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第30話 路地裏の天使たち

 僕が教室で魔法を使って先生を怒らせてしまったからか、はじめからそう決めていたのかは分からないけど、今日は魔法の実践的授業は行われなかった。

 つまり授業は座学、座学……そして座学だ。

 もっと練習して早く強くなりたい僕はちょっと焦っちゃったけど、仕方ない。

 今日は早起きだったからあくびが止まらないのも、きっと仕方ないんだ。


「はぁ、眠かったぁ……」

「お姉様ったら、居眠りして机に頭をぶつけそうになってましたよ」

「えぇ、僕そんなに寝てたかなぁ? っていうかお姉様って呼び方は……まぁいいや。今日はそんな気力も残ってないかも」


 僕が机にぐたーっと突っ伏しながらセイラさんと話していると、マルグリッドさんとアイヴィが揃ってやってきた。


「イニスさん、聞きましたわよ! ()()メリンダさんに喧嘩を売ったとか!」

「あの、ってそんなに有名なの?」

「有名も何もあの人は侯爵家の娘ですわよ……まさかイニスさん、そんな事も知らずに?」

「うん……知らなかったよ。侯爵って事は物凄く偉いっていう事、だよね?」


 僕は自信なさげにそういった。

 でも村にはそういう身分みたいなものがなかったし、本当に序列っていうのが分からないんだよね。


「ええ。私の家は伯爵家ですから小さい頃からあの人の事を知っていますけれど…………ええ、イニスさん。よくやりましたわっ!」

「僕、褒められているの!?」

「学園にいる間はもちろん身分の差は適用されませんけれど、それでも将来の事を考えると誰もメリンダさんには逆らえませんわ。なのに直接喧嘩を売るだなんて。さぞ驚いたでしょうね! ふふ、痛快ですわ」

「そ、そんな人に喧嘩を売っちゃったんだ……でも、後悔はしてない、かな」


 そう、もしあの人が王女様であっても僕は同じようにしただろうと思う。

 だって偉いからって人を傷つけていいわけがないよ。


「甘い……ですわね。でもそれもイニスさんのいいところ、ですわ」


 貶されているのか褒められているのかよくわからないけど、マルグリッドさんにはありがとうといっておいた。


「でも私達ってあのメリンダさんのチームと競う事になっちゃったんだよね?」


 アイヴィがちょっと困ったような顔でそんな事を言うけれど、あれは僕と彼女との勝負で……いや、待てよ?

 これはチーム戦なんだ。そんな事も忘れて僕は——。


「ごめん。チーム戦だっていうのを忘れていたよ。みんなに迷惑をかけちゃうよね。僕、今から謝ってこようかな?」

「何を……何を言っているんですかっ! チームなんですからお互い様ですよ。初日から落ちこぼれ落ちこぼれなんて言われてムカっとしたのは私たちも同じです! それにお姉様と私達ならきっと勝てますっ!」


 顔の前でギュッと両手を握りながらセイラさんが言ってくれた。


「そう……ですわね! 目標は大きく。私達は優勝を狙いますわよっ!」

「ごめん……じゃないね。みんな、ありがとう」


 そういって僕らは四人で手を握りあった。

 うん、なんだか団結力が増したような気がするね!


「それじゃあ今日はみんなで一緒に練習する?」

「アイヴィ、ごめん。今日はちょっと無理なんだ……」

「あら、イニスさんは何か予定がありますの?」

「うん、ちょっとアルバイトで——」



 * * * * * *



「——っていう訳でみんな着いてきたわけね?」

「うん、そうなんだ。ごめん、コレット」


 今、デルソルに向かっている僕とコレットの後ろにはマルグリッドさん、セイラさん、アイヴィという僕のチームメンバーが勢揃いしていた。


「まぁ良いんじゃないの? 邪魔をするって訳じゃないんだろうし」

「そうだね、どういう仕事をしているか見たらすぐに帰るっていってたから……」


 そんな事を話しながら歩いているとデルソルが見えてきた。

 あれ、なんか看板がピンク色になっているぞ!?

 それにお店の前には行列が……え、あれが本当にあのデルソルなの?

