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第31話 理不尽な条件

「疲れましたわぁ……でもこの気持ちはなんていうのかしら——」

「えっと、充実感?」

「ああ、それですわっ! 自分でお金を稼ぐのはこんなに大変で、こんなに気持ちいいのですね」


 前を歩く僕の後ろでマルグリッドさんとアイヴィが今日どうだったのかお互いに言い合っている。

 どっちが多く注文を取った、どっちがより働いたなんてどうでもいいじゃないかと僕は思うんだけどね。


「次はちゃんとアルバイトの許可を取って長い時間働きたいですわっ!」

「え、今日だけじゃなかったの!?」


 てっきり今日だけのお手伝いをしてくれたのだとばかり思っていたから驚いて振り返った。


「私もお姉様が一緒ならいつでも行きたいです!」

「私もー。でも今日はあれだけで銀貨五枚も貰っちゃったけどいいのかな?」

「いいに決まっていますわ! あのオムロウルっていうのはあの大きさで銀貨二枚ですのよ? 今日だけで何回注文をされました?」

「うーん……数えられないくらい」

「でしょう? さっきの時間だけで考えても売上として金貨五枚は下りませんわっ!」


 僕はあんまり計算が得意じゃないから気にしないようにしていたけど、それを聞く限りロウさんはなかなかうまくやっているみたいで安心した。

 無理をしてお金を貸してくれたんだったら申し訳ないもんね。

 その時に借りた金貨五枚はコレットと二人で返済している事もあって、あと二回くらいアルバイトをしたら返し終わるらしい。

 僕としてはもう少し続けてもいいかな?なんて思っているけど……それは後でコレットに相談してみよう。

 コレットだったらやりたいっていう気がするけど。


「労働の後はお腹が空きますわね!」

「そうだね、じゃあ寮に戻ったらみんなでご飯を食べようか」


 僕がいうと、みんな賛成してくれた。

 今日の夕食はなんだろうな。僕はウキウキしながら帰り道を歩いた。



 * * * * * *



「イニス……寝てる? もしかして、凍りたい?」

「いやっ、間に合ってますっ!」


 僕は昨日みんなで働いた翌日……つまり今日の朝も早起きをして寮を掃除した。

 もうパンツもブラジャーも知ったことか!という気持ちでピカピカにしたら学生課の先生がひどく感動してくれて、掃除当番の罰は特別に今日で終わりにしてもらえる事になった。

