第13話 ハルトの行方②
「それじゃ次は冒険者ギルドに行ってみない?」
ちょっと気が沈んでしまった僕に、コレットが明るい声を掛けてくれる。
また気を使わせちゃったかもしれないね。
だから僕は「うん、そうしよう」ってなるべく明るい声でそう答えた。
コレットに冒険者ギルドまで連れて行ってもらう道すがら、冒険者とは何なのか?というのを尋ねた。
すると基本的には依頼を受けて狩りのような仕事をする職業だという事を教えてもらった。
その他にも貴重な素材の収集や、時にはモンスターの討伐も行うらしい。
魔女がいなくても平気なの?と聞くと冒険者をしている魔女もいるんだよ、と教えてもらえた。
街の中心近くにあった詰め所からそう遠くない場所にそれはあった。
ちょっと古めかしいその見た目は、僕の村をちょっとだけ思い出させるものだった。
「ふぅ……それじゃあ入ってみましょうか」
コレットは一つ息を吐くと覚悟を決めたように中へ入った。
どうしてそんな事をするのかな?と思った僕だったけど、その理由は中に入るとすぐに分かった。
冒険者ギルドの中は女子寮とも治安官詰め所とも違う異質な匂いがした。
鉄臭い——最初に感じたのはそれだった。
さらにその奥から血の混じったような匂いもあってそれが鉄臭さにより拍車をかけているのだろうと思った。
そして次に感じたのは視線だ。
冒険者ギルドの中はそれなりの広さがあって、部屋の中の半分以上をテーブルの席が占めていた。
そこでは受けた依頼について話し合っているのか結構な数の冒険者達がいた。
そのほとんどがギルドに入ってきた二人の少女——つまり僕たちを見ていた。
もちろん場にそぐわない雰囲気の僕らへの興味からだとは思うけれど、<冒険者>という名の響きから想像出来るようにその見た目は少々……いやそれなりに粗暴そうで、少し足が竦んでしまうのを感じた。
「すみませーん」
コレットは震えそうな声を張り上げて、カウンターに座っているお姉さんへ声を掛けた。
「はい、なんでしょう?」
カウンターのお姉さんはそんな僕らを安心させるためか、とてもにこやかな笑顔で対応してくれた。
「あの……人を探しているんですけど」
「依頼ですか?」
依頼、という言葉を聞いて僕とコレットは顔を見合わせた。
「えっと、コレット。これはどうしたらいいの?」
「いや、私も来たのははじめてで……とりあえず依頼するっていう事にしたらどうかな?」
相談というには少し大きめな声で僕らは話し合った。
「依頼、です」
と僕らがいうとお姉さんはカウンターの下から紙を出して必要事項を記入するように、とペンを渡してくれた。
「えっと、ここは人探し……で、名前はハルト、熱血漢で皮肉屋なんだっけ?」
「いや、そこは意地っ張りだね。探すのにその情報が必要かは分からないけど」
「で、見た目はダークブラウンの髪に黒い目だよね? そういえば珍しいね。私の好きなタイプかも……」
「えっ」
そんなやり取りをしながら書き込んでいる僕らをお姉さんは微笑んで待っていてくれた。
「出来ましたっ!」
そういって紙を渡すと、ざっと確認して軽く頷いた。
「はい、これで大丈夫です。それでは依頼料はいくらくらいをお考えですか?」
「えっと……」
依頼料……そんなのは全く考えていなかった。
向こうも仕事なのだからそんなのは当然だったのに村での生活に慣れていた僕はすっかり頭から抜け落ちていた。
手持ちのお金を全て手の上に出して数えてみると——銀貨が4枚、銅貨が8枚。
「ごめん、私も今はあんまり手持ちがないんだ……」
コレットが申し訳無さそうにそう言うと、カウンターのお姉さんはちょっと引きつった笑顔を浮かべていた。
「おいおい、そんなんじゃあ猫一匹探せねえぞぅ」
どうしようか思案している僕の肩越しに突然そんな声が聞こえて慌てて振り返る。
そこにはニヤニヤとした緩んだ顔を隠そうともしていない四人組が立っていた。
「おい、嬢ちゃんたち……俺たちとちょっくら遊んでくれるならそれで引き受けてやらない事もねえぞぉ」
目の前の男たちは少々酒臭い息を吐きながらそんな事を言ってくる。
こりゃあいい、僕はそう思った。
遊ぶだけで受けてくれるなら僕としては万々歳だ。
それにしても何をして遊ぶんだろう……羽つきかな?球蹴りかな?
そんな事を考えていた僕の袖をコレットがそっと引っ張った。
「行こっ……」
「あっ、ちょっと待っ」
僕はコレットに引っ張られるままに冒険者ギルドを出ていく。
その前にコレットは「その依頼は保留でお願いします」とお姉さんに叫んでいた。
ギルドを出た僕はコレットにどうして出たのかを問いただした。
遊ぶだけでいいならいいじゃないか?と。
それを聞いたコレットは「はぁ」と溜め息を一つ吐いて教えてくれた。
「遊ぶっていうのはね……」
それを聞いた僕はようやく男たちが言っていた事の意味を知り、顔を青くするのだった。
「それじゃあどうしようか……依頼、出来なかったね」
「私の家に行く? うちも一応貴族だから少しくらいのお金なら出してもらえるはずだし」
「え、コレットって貴族だったの?」
僕は昨日、食堂で見かけた見事な縦ロールの女性を思い出しながらそういった。
「うん、髪結いって貴族にしか出来ない仕事だからさ。でも凄く小さい家なんだけどね」
コレットは笑いながらそう言うけれど……どうしよう。
ここでコレットの家に頼ってもいいものなのだろうか?
頼る……か。
「ねぇコレット、僕行きたい所があるんだけどついてきてくれる?」
そういうと頷いたコレットを連れて、そこへ向け歩き始めた。
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連続更新二話目です。