、目を閉じて集中しだした。
さっき簡単に使っていた水の魔法よりも難しい、という事なのかな?
それでも待つ、という程の時間はかからなかった。
先生がカッと目を開くと左の目が光った。
それから少しして地面が揺れるような、気持ちの悪い感覚の後——それは産まれた。
体長三メートルはある岩のような体の巨人が二体、そこに立っていた。
「きゃあっ」
「お、大きい……」
「硬そうですわっ!」
そんな卑猥にも取れるような叫びがクラス中からあがる。
正直いうと僕もちょっとビビっている。
まずなんといっても威圧感が凄い。
そしてあの単眼に無表情の顔が非常に恐怖を掻き立ててくる。
「ゴーレムの魔法はこんな感じ、だよ」
先生はマルグリッドさんに見せたかったんだろうね。
そのマルグリッドさんは、といえば、まるで憧れのようなキラキラした目で先生を見つめている。
「ぜ、是非教えて下さいませっ!」
「ん。でもまだちょっと無理だと、思う。少しずつは増えてるけど、マルグリッドはまだ魔力が少ない、から」
「ええっ、じゃあどうすれば!?」
先生はため息をついて「あんまり勧められた方法じゃない、けど」と断ってからこういった。
「じゃあこの腕輪を、渡しておく」
「これは?」
腕輪をおずおずとした態度で受け取ったマルグリッドさんに先生が答える。
「これは魔蔵の腕輪、だよ。マルグリッドは魔力の問題さえ解決できればSクラスでもいいくらい、だから。それに自分の魔力だけを溜めるならギリギリ反則にはならない、と思う」
「で、ではこれに魔力を溜めておけば私もゴーレムをっ!?」
「うん、まぁ練習は必要だと思うけど。あと、その腕輪の容量一杯まで溜めてもあれより一回り小さいのが一体、かな。あれ燃費が悪いから」
そう、ですの……とマルグリッドさんは落ち込んでいるけどあれより少し小さくても十分凄いからね!?
「ただ一杯まで溜めるのに三日はかかる、と思う」
先生のその言葉にマルグリッドさんは顔を俯かせた。
今日練習できないどころか四日間隔でしか練習できないとなるとさすがにそうなるか。
「まぁ溜めるだけなら属性は関係ないからイニスにでも頼むと、いい。たぶん一時間も着けておけば溜まる、はず」
「そうですの! イニスさんの溜めてくれた魔力が使えるんですのね? では早速着けてくださいなっ」
なんだかさっきまで意気消沈していたマルグリッドさんが急に喜びだしたように見えた。
そして僕が「分かったよ」というと、早速腕輪を装着させられた。
まあ、これでマルグリッドさんが練習できるならいくらでも着けるけどさ。
「あとは火と風……だけど。私は使えないから後で別の教師が来る、からその時に見て」
火と風の属性を持つクラスメイトは「はぁい」と少し残念そうな声を出していた。
さあ、次はいよいよ僕の番、だよね!?と僕は気合いを入れた……のに。
「はい。イニスはこれ、ね」
僕に渡されたのは数冊の本だった。
「これって……?」
「もちろんエリュシオン様の本。おとぎ話から日記の断片をまとめたものまで、ある。貴重だから後で、返して」
「わ、わかりました。けどこれで何をしたら?」
「とりあえず読んでみたら? ヒントになる事が書いてある、かも」
こうして一通り属性の話が済んだ所で先生はいった。
「でも魔法は想像力が、大事。自分の魔法はどう使えるのか、ゆっくり考えてみて」
これが魔法では一番大事なんじゃないかなって僕は直感でそう思った。
「はい、それじゃあ今から実戦練習、する」
「実践じゃなくて実戦……戦う方ですかぁ?」
「ん、そう」
シトリーさんが聞くと先生は頷いた。
「これからチームに分かれてあのゴーレムと戦って、もらう」
「「「ええっ!?」」」
僕らは抗議にも似た声をあげた。
「平気、ここで見てるから。怪我したらここまで来てくれれば、すぐ治せる」
そういう事なら……大丈夫、なのかなぁ?
僕らがそれぞれのチームに分かれると、先生が近づいてきて僕の首に鈴のようなものをつけた。
チョーカーのようになっていてちょっと可愛いな、なんて思ってしまったのは内緒にしておこう。
「これって何ですか?」
「自縛の鈴。魔力を一定以上出すと鈴が鳴って魔力がそれ以上出なく、なる」
「ええ、なんで僕だけ!?」
「イニスは魔力にだけ頼って戦っても意味がない、から。戦い方を工夫、して?」
なるほど、確かに魔力を放出するだけしてゴーレムを倒せたとしてなんの経験にもならない、か。
納得した僕は分かりました、と返してゴーレムと向かいあう。
うう、やっぱり向かい合ってみるとあの大きさはちょっと反則だね。
お互いのチームがゴーレムと向かい合った所で、先生の「すたーとー」という気の抜けた掛け声がかかって、僕らとゴーレムとの戦闘が始まった。
「僕が先頭でみんなを必ず守るからッ!」
そういうと、僕は真っ先にゴーレムとみんなの間に立って魔力を練る。
もちろんこの間もゴーレムから目を離したりなんかはしない。
毎日回しているからか、前から比べると軽く魔力を扱えるようにはなったけど、まだ少しばかりの集中は必要なのがもどかしい。
けれど、さすがに練習用だからかゴーレムは僕の状況が整うのを待っていてくれた。
「さぁどこからでもこいッ!」
僕は表情の見えない岩の巨人へ向けて吶喊の声をあげた。




