表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/61

第33話 無能の理由

 医務室を出た僕らはそのまま寮に向かって歩いた。

 どうやら僕の寝ている間に今日の授業が終わってしまっていたようだったからね。

 その途中で、せっかくだし寮で今後についての話し合いをしようという事になった。



「ここがマルグリッドさんとアイヴィさんの愛の巣なのですね」

「うん、この部屋であんな事やこんな事をマルちゃんと教えあってるんだー。へへ」

「誤解を招くような言い方はやめてくださいな」

「あ、あんな事やこんな事っていうのは何なのですかっ!?」


 アイヴィの発言に珍しくセイラさんが興奮している……前々から思っていたけどセイラさんはどうもリオナ先輩と同じように、あの花の香りがするんだよね。


「マルちゃんは私にマナーとか作法を教えてくれて、私は裁縫を教えてるんだよ」

「…………ああ、そう」


 続いていた話に耳を傾けていると、セイラさんの上がりに上がった感情の昂りが一気に最底辺に落ちたのが分かった。まったく凄い落差だ。


「まぁとにかく二人とも奥まで入ってくださいな」


 マルグリッドさんに促されるままに、僕とセイラさんは部屋に入った。

 部屋の中は……僕らの部屋と大体同じだね。

 衣装棚が一つ多いかな?きっと持っている服が収まりきらなかったんだね。


 部屋の真ん中で丸くなって話を始めると、まずマルグリッドさんが口を開いた。


「さて、これからの事ですけれど……私達は是が非でも討伐戦に優勝しなくてはならなくなりましたわ」

「ごめんなさい……」

「お姉様のせいではないですから」

「うんうん、イニスは気にしすぎだよ。マルちゃんのお父さんが馬鹿にされた時は私もカチンときちゃったもん」


 二人が慰めてくれるけど……僕は怒りに我を忘れるといつもこうだよ。

 ちゃんと反省しているつもりなんだけどな。


「あ、そういえば僕が追加の条件を突きつけた時あの子はなにか考え込んでたよね? あれは何だったんだろう」

「マルちゃんのお父さんにも謝ってっていった時?」

「うん。凄いおしゃべりだったのに急に黙ったからビックリしたよ」

「あれは……ですね。イニスさんがお父様へ公式に謝罪をしろ、といったからですわ」

「えっと、それはどういう……?」


 僕はいわれている意味が分からなくて尋ねかえした。


「無能侯爵といった事を謝る……つまり有能、とまではいかなくても無能ではないと公式に認めないといけなくなりますわ」


 うん、まぁそれはそういう事だろうね。むしろ是非そうして欲しい。

 僕は首肯する事で先を促した。


「お父様は無能、というよりは優しすぎるのです。領民にかける税は極限まで軽くして、自分たちにかける(ぜい)も出来るだけ抑えていますから」

「あら、それは素晴らしい事ではないですか?」

「周りから見ればそれで領民の武装蜂起を恐れている軟弱貴族と見られている部分はあるのかもしれませんね。けれどお父様が目指しているのはその先なのです」

「その先っていうと?」


 僕が聞くとマルグリッドさんは「ふぅ……」と一つ息を吐き、間をおいてから口を開いた。


「お父様は……貴族制の解体を夢見ておりますの」

「ええっ!? マルちゃんのお父さんってば大胆だね」

「自分が侯爵という高い地位にあるのに、ですか?」


 僕はそういう部分になると意味がわからなくなっちゃうから驚いた顔をしておいた。

 あとでアイヴィあたりにでも聞いておこう。


「ええ、最終的には貴族も平民も平等な合議制という体制にしたい……と」

「つまりそれって……」

「王政への謀反、に近いかもしれないですわね」

「公式に謝罪をするとその合議制に賛成という票を入れている、と見られる可能性があるという事ですね?」

「少なくともメリンダはそう見られる()()()を恐れた、そういう事だと思いますわ」


 どうやら僕が放った一言はなかなかクリティカルな所を叩いたらしい。


「でもさぁ……という事は、口では私達が勝つことなんて万に一つもないって言ってたけど負ける可能性もそれなりにあるって考えてるかもね」


 アイヴィが屈託のない笑顔でそういった。


「それは……多分イニスさんの使った魔法を見たからですわね」

「確かにあの時の驚いた顔はおかしかったね」

「ええ、余裕の笑みが保てなくなっていましたもんね」


 三人はそういって笑っている。

 僕は必死でよく見ていなかったけど、少しは驚かせられたみたいで良かった。


「でもあそこで見せるべきではなかったって反省してるんだよね」

「そうですわね、何も出来ないFクラスと油断させていたほうが良かったかもしれませんわ」

「向こうのチームが油断しないできたら私達勝てるのかなぁ?」


 アイヴィが不安になる気持ちは僕もよく分かる。

 だからギリギリまで見せたくなかったんだ。

 そういえば向こうのチームといえばリッカもチームの一員、というような事を言っていたような……それに「また燃やす」なんて言ってたんだった。

 リッカは大丈夫だろうか?でも僕が聞くのは変だし……あっ。


「ねぇ、そういえば明日ってお休みじゃなかったっけ?」

「そうですよ、お姉様。一緒にデートでもします?」

「ごめん、それはまた今度で! ちょっと用事ができちゃったから今日は帰るね!」


 僕は「こ、今度ならいいの……?」というセイラさんの呟きを聞かなかった事にして、みんなに一言断ると自分の部屋へ戻った。



「コレットは……いないのか、良かった」


 僕はつい安心して息と共に吐き出した。

 それから私物の入った布袋を持つと、中身を確認した。大丈夫だ。

 コレットに『アルバイトに行くね』とメモを残してから学園を出た。



「いらっしゃ……じゃなかった、イニスさんも今日は出勤?」


 お店にいたミーシャちゃんが僕に声を掛けて来るけど、あんまりいいタイミングではないな。

 僕はそう思いながら「お疲れ様」とだけ返事をしてお店の裏に入っていった。


「おう、どうした? イニス、今日も働いてくれるのか?」

「今日は更衣室を借りにきました。男に——戻ります」


 僕はそういうと更衣室に入って布袋から男用の服を取り出して着替えた。

 着替え終わると、化粧を落として……最後に帽子を被れば変身は完了だ。


 男になった僕を見て、ロウさんは驚いて目を見開いていた。

 ロウさんが驚くならとりあえずは大丈夫そうだね。


「見違えるもんだなぁ……。ま、事情があんだろ? なら正面からは出ない方がいいだろう。裏から出な」

「ありがとうございます、帰ってくるのでそのまま鍵を開けといて貰えますか?」


 僕はロウさんにそうお願いすると、デルソルを出て魔女学園へ向かった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