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第34話 F = kxxxxxx

 学園の門にはいつものディーラトンさんが詰めていた。

 出ていった時もそうだったけど、いつも大体この人だから顔なじみになりつつある。

 だからそんないつもの調子で微笑みながら近づいていくと、普段の態度からは考えられないような固い表情で僕の前に立ちふさがった。


「学園に御用でしょうか?」


 ああ、そうか。今の僕は男なんだった。


「ええと……僕はカイといいまして、友人に会いに来たのですが取り次いで貰えますか?」

「相手の名前と学年、クラスを教えて下さい」

「名前はリッカ、一年のえ……と、クラスはまだ聞いていないです」


 僕が伝えると、ディーラトンさんは門衛の詰め所に戻って何やら魔導具に話しかけている。

 もしかしたら声を届けるあの魔導具かもしれないね。


「今は寮にいないようです。言付けをしますか?」


 詰め所から出てきたディーラトンさんは残念そうな顔を作ってそういった。


「はい。では……王都に出て来たので明日会いたい、と」

「承りました。お泊りの宿までお返事をお届けしますか?」

「いえ、大丈夫です。明日また直接来ますので」

「分かりました」


 明日が休みなのは分かっているから、どっちにしても話すのは明日にしようと思っていたしリッカがいなかったのは丁度良かったかもしれない。

 でも何でいないんだろう?

