第14話 ハルトの行方③
「これってどこへ向かっているの?」
コレットは不安げにそう聞いてくる。
「この街で唯一、僕の味方をしてくる人のところだよ」
「え、ヒドーい! 私だって味方なのに……」
「ご、ごめん……そういう意味じゃなかったんだけど」
僕は慌てて謝る。
でもたまたま同じ部屋になっただけの、昨日会ったばかりの僕の味方だって言ってくれるなんて思わなかった。
コレットにだけはいつか僕の秘密を打ち明けたいな。
きっとそうしたら味方じゃなくなってしまうんだろうけど、嘘を吐いているよりはよっぽどいいよね。
「すみませーん」
「おう、いらっしゃ……ってイニスか。昨日の今日でどうした? ん、それより一緒にいる嬢ちゃんは誰だ?」
「えっと、ルームメイトのコレットさんだよ」
「どうもはじめまして、コレットです」
そういってコレットは丁寧に頭を下げる。
そして店の中を見回すと僕がなぜここに来たのか?と不思議そうな顔をした。
「ところで、ここは?」
「おう、ここは<太陽の住処>ってぇ俺の食堂さ」
あ、ここは<太陽の住処>っていうんだね。
太陽……太陽か……なるほど。
僕はお店の名前の由来になんとなく思い当たった。
そういえば僕はブロスさんの事も太陽みたいだな、なんて思ってたっけ。
「あのっロウさん、相談したいことがあるのですが……っていうかその前に、前の食事代っていくらですか? 僕、忘れて帰っちゃって……」
「なあに、子供がそんな事気にするんじゃねえ。あの野郎から今度いっぱい貰うからいいんだよ。で、相談ってのは何だ?」
ロウさんがそうやってカラっとした笑顔で言ってくれて僕はホッとした。
あの野郎っていうのはきっとブロスさんの事だね。
「実はですね、同じ魔女学園のリッカという子の友達が居なくなってしまったらしくて……」
「ふん、それで?」
「その子はアグロス村の出身で友達も同じ村の出らしいんです」
僕はアグロス村、同じという部分を強めに話す事でロウさんに気付いてもらおうとした。
そしてその試みは……。
「ほう、なるほど……それは心配だな」
ニヤっとしたその顔を見るとどうやら成功したと思ってよさそうだ。
「で、俺に出来る事はなんだ? 人探しってのはあんまり得意じゃないんだが——」
「お金を貸して下さいっ!」
僕は少々食い気味に深く頭を下げてそういった。
「今、手持ちがあんまりなくて冒険者ギルドへ依頼が出来ないんです。ロウさんさえ良かったら学園のお休みの日にここで働いて返しますので……お願いしますっ!」
そんな突然の行動に出た僕をみてコレットは呆気に取られた顔をしている。
「働くったって……なぁ……」
ロウさんはお店の中に視線を這わせる。
なるほど、前に来た時も思ったけど確かにガランとしてお客さんがいないな。
あんなに美味しい料理を作れるのにどうしてだろう?
「…………そうだっ! よし、いいぞ。ここで働かせてやろう」
ロウさんは何かを思いついたのか、顔を輝かせてそういってくれた。
「それじゃこれは前払いだ。それだけあれば人探しくらいなんとかなるだろう」
そういって僕の手に金貨5枚を握らせてくれた。
「その代わりお前さんにとっては、ちょっとツライ事をしてもらうかもしれないが……」
「はいっ、何でもします! ありがとうございます!」
そのツライ事……が何なのかは後で分かる事になる。
まさか僕があんな事をするとはね。
「ねぇ、イニス。本当に良かったの? ウチに行けば働かなくても良かったのに……」
冒険者ギルドに戻りながらコレットがそんな事を聞いてくる。
「うん。それだとコレットの家にも迷惑が掛かっちゃうし」
「リッカの為にそこまでするなんてイニスもお人好しだね」
本当はお人好しなんかじゃなくて、ハルトは僕の幼馴染で親友でもあるからなんだけど。
それを言ってしまえないのがもどかしかった。
「それじゃ、私もイニスと一緒に働いてあげるっ! そしたら半分で済むでしょう?」
コレット……お人好しなのはいったいどっちなんだろうね。
「はい、たしかにお預かりしました。依頼の失敗や依頼を取り下げた場合、こちらのお金は返却いたします。ですがどちらにしても当ギルドに銀貨5枚の手数料がかかりますのでご了承下さい」
「わかりました」
「この依頼は緊急ですよね? それなら……あ、いたっ——サブナックさーん」
受付のお姉さんがテーブルに座っている冒険者たちに声をかけると、仲間と何かを話していた一人の冒険者がカウンターまでやってきた。
「メリッサちゃん、呼んだ? もしかしてこれってデートのお誘い?」
「そんなわけないでしょう。ちょっと依頼を請けてくれない?」
「どんな依頼だい? 俺らは盗賊退治の件でちょっぴり忙しいんだけどなぁ」
「こんなに可愛いお嬢さんたちの依頼なのよ? サブナックさんなら喜んで請けてくれると思ったのだけれど」
そう言われたサブナックという冒険者は僕らの事をチラリと見た。
「うーん、俺は年増が好みなんだけど……って違う違う、メリッサちゃんがそうだってわけじゃないんだって! 請ける、請けるから! でも盗賊退治の合間にしか出来ないぜ? 今夜にでも盗賊の根城の偵察に出ちまうし……」
「ええ、だけどサブナックさんは顔が利くじゃない? 街の知り合いにちょちょっと声を掛けて——ね?」
「ああ、それでいいなら問題ないか」
目の前の冒険者は騒々しく騒ぎ立て、結局は依頼を請けてくれる事になった。
「それではよろしくお願いします」
僕らはサブナックという冒険者に頭を下げて冒険者ギルドを後にした。
「依頼を請けてくれる人も見つかってよかったね! それじゃあ今日は帰ろっか。リッカにも報告しないといけないし」
「うん。コレット、今日は付き合ってくれてありがとう」
こうして魔女学園へと戻った僕に、サブナックからの報告が届いたのは翌朝だった。
その情報を耳にした僕は驚きすぎて身体中の力が抜けてしまい、コレットに支えられてなんとか立っていられるような状況だった。
そんなサブナックの報告にはこうあった——
盗賊団の中に情報と似た男がいる。
いつもお読みいただきありがとうございます。