 その代わり掃除力を見込まれて『女子寮掃除係長』に任命されたわけだけど……。

 そっちの方が掃除当番の罰より大変な気がするのは気のせいかな。


 まぁそういう理由(ワケ)で僕は”眠い”のである。

 でもそんな事をいったところで授業は続くんだけど。


「わかった。約二名ほど座学が嫌いな人がいるみたい、だから。今日は実践的授業に、変更。喋るの疲れたし」


 どうやら座学が嫌いな二名っていうのは僕とロイゼ先生みたいだね。

 でもみんなやっぱりそっちの方が良いようで、僕らはどこかウキウキしたような雰囲気で実習室に向かおうとした。


「あ、ちょっと待って。第一実習室はSクラスが使用中、みたい。だから第二実習室に、する」


 この前使った部屋はSクラスが使用しているのか……ん、Sクラスかぁ。


「先生、もし可能なら————」

「分かった。それもいい、かも」



「まぁそれは構いませんが……。Fクラスが見学した所で勉強になりますかねぇ」


 そう、僕が提案したのはSクラスの実習の見学だった。

 あのメリンダの実力が見れるかもしれないし、リッカだっているもんね。

 Sクラスの先生は了承をしてくれたものの、メガネをくいっとあげて冷たい態度を取っていたので少し嫌な気分になった。

 でもとりあえずは見学ができそうだから我慢をするしかない。



「では先程教えたように、魔力をよく練り上げて下さい。貴女たちは選ばれたSクラスなのですからその名に恥じないように! しっかりと!」


 授業を見ていると、のんびりとしたロイゼ先生とは違ってかなりのスパルタだった。

 ふとリッカを見ると魔力の操作が上手く出来ないのか、沢山の汗をかいて苦しそうだ。

 あんな顔を見ていると僕の方まで苦しくなってくるよ。


「メリンダさん、いいですね! はいリンゼさんもその調子です。リッカさん! もっと頑張れませんか!?」


 先生の檄がとんでリッカは「はいっ!」とその身を固くした。

 みんなの魔力が十分に練れたのを見て取ったか、先生が「発動ッ!」と短くいうと端の子から順に魔法を撃ち出した。

 その威力と狙いの正確性は僕らFクラスとは比較にならないものだった。


「ねぇイニス、私ほんとうにあのクラスの人と競えるのか不安になってきちゃったよ……」


 アイヴィがそういうのも無理はないかもしれない。


 最初に水属性の子が撃った水弾は、今も的を包み込み閉じ込め続けている。

 土属性の子が撃った土弾は途中でいくつもの礫にわかれて的に細かい破片をめり込ませている。

 そして圧巻だったのはやはり——メリンダだった。

 腕を一振りしただけで巻き上がった炎は竜巻のように的へ向かっていき、左右の的と合わせて三つの的を同時に燃え上がらせた。

 そしてその炎は的を固定してある鎖が溶けちぎれるまで燃え続けていた。


「はんっ……おいイニス。私の魔法を見てたか? どうだ、Fランクのお前がSランクの私に勝てるわけがないだろう。ほらほら、お前の魔法も私に見せてみろよ」

「…………辞めておくよ。今はSクラスの授業を見学している立場だし。それに僕は魔法を飛ばす事が出来ないからね」

「はぁ!? そんなんで私に挑戦するなんて……やっぱりFだけあって無能なのか。興ざめだね。ほら、次はリッカの番だよ! ウチのチームの一員としてちゃんとやらないと()()燃やすからね?」


 今こいつ(メリンダ)はなんていった? また、燃やすだって……?

 よく見ればリッカは一人だけ制服を着ていなかった。

 もしかして……こいつが!?


 リッカは「早くしなっ!」と言われ、ビクッとしてからおずおずと両手を前に突き出す。

 その腕から放たれた炎は美しかった。

 リッカはいつの間にこんな事が出来るようになったんだろうか。

 やっぱりSクラスに選ばれるだけの才能があったのか。


 でも……それでも僕にはその炎が泣いているように見えた。

 だけど僕は……いや、だからこそ僕は……歯を食いしばって耐えた。

 叫びだして殴り掛かりそうな自分をおさえつけた。


 ここで自分の魔法を見せるわけにはいかないから。

 きちんと後で勝って負けを認めさせる為に、ここは涙と炎を飲み下すしかなかった。

 僕の頭の中には憎悪しかなくて、でもそんな自分じゃいけないって思っている自分もいて——もうぐちゃぐちゃだよ。


 僕が”そんな顔”をしていたら、そっと背中に手が置かれた。

 その三つの手の温もりを感じたから僕は立てるんだ。

 だから全員の前でもう一度宣言してやるんだ。


「メリンダ。次の討伐戦で僕たちが勝ったらみんなの前で負けを認めて謝ってもらう。君が公爵令嬢だろうが神様だろうがそんな事は一切関係ない。必ず謝らせるてやるッ!」


 それを聞いたメリンダは一瞬呆気にとられた顔をして……そして獣のような笑い声を上げた。

 しばらくの間、笑い続けてそれが不意に途切れると口を開いた。


「じゃあ私が勝ったらお前たちのチームは全員処刑でいいね? それくらいでようやくお互いの天秤が釣り合うってもんだ。……それでいいよなぁ?」


 そんな獣の唸り声のように突きつけられた条件は、この場にいた誰もを凍りつかせた。

 理不尽すぎる<謝る>か、<死ぬ>というアンバランスな条件に僕は……僕らは——。

これで人物・設定を抜きにして10万文字達成です!

お読みいただいている皆様のお陰で書けました。本当に。

ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


評価・ブクマがまだでしたらこの機会に何卒……。

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