第17話 盗賊団討伐戦③
目の前の女性が何かをして次々と倒れていった討伐隊メンバーだったけど、全員が地面に転がったわけではなかった。
隊長のマークヴェインさんとその側に常に控えていた——たしか副官だと名乗っていた——騎士さん、それにガイナッツさんは震える足でなんとか踏ん張っていた。
僕はといえば正直、全く何も変化がなかった。
だから何をされたのかも分かっていないんだけど。
「く、くそ……」
マークヴェインさんは悔しそうに唇を噛んでいるが、動こうとはしない。
いや、きっと動きたくても動けないのだろう。
「ふふふ、どんな精鋭が来てくれるかと思ったらこんなものなんてがっかりね。まだこっちの坊やの方が使えるわ。なら終わりにしましょう——傀儡の狂宴」
女性がそう叫ぶと、一瞬だけ胸元が光り——。
「ぐわっ、リゲルトッ……何をするんだ!?」
突然、マークヴェインさんの側に控えていた副官さんがそんな叫び声をあげた。
見ると同じ騎士だったはずの仲間の剣に斬られ、倒れるところだった。
さらにギィンという甲高い音のする方へ目を移すと、ロングソードとダガーで剣戟の音を上げはじめたガイナッツさんとサブナックさんがいた。
皆どうしてしまったんだ!?
仲間同士で傷つけ合うなんて……。
「……っと!」
最後方で立っていた僕のところにも冒険者が走ってきて剣を振ってくる。
些か単調な動きは先を読んで余裕でかわすことができた。
ん?ハルトと比べるとかなり剣筋が荒くて、剣速も遅いな。
僕は余裕を持って相手の事を観察する事ができた。
どうも目の前で攻撃を続ける冒険者の瞳の奥は黒く濁っているようにみえた。
「これは……自分の意識がないのか!?」
そう感じ取った僕にマークヴェインさんからの声がかかる。
「気を付けろッこいつらは操られているぞ! 意識のあるものは私の側に集まれッ」
その叫びを聞いた僕は冒険者の剣をかわしつつ、マークヴェインさんの側へ寄っていく。
その途中で先程、斬られて倒れてしまった副官さんの剣を足で引っ掛けて拾い上げた。
残っているのは、三人……。
僕と、マークヴェインさんとそれにガイナッツさんだけだ。
でも僕以外の二人は、あの女性が使った”何か”のせいか滝のような汗を流しながらなんとか立っているというような状態だ。
僕らは誰が言い出すでもなく背中を合わせて死角を減らすような隊形になる。
そんな僕らに向けて、操られているのであろう五人の騎士と三人の冒険者が剣を向けてくる。
先程起こった<現象>の影響下にない僕はまだなんとか余裕があるけれど、あとの二人はなんとか致命の一撃をくらわないようにするので精一杯のようだった。
僕は斬りかかってきた冒険者の剣を受け止めると、一瞬の鍔迫り合いのあとスッと力を抜いた。
それによってバランスを崩した冒険者の横に立ち、「ごめんなさい」と一言呟いてから首筋を剣の柄で打ちすえて意識を刈り取った。
再び地面に叩きつけられる事になった冒険者は、それから起き上がって来ることがないように思えた。
「どうやら再度意識を失えば動いては来ないようです!」
「へぇ、嬢ちゃんなかなかやるじゃねえか……街に戻ったら冒険者にならねえか? 俺がギルドマスターに推薦してやるぜ」
「そうですね、考えておきます」
「おいッ、無駄口を叩いている暇はないぞッ!」
マークヴェインさんが上げた声を聞いて、見れば確かにそのようだ。
のそりと起き上がった魔女二人が<魔女の刻印>を喚起させていた。
そして、残っていた騎士と冒険者が僕らから距離を取ると同時にそれは放たれた。
「来るッ! 神聖なる大盾ッ」
マークヴェインさんがギリギリのところで僕たちを包み込むようにスキルを発動させる。
薄い膜のようなその盾は、魔女二人の炎と風がぶつかるとギャリギャリとした耳障りな音をたてた。
やがて魔法は盾の堅牢さに音を上げたかその力を急速に失っていった。
「はぁッ……これは取っておきだ……もう、使えないッ」
マークヴェインさんは既に息も絶え絶えといったような状態だった。
そこに追い打ちをかけるかのような声が響く。
「あらあら、まだ粘っているの? しつこい男は嫌いよ」
この場にそぐわないようなゆったりとした女性の声が広場に響くと——それは起こった。
「な、なんだ!?」
「これは……」
ガイナッツさんと僕が同時そんな声を上げる。
僕らと、広場の反対側にいる女性との間にある地面が突然光を放ったのだ。
その光の中からは、なんと額に赤い宝石を持つ蜘蛛が這い出してきた。
そして四つあるその目は僕らを敵だと見定めたのか、一直線にこちらへと向かってくる。
「な……アルケニーだとッ? なぜモンスターが突然現れたッ!?」
「おお、こいつはヤベェな。いっその事逃げるか?」
「ば、馬鹿な事を言うなッ! 私に騎士の誇りを捨てろというのかッ!」
「じゃあ……どうするよ?」
僕の目の前で二人が言い争っているけど、もうそんな時間はないだろう。
ここは一旦逃げるしかないのでは?と思案に耽っていた僕の体が突如としてフワリ、浮き上がった。
「……こうするんだよッ!!」
マークヴェインさんの叫びと共に腕が振られると僕は——空を飛んだ。
「お、おいっこの野郎!!」
「アルケニーがあの荷物持ちを食らっている隙に魔女二人を正気に戻してアルケニーを叩くッ! それしかあるまいッ!?」
後ろでは二人が言い争っているけれど、そんな事に気を回している余裕はなかった。
だって僕のすぐ目の前では大きな大きな蜘蛛がその口を広げていたんだから。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁっっ!!」
僕は女の子の格好をしている事などすっかり忘れ、みっともなく”恐怖”という名の叫び声を上げたのだった。
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