 僕はちょっと心配になって、意味もなく早足でデルソルへ戻った。


 裏口のドアを引くと——開いていた。ロウさんありがとう。

 僕は男用の服を布袋に詰めて、軽く化粧をしたら今度はメイドさんの格好になる。

 アルバイトといって学園を出たからにはちょっとは働いて帰らないとね。

 コレットは怒るかな?そう思いながら店に出ると僕はすぐに笑顔を作った。


「いらっしゃいませ、ご主人様〜っ」


 どうもこの台詞にも慣れてきた僕がいて、どちらかというとさっき男の子の格好をしていた時の方が違和感があるくらいだった。

 慣れっていうのは怖いものだね。



 アルバイトを終えて寮に戻ったら、やっぱりコレットがぷんぷんしていた。

 部屋に入ると無言でほっぺたを引っ張られたからビックリしたよ。


「ご、ごめん。そういえばこれ貰ったから一緒に食べよ?」

「……次からアルバイトに行く時は一緒、だよ?」


 ロウさん特性の山苺のケーキを差し出して、どうにか許しを得た僕だった。


「あと、明日は僕の故郷から友達が来るからアルバイトはなしでもいい?」

「うん、いいよ!」


 コレットはケーキのおいしさに自然と頬が緩んでいた。

 よし、これからも何かあったらロウさんのデザートに頼ろう。

 そう思うくらい甘かった。



 次の日、僕は早めに支度をしてお昼前に寮を出た。

 そしてデルソルに行くと……よかった、まだ営業前だ。


「おはようございます」


 僕がそういいながら入っていくと、ロウさんはどうやら今日の仕込みをしている所のようだね。


「おう。確か今日も、だったよな?」

「はい。夕刻すぎに裏を開けておいて貰えると……」

「分かってるよ、任せておけ」


 うーん、何から何までロウさんに頼る事になっちゃってるな。

 本当に知り合えて良かったな、と僕はブロスさんにも感謝をした。


「じゃあ行ってきます」


 男に着替えた僕は、いそいそと学園へ向かった。

 学園前に着くと、ディーラトンさんは僕の事を覚えてくれていたようで、顔を見るなり魔導具を操作してくれた。


「今連絡したのですぐに来ると思いますよ」


 そう言われたので待っていると——来た。

 ちょっと小走りでこちらへ駆けてくるのは間違いなくリッカだ。


「ちょっとカイ、寂しくなるのが早いんじゃないの?」

「ごめんごめん」

「……うそ、嬉しい」


 リッカと会うのは昨日ぶりだけど、この距離感となると久しぶりで。

 二人の間にはちょっとだけ照れがあってそれがむず痒かった。


「じゃあまずは王都を案内するよ、といっても私もそんなに知らないけどね」


 リッカはそういうとぺろっと舌を出した。


 お昼にはまだ少し早い時間だからか、街は少し落ち着いていたから僕とリッカはゆったりとした歩調で街を歩いた。

 その途中でハルトの事を聞いて驚いたふりをして、後で面会に行くことにした。

 ハルトの奴きっと驚くぞ。


 僕らは散歩をしながらいくつか雑貨屋などを見て、それから少し町外れの軽食堂へ入った。

 ここならそこまで高くないだろうからね。



「……でね、あたしってばすぐに魔法が使えるようになっちゃって。だからSクラスのトップチームに入れてもらえて……」


 リッカの話は尽きない。

 明るく楽しそうに話すその姿が僕には——痛いよ。


「ねぇリッカ……無理してない?」


 だから僕はあえて真っ直ぐにそう聞いた。

 あまり綺麗とはいえないお店の中には僕らしかいなかったから沈黙が逆に響いていた。

 コップの中の氷がカランと鳴って、それが合図となったかリッカは泣きだした。


「あのね。カイもハルトもいないとあたし弱虫なんだって、分かった」

「うん、何があったの?」

「魔法の授業ですぐに魔法が使えるようになって。そしたら偉い家の子に『私は魔法が使えるまで家庭教師についてもらって半年もかかった』って言われて……」

「うん、さすがリッカだね」

「それで目をつけられたのか事あるごとにあたしに嫌がらせをしてくるの……制服もさ、燃やされちゃったんだ」

「……うん……。でもリッカなら……偉い家の子でもやり返すかと思ってたよ」

「そう出来たら、いいんだけどね。その子の家の領地っていうのに私達の村も入っているらしいの。生意気な事いったら村ごとなくしてやるって……そんな事言われたらあたしもうどうしていいか……」


 僕はあまりの怒りに叫びだしそうになった。

 なんとか机を拳で叩く事で怒りを沈めたけど……まさかそんな事までしてくるとは。

 今から呼び出して殴ってやりたいくらいだ。


「……でもね」

「でも?」

「昨日、イニスって子がその偉い家の子に勝負を挑んだの」

「し、勝負って?」

「討伐戦っていうんだけど、今度どのチームがモンスターを多く倒せるかっていう授業があって、その数で競うんだって」

「へ、へぇ……」


 僕は内心で冷や汗をかきながらリッカの話を聞いていた。


「もしイニスちゃんが勝ったらその子、謝るんだって。あんなにいつも偉そうな態度の子がみんなの前で頭を下げてる所を想像したらあたしおかしくなっちゃった」

「そ、そうなんだ。じゃあイニスって子が勝ったらリッカへの嫌がらせもなくなるかな?」

「そうだといいんだけど……でも、あたしその子と同じチームだからさ」


 やっぱりメリンダが言っていたチームの一員というのはそういう事だったんだね。


「それにイニスちゃんはFクラスっていう一番下のクラスだし、負けたら処刑っていわれてて……だからあたし、手を抜こうかなって思ってるんだけど」

「ダメだよ。そんな事をして手を抜いていたのがバレたら大変な事になりそうだもん」

「でもあたしが倒した一体のせいでイニスちゃんたちが処刑になったら……」

「ぼ……く、じゃなくてイニスちゃんならきっと大丈夫だって!」

「そう思うしかない、かなぁ」


 どうやらリッカはかなり参っているようで、ぐずんという鼻をすする音だけが店内に響いている。

 さっき机を叩いたからなのか、リッカが泣いているからなのかは分からないけど、店主のおじさんがこちらをチラチラみていてちょっと居心地が悪くなったので僕はリッカに「出よ」といった。

 お金を払う時に、僕は気になっていた事をついでに聞いてみる事にした。


「そういえば制服を燃やされたっていってたけど替えはあるの?」

「ないよ。でも魔導着があるから大丈夫だよ」

「でも燃やされたのに学園で交換とか新しいのをくれたりはしないの?」

「うん。二着目からはお金がかかるんだって。あたしはそんなお金持ってないからさ」

「そっか。僕も今は銀貨しかないから……足りない、よね」

「……うん」

「あっ、そういえばブロスさんが王都についたら是非訪ねてくれっていってたお店があるんだった。良かったら行ってみない?」


 もし、リッカさえよければ僕らと一緒に働けばいいんじゃないか。

 僕はそんな事を思いついた。

 そうなるとまたロウさんに頼ることになっちゃうけど……。ごめん、ロウさん。

F=kx

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