第27話 ピンクの髪
コレットに今日の実践的授業の内容を話すとコレットは口を尖らせた。
「ずるーい! じゃあFクラスの子達はもう魔法が使えるって事?」
「う、うん。でもまぁ飛ばすだけっていう感じだったけどね。僕はそれすらも出来なかったんだけどさ」
「そうなんだ……」
それを聞いたコレットが哀れむような目を向けてきたので、慌てて訂正した。
「僕の魔力傾向がそうだってだけで魔法自体は使う事が出来たんだからね」
「あぁ、確か放出不可だったもんね。じゃあ魔法を使ったっていうのはどうやって?」
「ええっとね——」
僕はコレットに、先生から魔法騎士を勧められた事や、アイギスの話をした。
「凄ーい! なんか響きがカッコいいね。ここでやられるのも怖いから、今度実習室で私にも見せてね!」
「うん、もちろん。それより、討伐戦の話って聞いた?」
「聞いた事はあるけど、まだ先じゃない?」
コレットは不思議そうに首を傾げる。
「三ヶ月後だって先生は言ってたよ。だから今日は四人組を作ったんだよ」
「へえ、なんかFクラスって色々と早いんだね」
「多分先生がね、面倒くさがりでせっかちなんじゃないかな? 喋るのはゆっくりなんだけどさ」
「どんな先生だったの?」
「えっとねー……あっ」
<夕刻をお知らせします。只今より、食堂は夕食メニューに切り替わります>
「ご飯食べながら話そっか」
「うん、そうしよ。あ、でもちょっとだけ待って! このページが終わったらキリがいいから」
コレットが慌てて机に向かったので、僕は急がなくていいよ、といってから教科書をめくってみる。
う……これは難しいし面倒くさいなぁ。
確かにこれをそのまま進めていたらなかなか実践とはならなかったかもしれないから最初から実践的授業で良かったかも。
僕としては、だけど。
「おまたせっ、終わったから行こっか!」
食堂には結構な人が集まっていた。
服装はパジャマだったり、制服だったり、魔導着だったりで、学校が始まったんだなぁという感じが伝わってくる。
「……なるほどね、なんかやる気があるのかないのか分からないけど良さそうな先生だね。ウチはすごく厳しそうな先生で——」
「あら、お姉様っ」
うう、この呼び方は……セイラさんだね。
「ああ、セイラさん。さっきぶり」
「え、イニス……お姉様って呼ばせてるの?」
目の前のコレットが若干引き気味なのがちょっと悲しい。
「セ、セイラさん、やっぱりその呼び方は……」
「嫌ですっ! あんな格好良いところ見せられたらそう呼ぶしかないんです!」
「今日のイニス格好良かったんだ? よかったら聞かせてよ。私、コレット。イニスのルームメイトだよ」
「私はセイラと申します、もちろん喜んで」
セイラさんはニコッと微笑んで僕の隣に食事のトレイを置くと、実習室でのことを話し始めた。
恥ずかしいからあんまり聞いていたくないし食事に集中する事にしよう。
この角豚のローストっていう奴は柔らかくておいしいなー。
食事が終わってセイラさんと別れると、コレットが学生課に行かない?と言い出した。
「何しに行くの?」
「アルバイトの許可を取りに行くんでしょ」
「あ、忘れてた……じゃあ行こうか」
学生課についてアルバイトの許可申請をすると、自主性が求められる学園の校風もあってか、それはすぐに許可されたのだった。
コレットがかなり必死だったのでそのおかげかもしれないね。
「だってミーシャちゃんだけに任せておけないよ」
「コレットはあの服が着たいだけでしょ」
「そ、それもあるけど!」
「でも確かに今日はどうしてるのか、とかちょっと心配だね。明日行ってみようか?」
とりあえず明日の授業が終わったらアルバイトの許可が降りたことを伝えるついでにデルソルへ顔を出すという事を確認しあって、部屋に戻った。
「それじゃ、明日は朝早いからもうちょっとしたら寝るね」
僕はシャワーを浴びて、ベッドに寝転がりながら読んでいた教科書を閉じるとそういった。
「明日何かあるの?」
「僕の掃除当番はまだ終わってないからさ。この寮、はじめて来た時は綺麗だったのにもう酷いでしょ? だから朝早くから一気にやろうかな?って」
「あー新入生受け入れ期間の間は絶対に汚すなって最初いわれたからね。確かに今日は既に私の実家の部屋みたいになってたね……あ、私も手伝おうか?」
「えっ、いや……大丈夫、本当に大丈夫だから」
初日に手伝ってもらったけど……さすが片付けられないコレットだけあって余計に時間がかかったからね。
それに罰を受けるのは僕だけで十分だ。
「そういうことだからもう寝るね。寝る時は電気消しておいて……おやすみ」
魔力を使って疲れたのか、僕はすぐに眠りにつくことができた。
目が覚めるとコレットはまだ寝ていたので起こさないように着替えて、一階へと向かう。
今日はランドリールームと、大浴場を掃除する予定だからね。
ランドリールームに入ると……そこは荒れに荒れていた。
パンツやブラジャーが適当に放り投げられていて収集がつかなそうだったので僕はそっと扉を閉めた。
うん、ここは明日にしよう。
仕方なく大浴場にいくと……良かった、今日は先客がいなさそうだ。
さすがにこんな朝から入る人はいないよね。
僕は大浴場を洗おう、と思って動きを止めた。
あのピンクの髪の先輩——マリー先輩が気持ち良さそうに入っていたのを思い出して、ちょっと入ってみるのはどうだろう?なんて悪ーい考えを思いついてしまったのだった。
タオルは置いてあるし、ちょっとくらいだったら大丈夫だよね?
そう決めた僕はささっと服を脱いで大浴場に入る。
お湯は清浄の魔導具で綺麗にしているらしいけど、さすがにみんなで使うお湯だから、と先に体を軽く洗ってから溜まっているお湯に浸かってみた。
「うわぁ……これは、気持ちいいなぁ」
ぷかぷかとお湯に浮かんで鼻歌を歌っていた先輩の気持ちが分かる気がする……はぁ。
このまま溶けてしまいそうだ。
「…………っ!?」
脱衣所の方から何か聞こえた。
慌ててお湯から立ちあがった僕だったけど……むしろこのまま出たほうが鉢合わせになってしまうかもしれない。
そう考えた僕は静かにお湯の中へ戻った。
「あれれー誰かいるー?」
僕の脱いである服に気づかなかったか、そんなことを言いながら誰かが大浴場の扉を開ける。
「あっイニスちゃんだーっ! やっぱりお風呂ぱーてぃーしたくなったのかなー?」
声の主は……楽しげな声をあげながら躊躇なく大浴場へと踏み込んできた。
クルクルとカールしたピンクのその髪をゆらりと揺らしながら。
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