 訝しみながら近づいていくと、並んでいたお客さん達からどよめきに似た声が上がった。


「この前の給仕さんは魔女学園の子達だったのか!」

「おいおい、後ろを見てみろよ」

「何ィ!? し、新人だと……?」


 どうやら制服を着たままだった僕らを見て、学園生だと気付いたらしい。

 というか後ろの三人も新人だと思われているよ……訂正しづらいからとりあえずお客さんに微笑みつつお店に入ってみようか。


「いらっしゃいませ、旦那様っ……っと。お嬢様でしたかっ! 大変失礼致しました!」

「い、いや……僕らはお客さんじゃないんだけど……ロウさんはいますか?」

「マスターは裏で料理を作っているはずです。案内しますか?」

「マ、マスター? えっと……大丈夫、です」


 店内に入ると内装が変わっており、さらに知らない子が接客をしていた。

 奥の方にいるのはきっとミーシャちゃん——手を振ってくれたからやっぱりミーシャちゃんみたいだ。

 満席の店内を進んで店の裏に入るとそこにはロウさんがいた。

 良かった、マスターなんて呼ばれていたからびっくりしちゃったよ。


「おっ、イニスじゃねえか。それにコレットちゃんも」

「ロウさん、お店大分変わっちゃってますけど……どういう事ですか?」

「どうもこうもねぇ! もう俺は吹っ切れる事にした。時は来た、それだけだ。イニス達も今日は冷やかしに来たんじゃないだろ?」

「僕らはアルバイトが出来るようになったっていう報告でしたけど……やっぱり少し働いていきます。いいよね?」


 僕はコレットにそう聞くと「もちろん、私はそのつもりよ」といってくれた。


「ま、まぁこんな感じのお店だよ。僕らは働いていくからみんなはもう帰っ……て?」


 振り返ってついてきた三人の方を見ると……なんだか目がキラキラしている。


「す、素晴らしいですわ」


 マルグリッドさんの呟きに他の二人も大きく頷いている。


「マスターっ! 私達三人も是非雇ってくださいな!」

「ちょ、ちょっと……マルグリッドさんは侯爵令嬢でしょ。こんなところで働いて平気なの?」

「こんなところとはなんだ!」


 僕の軽率な言葉選びにロウさんが憤慨しているけど、まあそれは気にしなくいいよね。


「ええ、なんの問題もありませんわ。そもそもバレなきゃいいのよ」

「私もできたら着たい……いや、働きたいですっ!」

「私もお姉様と一緒なら是非に」


 三人のお願いにロウさんは満面の笑みを浮かべて親指を立てた。


「おう、こちらこそ! 是非お願いしたい所だぜ。今はミーシャの友達が入ってなんとかなってるけど根本的に女の子が足りてねえからな」


 三人はヤッターと大喜びしているけど……本当にいいのかなぁ。


 店の奥に進んでいくと女の子が服を着替えるスペースが用意されていた。

 この前はなかったんだけど……なんていうか、どんどん進化しているね。

 制服も何故か何着も用意されていたし、もっと沢山の子に働いてもらう予定だったのかもね。

 お陰で皆に制服が行き渡ったのは良かったけど。


「お姉さま、どうですか?」

「わあ。セイラさん、とっても綺麗だよ」


 セイラさんは清楚な感じで、メイドさんというよりはシスターのようだ。

 大きすぎず、小さすぎずの胸もその清楚さに磨きをかけているように見える。


「あら、私はどうですの?」

「マルグリッドさんも美しいよ」


 マルグリッドさんはまさにお嬢様といった感じで、銀色に近い色のくるくると巻かれた髪が上品だ。

 ただメイドさんというよりはやっぱり仕えられる側といった雰囲気がにじみ出ている。


「…………」

「アイヴィも可愛い、可愛いからじーっとこっちを見るのやめてくれる!?」


 アイヴィは背が小さいからちょっと丈が長いような気もするけど、明るい見た目とその笑顔は皆を元気にしてくれそうだ。

 お店の給仕をするという仕事を考えると、一番似合っているかもしれないね。


 そんな感じで僕らは褒め合ったり、大騒ぎしたりしながらもなんとか着替え、未だに満席のお店に出ていった。


「おお!? 天使達が出てきたぞ!」

「なんてこった、俺は死んじまったのか……」

「でも天国がこんなに居心地がいいならそれでも一向に俺は構わんっ!」


 お店にいるお客さんが一斉に「うん、うん」と頷いたのがちょっと怖かったけど。

 僕も含めて女の子が一気に増えた事が功を奏したか、追加の注文が殺到しだした。


「こっちにオムロウル1つ! そっちの金髪の子にトマトソースでハートを書いてもらいたいっ!」

「俺はオムロウル……5つだ! 全員にそれぞれアランさんって書いて欲しいんだっ」


 オムロウルってなんだろう!?と思っていたらどうやら卵の薄焼きで”何か”を包んだものらしい。

 イニスちゃん書いて、とトマトソースを渡された時にはじめて知ったんだけど。

 料理もお店に合わせて進化してるなんてロウさんはなかなかやり手だな。


「えっと、アランさん(はぁと)っと……これで大丈夫かな?」

「うん、大丈夫だよ!」


 デルソルのあまりの進化に戸惑いつつ、後輩のはずのミーシャちゃんに教えてもらい、料理を運び続けたのだった。

開始二週間でブクマ100件をいただくことが出来ました。

ありがとうございます!

二章はイラッとさせる事もあるかもしれませんが、気持ちいいところに着地する予定ですので引き続きよろしくお願いします。

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