第29話 宣戦布告
大浴場から命からがら脱出した僕は疲れ果てていた。
もはや今日の授業を受ける気力もないほどだったけど、2日目から休むのも気が引ける。
という事で、なんとか部屋に戻って学校の用意を始めた。
「イニス、おはよ」
僕の準備が終わる頃になってコレットが起きてきた。
特別コレットが遅いわけではなくて、今日は僕が早かっただけだね。
「朝の掃除は終わったのぉぉー? ……ふあぁ」
コレットは大きなあくびをしながら僕にそう聞いてくるけど……そういえば結局、大浴場もランドリールームも掃除できなかった事を思い出して、苦い顔を返す事になってしまった。
帰ってきてからやりたいけど今日はデルソルに行く予定だし……明日も早起きしてまとめてやるしかないか、と僕は一人溜め息をつくのだった。
「じゃあねー。終わったらデルソルに行くからお部屋で待ち合わせね!」
「うん、分かったよ。今日も頑張ろうね」
朝食を食べた僕らは一年の教室がある二階で別れた。
僕のFクラスがあるのはここ、中央階段から反対側にいった端だから……やっぱりちょっと差別されてるみたいで嫌になるな。
次の討伐戦では絶対に見返してやるぞ、なんていう僕のその”意気込み”はすぐに飲み込む羽目になった。
「おはよう」
そういいながらクラスに入った僕の目に飛び込んできたのは、赤い髪——例の子だ。
「はぁ……。なんで君がここにいるの? もしかして、まだ僕らを馬鹿にし足りないの?」
「やあやあ、おはよう。ようやく来たか。お前はイニスっていうんだって? なかなかクラスメイトからの信頼が厚いみたいだなあ」
信頼?と思って部屋を見渡すと、先に来ていたクラスメイト達が僕のことを期待に満ちた目で見つめていた。
いや、僕は魔法騎士になりたいんであって皆を守る騎士になるんじゃないんだけど……昨日からどうもクラスメイトからの視線に熱を感じてしまうんだよなぁ。僕の勘違いだろうけどさ。
「そいつらに『次の討伐戦ではイニスさんがあなたに勝つから』なんて言われちゃ顔を見るまで帰れねえだろ?」
「いや、そもそも何をしにこんな廊下の端っこまで来たの……?」
「朝からF子ちゃんたちの顔を見たら今日も頑張ろうって思える気がしてね!」
なんてゲスい考えなんだ……よーし、今回こそはガツンと言ってやらないとね。
「落ちこぼれって君は言ってたけど僕らはみんなもう魔法だって使えるんだからね? 君たちSクラスの子とも対等以上に競えるはずだよ」
「はっ、魔法なんてここに入る前から使えるつーの。お前らのいう”使える”ってのはどうせ魔力を飛ばす程度だろ? ほら、見てみなっ」
そういうと赤髪の子は自分の腕に炎を灯らせた。
その炎はどんどん勢いを増し、さらには鞭のように長く伸ばされていく。
「お、おいっ! こんな所で、危ないじゃないか。 ……っ!」
「ははっ、あたしを倒すんだろう? この炎の鞭くらいは出来ないとねえ」
赤髪の子は口元に笑みを浮かべながら炎の鞭を振り回しはじめた。
「きゃあっ!」
「いやっ、熱いっ!!」
近い位置にいたピュリエさんとシトリーさんが悲鳴をあげているのが見える。
それを目にしてしまった僕は……何かがぷちりと切れる音を聞いた。
「……やめろよ」
「あん?」
「やめろって言ってるんだよっ!」
僕は怒りに任せて自分の体から魔力を放出させた。
そしてそのまま炎の鞭を掴むと力任せに——引きちぎった。
ちぎれた鞭は僕の体の光に触れるとジジッという音を上げて消えていく。
「なんだってっ!? そんな事……出来るはず……」
「いいよ、君からの”挑戦”は僕が受けるから。だからこのFクラスの子に危害を加えるな。あと、これ以上ここにいたら僕もやり返さないといけなくなるから出ていってくれるかな? ここはFクラスだからね」
「…………ふうん、いいねぇ。あたしはメリンダ……メリンダ=フォン=リズバレット。討伐戦が楽しみになってきたよ。……邪魔したね」
そういって赤髪の子……メリンダはFクラスを出ていった。
全く、朝からなんだっていうんだ。
「イニスさーん」
「イニスちゃーん」
メリンダがクラスを出ていくと、ピュリエさんとシトリーさんが僕の元へ駆け寄ってくる。
二人ともちょっぴり涙目だ。怖かったんだろうな。
「二人とも大丈夫だった?」
「うん。私達をかばってくれてありがとう」
「でもイニスちゃんったらあんな事言っちゃって平気?」
「う、うん。ついカッとなっちゃって。まぁ討伐戦はモンスターを倒した数で競うみたいだから……平気なんじゃないかな」
「それだったらいいんだけど。でも怒ってくれて嬉しかったっ」
ピュ、ピュリエさん……勘違いしてしまいそうだから抱きついてきて顔を赤らめるのはやめて欲しいんだけど。
なんてクラスメイトには強く言えない僕はやっぱり情けないのかな。
「……あのう……」
「ん? シトリーさんどうしたの?」
「私の事、シトリーって呼んでもらえませんかっ!?」
「ず、ずるいよ! シトリー! 私もピュリエって呼んで、欲しい」
「う、うん。二人とも、わかった、わかったから少し離れてもらえると……」
僕がそういうと二人はようやく離れてくれた。
ふう、熱い熱い。顔が熱いなぁ。
「皆様おはようございます……ってなんかこの部屋熱くありませんこと!?」
マルグリッドさんが部屋に入ってすぐにそう叫ぶほど熱いこの教室の温度は、ロイゼ先生が来て溜め息とともに氷の魔法を使うまで続くのだった。
「何があったかよく分からないけど……教室で魔法を使うの、禁止」
「はい、ごめんなさい」
「先生! でもイニスさんはっ……」
ピュリエが慌ててかばってくれようとしたから、僕はそれを手で制した。
先生に告げ口してくれればあのメリンダって子も注意くらいはされるだろう。
でもさ……それで終わりじゃ勝った事にはならないよ。
Fクラスを馬鹿にしたメリンダにはちゃんと負けたって認めてもらわないとね。
そんな事を思う僕ってちょっと性格が悪いのかもしれないな。
お読みいただきありがとうございます。
皆様の応援のお陰でもうすぐ10万文字です!
ブクマもなんと100件に到達しそうです。ありがとうございます。
何度も減ってその度に心をえぐられ辞めたくもなりましたが続けて良かったです。
未定ですが、100件に到達したら記念に設定資料でも載せようかなと思っています。
引き続きよろしくお願いします。




