第24話 え、女の僕が<騎士>ですか?
みんなが見守る中、的の前へ進み出たルコラちゃんと僕。
これから起こることに嫌な予感しかしないよ。
「じゃあまずは自分の感覚で、やって」
先生が言うとルコラちゃんは目をつぶって「うーん」と集中しだした。僕も何かしないとね。
僕が魔法を使える時はいつも怒っている気がするから自分の感覚と言われてもなかなか難しい。
とりあえず何でそんな遠くに立ってるんだ?と的に対して怒ってみたけど、あまりに理不尽すぎたのか怒りのイの字も出てこなかった。
そうこうしていると、ルコラちゃんは集中が終わったのか目を開け、的に対して両手をかざした。
おお、それっぽいね。
どんな魔法が見れるんだろうか?僕はワクワクしながら見守っていた。
「えいっ!」
そんな掛け声から放たれた風は——僕の前髪をそよそよと揺らした。
「だ、ダメでしたぁ」
そう言いながらへたり込むルコラちゃんだったけど、風が吹いただけきっとマシだ。
僕も続いて「えいっ」とやってみたけど全く何も起こらなかったんだから。
「こんな感じで最初は誰も、できない。だかこれから順番に背中を押す、から。魔力を回しながら、待ってて」
え、誰もできないことをやらせてたの?
それはひどいよ、先生。
「集中、して。いくよ……っ」
そういうと今度は順番に的へ向かって構えている生徒の背中を叩いていく——すると。
「わぁロイゼ先生、出ました!」
「私も! 見てください」
と、次々とクラスメイトが火を、土を、水を、そして風を的へと飛ばしていく。
中には途中で失速したりする生徒もいたけど、それでもちょっとの時間でこの進歩は物凄い。
もしかしてこのロイゼ先生は本当に天才なのかもしれないね。
最後は問題児だから、と最後に回されていた僕の番だ。
「イニスか……気が進まないけど、いくよ」
「はいっ!」
僕は両手を的に向けて準備万端だ。
そして、先生が僕の背中を叩いた時だった。
体の中のドロドロとしたものが一斉に外へ向かっていって……出るっ。
その瞬間、バチィッという音が背中からして——どうやら先生が吹き飛んだようだった。
「だ、大丈夫ですか!?」
僕が駆け寄ると先生の手は火傷のようになっており、ベロリと皮が剥けていた。
え……ど、どうしよう?
「ん、平気」
動揺している僕をよそに、先生はむくりと起き上がるとその怪我した手を光らせた。
その光は無残にもボロボロになったその手を優しく癒しはじめた。
「でも今の、何……循環? 付与? でもそれなら……」
「え、分からないです……」
僕はそう答えるけど、その問いかけは僕にしていたわけではなかったようで、先生はなおも「熱? 雷?」と下を向いてぶつぶつ考え込んでいた。
やがて何かに思い至ったのか、ようやく顔を上げた。
「じゃあみんなはその感覚を忘れないように、そのまま続けて。イニスは、こっち」
そう言われた僕は、言われるがまま先生の後に付いていく。
その道すがら、先生は僕に質問をしてきた。
「前にモンスターを倒した時、どうした?」
「どうした?っていうと……あぁ、殴りました」
「素手で?」
「は、はい……」
果たしてそんな女の子がいるだろうか?ちょっとお転婆がすぎるよね。
「そう……やっぱり」
先生はそう言ったっきり押し黙ってしまったから余計に心配だよ。
「ここ、入って」
言われるがままに中へ入ると……ここは用具置き場かな?
替えの的や、人の形をした木型などが置かれている。それに——剣や弓などの武器も置かれているみたいだね。
「魔女も一応武器の使い方の練習、するから。イニスは何か武器……使える?」
「あ、剣なら教えてもらったことはありますけど」
「そう、じゃあ選んで。私としては槍か弓を使って欲しい。できれば、槍で」
「何でですか?」
「ん、そっちの方が好みだから」
「……」
好みってなんだろう……そう思いながらも僕は、先生の言うとおりに槍を握ってみた。
短めのやつを選んだから取り回しに苦労する事はなさそうだった。
「槍なんて使ったことないですけど……」
そうぼやく僕だったけど心なしか体に馴染む気がしていた。
剣の腕はイマイチだから槍を使ってみるのもいいかもしれないな。
僕はそう思いながら、頭の中でハルトと槍で練習試合をしているところを想像した。
やっぱり負けたけどね。
槍を持って軽く振っている僕を黙って見ていた先生だったけど、そのうちぼそりと呟いた。
「やっぱり……」
「え、何ですか?」
「イニスはエリュシオン様に、似てる」
「エリュシオン様というと、あのお伽話の?」
僕は幼い頃に聞いた一騎当千で無双する魔女の話を思い浮かべていた。
「お伽話にもなってるけど、実在した人物。槍を持って魔法を使いながら、戦う」
槍と魔法で戦う。
その言葉は僕の心を大いにくすぐった。
「そしていろんな属性を使いこなして、武器に魔力を纏わせてモンスターを、なぎ倒す……」
「僕がそのエリュシオン様に似ている、と?」
「長い髪の見た目と、自分に魔法を纏わせるところ、だけ」
「あれ、でも自分に魔法を纏わせるのは循環系の魔法で出来るんじゃなかったですか?」
「うん、出来るけど……さっきのイニスのあれは攻撃魔法、だから。エリュシオン様の得意だったらしい絶対防御と、一緒」
なんてことだ、だからさっき弾かれた先生の手はあんな風に——ちらりと先生の手を見るとすでに治っていて安心した。
「魔力の放出不可っていうのをずっと考えてたけど。そういうことなのかも、しれない」
「そういうこと?」
「イニスは、騎士……になればいい」
え、女の僕が<騎士>ですか?
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