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第28話 大浴場での遭遇

 ど、ど、ど、どうしよう!?

 こんな朝から大浴場に入ってくる人がいるなんて思ってもみなかった。

 当たり前だけどお互い裸だし……もうバレる道しか残っていないよ!


「落ち着け、僕……」

「ん、なんか言ったー?」


 思わず呟いてしまった僕は、誤魔化すようにお湯の中へ深く体を沈めた。

 幸いな事にお湯は白く濁っていて——疲労回復の成分らしい——透明度は高くない。

 お湯から出ない限りバレることはないはず……。


「あったかいにゃーん」


 そんなことを考えていたらマリー先輩が体を軽く流してお湯の中に入ってきた。


「そういえばイニちゅんってばなんでこんな時間にここいるのー?」

「イ、イニちゅん……? ぼ、僕は門限を破った罰で掃除当番でして。ついでに入ろうかな、なんて。マリー先輩は何故こんな早朝に?」

「え、朝風呂は日課だよー? 女の子たるものいつもキレイにしておかないとねーっ」


 朗らかにそういう先輩がちょっとだけ憎い。

 でもそうだったのか……お湯に浸かってみたい、なんて軽い気持ちで入ったのに、それは最悪なタイミングだったんだね。


「まぁせっかくご一緒してるんだしー……」

「ご一緒してるんだし……?」


 先輩が何か不穏なことを言い出した。

 ……その続きは聞きたくないよ。


「お風呂ぱーてぃーだぁぁぁ!!」

「何でそうなるんですかっ!?」


 先輩はそう叫ぶとともに、激しい水音を立てながら僕へと飛びかかってくる。


「う、うわぁっ!」

「すりすりー。おー、イニちゅんってばお肌すべすべだねー」

「あ、はは。そ、そうですか? マリー先輩も……す、すべすべですね」


 先輩は僕の後ろから抱きつくような形でくっついて来たから、その肌の感触を背中いっぱいで感じる事になってしまった。

 ついでにささやかな感触も——ね。

 意識しちゃうとあんまり()()()()()()が起こりそうだからなるべく何も考えないようにする。

 うん、それしかないっ!


 そんな僕に先輩の魔の手がうにうに〜と伸びてきて……僕はなんとか変な場所だけは触られまいと防御に専念する。

 さながらアイギス(絶対防御)だ。


「そ、そうだっ!」

「ん、どしたー? ビックリしたよぉ」


 僕はついにこの状況から逆転する一手を思いついた。あとはタイミングだけど……。

 こうなったらやるしかないか。

 僕は先輩の危なっかしい手、その手首を掴みながら思いついた提案をする。


「先輩……あの……せ、背中を洗いましょうか!?」

「えーどしてー?」

「…………えっと……先輩に対する労い……ですかね?」

「……んー。じゃーお願いしよっかなー」


 答えに窮した僕だったけど、なんとか了解を貰うことができた。

 これで第一段階はクリアだ。

 正直いってもうお湯の温度で僕は限界だったから、ここで拒否でもされていたら鼻血を出してのぼせてしまっていたかもしれない。


「じゃあ、あそこの椅子に座ってください」


 僕は()()()()()()()()にある椅子に先輩を誘導する。もちろんお湯の中からだ。


「ほいほーい」


 先輩は僕に従って、ざばぁとお湯の中から躊躇なく立ち上がる。

 僕の目の前をぷるんとしたものが通って……ま、まぁ今はそんな場合じゃない!

 僕は頭を強く振って邪な考えを振り払うと、先輩とぴったり続くようにしてお湯を出た。



「じ、じゃあ洗いますね……」


 そういうと、僕はタオルに石鹸をつけて先輩の背中を洗った。

 間近でみると本当にすべすべだなんて思いながら優しくごしごししていたら、その小さい背中はすぐに洗い終わった。


「ふぅ、終わりました」

「あれ、背中だけー?」

「えっ!?」

「だから、背中だけなのー? まだ洗ってないところたくさんあるよー」

「…………はい」


 そう言われてしまっては洗うしかない、やるしかないんだっ!

 僕は自分に言い訳をしながら、先輩の腕を、足を洗っていく。そして……。


「すみませんっ、前は……前だけは自分でお願いします!」


 僕はそういって先輩に石鹸のついたタオルを押し付けた。


「えー。ま、いっかー」


 先輩は仕方ない、とタオルを受け取ると、体の前面だけは自分で洗ってくれた。

 はぁ、少し残念な気もするけど良かった。

 うん、良かったよ。


「それじゃ流しますねー。……はい、次は髪を洗いますから目を閉じてくださいね」

「はーい」


 そういって先輩はぎゅっと目を閉じてくれた。

 もしかしたら髪を洗うのが苦手なのかもしれないね。

 先輩のピンクの髪は柔らかく、石鹸をつけるとよく泡立った。

 しっかり泡が立ったのを確認して指の腹で揉むように洗うと、先輩は気持ちよさそうに「みゅ〜」という声を出していた。


「それじゃ泡を流すので目はしっかり閉じていてくださいね。しっかりと、ですよ?」


 そういうと先輩は瞑っていた目をさらにぎゅーっと固く閉ざしてくれた。

 僕はそれを見てとると、先輩の頭にお湯をかけて急いで泡を流した。



「……んー。終わった? そろそろ目開けてもいー?」

「…………ふう。はーい、もういいですよ」

「あれ、イニちゅん……どこ?」


 そう、僕は先輩が目を瞑っている間に急いで外に飛び出たのだ。

 その為に入り口に近い椅子に座ってもらったし、我ながら完璧な作戦だったね……ギリギリだったけど。


「僕は先にあがりますので先輩はゆっくり入って来てくださーい」


 外からそう呼びかけると大浴場の中からは不満気な声が響いた。

 けど勘弁してほしい。ごめんね、先輩。


 僕はそれから誰かがまた入ってくる前に、と急いで着替えてようやく一息つくことが出来た。

 よし、次から大浴場の掃除をするときは掃除中の紙を貼っておこう。

 そんなことを考えて大浴場を出たのだった。


 これからは安易な行動は避けるようにしないといつバレるか分からないよ、と自分に言い聞かせながら。

こんな内容なので、こんな時間に投稿しました。

お読みいただきありがとうございます。

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