第22話 ロイゼ先生
シーンとした教室に足音が近づいてきて、やがて教室の前で止まると、ガラガラと勢いよく扉が開いた。
「遅くなってごめん、ここ遠いから」
そういって入ってきたのは黒いマントを羽織った魔女然とした格好の女性だった。
まず僕の目を引いたのは、その瞳だった。
右の瞳には星の刻印が、左の瞳には水の刻印が描かれている。
それぞれ違う属性を表す紋だけど、まさか複数属性の魔法が使えたりとかするのだろうか?
そしてその不思議な瞳は——そっと閉じられた。
「昨日も遅くまで実験してたから、眠い……むにゃ」
そういって女性は立ったまま寝てしまった。
三十秒ほどするとビクッと起きてから大きなあくびをして、ようやく自己紹介となった。
「私はロイゼ=ファン=メルロスカイ……ロイゼでいい。先生もつけてくれると嬉しい、けど。普段は魔法の研究をしてる、のに。無理矢理Fクラスの先生にされた、ひどい」
そんな話を聞かされた僕らはどんな態度を取ればいいのだろうか?
僕は大丈夫かなぁ……と、このクラスの先行きが不安になった。
「けど……やるからにはちゃんと、やる。まずは一人ずつ自己紹介、して。長いと寝ちゃうからファミリーネームは、いらない。覚えたくないし。まずは、そっちの子から」
「は、はい……」
覚えたくないとか言っちゃってるし。
やる気があるんだかないんだかよく分からない先生だなぁ。
「えっと、ククル……です。よろしくお願いします」
「うん。属性と魔力傾向も、欲しい」
「あ、はい。火と循環です」
「なるほどね、だからか。はい、次」
「私はシトリーといいます。風と創造です」
こうして次々と自己紹介をして、最後に僕の番になった。
あんまり言いたくないなぁ……。
「僕はイニスです。属性は不明で……放出不可、らしいです」
「え、何それっ!?」
僕がありのままを伝えると、ずっと眠そうな目をしてたロイゼ先生が飛び起きた。
そして僕の前まで来ると僕の手首にある刻印をしげしげと見つめ出した。
「ほう、これはこれは……んーなるほどねぇ」
「ロイゼ先生、分かるんですか!?」
「んーどっかの本で見たような見てないような……放出不可ってことは循環系なんだろうけど」
「循環っていうのは自分の体の中で魔力を使うのが得意ってこと。土の循環は体を硬くしたりできるし、水なら回復できたりする。ただ普通は得意ってだけで放出が出来ないってことはないんだけど……不思議」
ロイゼ先生はそういいながら、僕の手首をさすったり、つねったり、挙げ句の果てには臭いを嗅いだりしている。
昨日はシャワーを浴びたよね?なんて心配になっちゃったよ。
「まぁいい。イニス、君はじっけ……研究対象に、する」
えぇ……この先生、今実験って言おうとしなかった?
そんな僕の動揺を知ってか知らずか、先生は教室の前にある教卓へ戻っていく。
「それじゃ、この国の成り立ちとか魔女の歴史を……話したいところ、だけど。面倒だから家で教科書を読んでおいて。私は実践派、だから」
それ実践派というより面倒なだけだよね、きっと。
まぁ教科書を読んでわからないところがあったらコレットに聞いたりするしかないかな。
「大事なとこだけは教えておく。属性は火
、水、土、風が基本。イニスみたいなのは特殊。たまにはいるけど。私も二属性持ちでこういうのも特殊」
やっぱり僕は特殊なんだね。
でもたまにはいるなら良かったよ。
「属性も昔はもっと多かったけど、解釈次第。今はまとめられてそう、なった。あと魔力傾向は循環、放出、創造……あとは付与が基本。でもこれは得意なだけで普通はどれも、出来る。イニスみたいなのは特殊。聞いたことないし」
ここでもやっぱり僕は特殊なんだね。
って、聞いたことないほどなの?
「みんなはFクラスになって心配かも、だけど。大丈夫、使い方次第。三ヶ月もしたらちゃんと使えるように、する。私は天才、だから」
先生のそんな言葉にクラスがわっと沸いて、ようやく明るい雰囲気になった。
でも僕はやっぱりそこも特殊なのかな……ちゃんと使えるようになるんだろうか?
そんな僕の不安を読み取ってくれたのか、先生は僕と目が合うとしっかり頷いてくれたのだった。
「イニスもちゃんと実験するから、大丈夫」
え、今度はもろに実験って言っちゃってるし本当に大丈夫なの!?
「それじゃ残りの時間は、自習で。次の時間は第一実習室に、集合」
「え!?」
「まだ始まったばかりなのに!?」
そんな声を無視して先生は教室を出ていく。
その口元を見ると「実験っ、実験っ」と口ずさんでいたように見えたのは気のせい……だったらいいな。
残りの時間は自習となったけど、話題の中心は——僕だった。
「イニスさんはどんな紋なの?」
「やっぱりお母様も魔女なのかしら?」
「それよりも髪よ! 素敵ね……リボンも可愛いわっ」
「今までに魔法を使ったことはあるの?」
先生が教室を出て行ってからの僕は、揉みくちゃの質問責めだった。
やっぱり特殊、特殊って言われたらみんな気になるよね……一人だけ違う人がいるみたいだけど。
この一人質問責めタイムは次の時間、実習室に移動するまで続いたのだった。
うう、なんだか僕だけ丸裸にされた気分だよ……。
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