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番外3 コレットとお人形さん遊び

 ウチは小さいけれど、髪結いのお店をやっている。

 身分が高い人のお家へ行って髪を結う事もあるから、貴族しか出来ない立派な仕事なんだよって小さい頃からずっと言い聞かされてきた。

 だから髪も伸ばして、可愛らしくして。


 でもある日、それが急に嫌になった。

 私が本当にやりたい事ってなんだろう?ってそう思った。


「産まれた時からこうなるべきだって決まっている人生なんて何も楽しくないよ!」


 だからそんな事を叫んで家を飛びだした。

 行くあてなんてない、だけどここにもいたくなかった。

 街の中を走って走って……気付いたら行ってはダメって言い聞かされていた裏街の方まで来てしまっていた。


「戻らなきゃ」


 そう呟いて、来た道を引き返そうとした私の手首が不意に掴まれた。


「あれれ、お嬢ちゃんがこんな所になんの用かなぁ?」


 ガッチリと掴まれたその手はいくら振りほどこうとしてもビクともしなかった。

 そして気付けば私の周りは何人もの男の人に囲まれていた。

 私は怖くなって、パパー!ママー!と叫んだけれど、誰も来てくれなくて。


「じゃあちょっと向こうで楽しい()()()()()()()でもしようか」

「うはは。人形遊びとはお前、上手く言ったもんだな」

「おいっ順番を決めておこうぜ! 俺、最後は嫌だぜ」

「ああ、本当に人形になっちまうかもしれないしな」


 目の前でかわされる会話の意味はよく分からなかったけど、もう家に帰れないかもしれないっていう事だけは分かって。

 だから私は震える事しか出来なくなってしまった。


 引きずられるようにして連れ込まれた倉庫のような場所はカビと、お酒の匂いでいっぱいだった。


 気持ち悪い。


 倉庫の奥には立派な椅子があってそこには顔中が傷だらけの男の人が座っていた。


「ボス、こんな可愛い人形が落ちていたんですがね」

「おうモーブ、お前もたまには役に立つじゃねえか。ちょっとこっちに寄越せや」


 私は乱暴に、それこそ物を扱うようにボスと言われていた人の所へ連れていかれた。


「こりゃあ確かにいい人形だな」

「ええ、ボスは満開の花よりも()()()の方がお好みでしょう」

「はっ、お前ェよく分かってるじゃあねえか」


 私は人形でも花でもない!そう言いたかったけど、声が出なかった。


「それじゃあちっとこいつと遊ぶからお前ェらは外に出とけや」

「分かりましたっ! でも俺たちにも分けてくださいよ?」

「ああん? それはこいつの()()()に聞きな」


 そんなぁといいながら下卑た笑い声を上げて男達が倉庫を出て——。


「おお、髪も長くていい感じじゃねぇか」


 男はそういうと、私を自分の近くに引っ張って……そして髪をべろりと舐めた。


 気持ち悪い……。


「そんなに震えなくても大丈夫だぜ? 大人しくしてればちょっと痛ぇくらいで終わっちまうからよ」


 男はそういうと自分のスボンに手を掛けた。

 何をしようというのだろう?

 私はこれから起こるであろう悪い予感に目をつぶるしかなかった。


 そんな時、急に外が騒がしくなった。


「うわぁ!!」

「ぎゃー! 何をしやがるんだっ!」

「くそっボスを呼べっ!!」


 そんな声が外からしきりに響いてくる。


「これからいいところだってのにアイツら何してやがるんだ?」


 ちょっと待っとけよ、と私の手に縄を掛けてボスは外へ向かった。

 それから何分経っただろうか?

 凄く長く感じたけれど、本当はすぐだったかもしれない。


 気がつくと外は静かになっていて、それからゆっくりと倉庫の扉が開いた。

 もうダメだって私がぎゅって目を閉じたら——。


「おや、こんな所に女の子がいるなんて……もしかして攫われたのかな?」


 そんな優しい声が聞こえてきて、私はゆっくり、ゆっくりと目を開けた。

 そこにはブラウンの髪と、黒い瞳をした男の人が立っていた。


 彼は自分を冒険者だと言った。

 裏街に潜伏していたあのボス——賞金首になっていた——を討ちに来た、と。


「あいつには逃げられてしまったけど、キミのピンチには()()()()()みたいでよかったよ」


 彼は笑顔でそう言った。


 そんな彼に手を引かれながら家に帰った私はパパとママに凄く叱られた。

 冒険者の彼へ「代わりに賞金分を出す」とパパが言ったけれど、彼はそういうわけにはいかないと固辞してすぐに帰ってしまった。


 その夜、水浴びをしていた私はふと自分の髪が気持ち悪くなった。

 あの男に舐められた髪と思ったら我慢出来ないほどの嫌悪感があって……。

 キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ……。


 気付けば私の髪はざんばらになっていたけど、それでも幾許(いくばく)か私の心は晴れていた。

 それから「あの男が逃げた」という言葉を思い出して、私は見つからないように男の子のような服を着るようになった。

 そして毎日のように冒険者ギルドの前に行った。

 あの彼にありがとうを伝えられなかったから。

 けれどもブラウンに黒目という珍しい彼が見つかる事はなかった。


 そのうち、私の首筋に<魔女の刻印>が現れて、私は魔女になる事になった。

 魔女学園は確かに私の……いや、私達この街に住んでいる女の子にとっての憧れではあったんだけど、その時の私は髪結いのお手伝いが楽しくなってきていて。

 だからギリギリまでお店にいたらきっと行きたくなくなっちゃうから。

 入寮が可能になったその日、すぐに魔女学園に入った。


 これでしばらく髪結いは出来ないんだって落胆していた私だったけど、入寮してみたら気持ちが変わった。

 よく考えたら周りは女の子だらけなんだからそりゃそうだって話なんだけど。

 廊下で見かけた黒髪が綺麗な先輩に「髪結いをさせて下さい」っていきなり頼んだら「考えておくわ」って言われちゃったけど変な子だって思われてないといいな。


 さらに次の日、部屋に帰ったら同室だっていうイニスがベッドで寝ていた。

 イニスは今まで見たことがないくらいに綺麗でサラサラな髪の持ち主だった。

 勇気を出して髪結いをさせてってお願いしたら「いいよ」って言ってくれた。


 まるでお人形さん遊びみたいに毎日髪結いをしてもいいんだって!

 お人形さん遊び……どこかで聞いたような言葉だけどそんな事はもうどうでもいい。


 ああ、これで明日から私の学園生活はもっともっと楽しくなりそう。

 明日はどんな髪型にしようかなぁ……上の方からツインテールを作るのも似合いそうだし、逆に一つにまとめるのも似合いそう。

 やっぱり私の得意なリボンハーフアップにしてみよう!


 私はこうして楽しい夢を見ながら眠りにつくことができたのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

昼くらいに新章一話を上げます。

もしよければこのタイミングで評価、ブクマをして頂けたら嬉しいです。

続きを書くモチベーションを下さい!


ブクマ、評価をして頂けている方は本当にありがとうございます。

力になります。それがなければとっくに筆を折っているほどです。

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