番外2 ブロスの生き方
評価、ブクマありがとうございます!
今日はクリスマスイブなので番外編を投稿しておきます。
※独白形式なので嫌いな方はご注意下さい
俺はブロス。齢は46、自分で言うのもなんだが渋いおっさんだ。
今はちょっと寂しくなっちまった頭だけど若い頃はふさふさのふさで若い女がキャーキャー俺の背を追ってきていたもんだ。
今?今は独り身だよ。悪いか?
俺の仕事は危険と隣合わせだからな。
いつ死んじまうか分からねえ男の隣に誰かを置いておくなんてそんな事は考えられねえよ。
今日も俺が村の周囲を警戒しているとモンスターの気配があった。
この気配は上流から続く川の方からだな。
俺は自慢の快足を飛ばしてすぐにそこへ向かった。
しかしそこに残されていたのは川の上流から流れてきていい具合に削られた石たちとそれに残された少しの粘液だけだった。
あまり気は進まないがその粘液を指ですくい取って匂いを嗅いでみた。
ああ、これはフロッガーに違いない。
あいつはヌルヌルした粘液を全身に纏っているから剣も通りづらいし正直苦手だ。
いなくなってくれていて良かったとさえ思っちまう。
ちなみに村には効力はやや弱いがある程度までのモンスターの侵入を防いでくれる結界が張ってある。
村の宝である子供たちが一気に三人……いや四人産まれたあの年に村のみんなで話し合い、金を出し合って設置したものだ。
あれがあればこの辺のモンスターはそう簡単に入って来られない。
まぁフロッガー程度ならば問題ないだろう。
ただ、もしあれがフロッガーの亜種であるフロッガーベスの跡だったら、と考えて俺は体を震わせた。
あいつはその昔、俺がまだ現役騎士だった頃に殺されかけた事もあるかなりの強敵だからな。
まぁもしモンスターが村に入ってきたらその時はこの俺がなんとしてでも止めてみせるさ。
それだけが俺がこの村に居ていい理由なんだからよ。
今日帰ったらそれに備えて自分の剣をしっかり研いでおかないとな。
昨日、朝起きたらカイ坊が家に尋ねて来た。
なんと村の中にモンスターが入ってきたらしい。
確かに夕方チラっとモンスターの気配がした気もした。
ただ、すぐに消えちまったからとうとう俺もヤキが回ったか?なんて思っていたぞ。
結界が張ってあるこの村に入ってこれたという事はやはりこの前見かけたフロッガーの痕跡は亜種、ベスの方だったのかもしれない。
もしそうだったとしたらそれを一人で、生身で倒したカイ坊の潜在能力って奴は——。
とりあえず今後はそういう事がないように、やっぱり今日も剣を研いでおこうじゃないか。
カイ坊の奴に勢いで魔女になればいいなんて言っちまったけど本当に大丈夫だろうか。
心配になった俺は隣町のアイツに会いに行くことにした。
いつも仕事で世話になっている魔女のアイツだ。
ついでにカイ坊が手に入れた魔石も売って金にしてきてやるつもりだ。
この村じゃあ金の使い途なんてないが外に行くんならあって困るもんでもねえ。
隣街につくと俺はアイツの家に向かった。
俺が顔を見せるとアイツはいつだって笑顔で迎えやがるから調子が狂うぜ。
あくまで仕事仲間、そう仕事仲間としてのパートナーだ。
そういうわけで魔女学園の詳しい話を聞きに来たわけだ。
それなのにどういうわけか今、俺はお粥を作っている。
タイミングが良いことに、アイツが熱を出して寝込んじまっていたんだ。
このままじゃロクに話も聞けやしねえ。
俺が顔を見せたら無理して起き上がってきて笑顔を作ろうとしやがった。
そんな事して悪化したらどうすんだ。
まったく、俺の仕事にだって支障が出るじゃねえか。
ああ、それは困る。困るからな。
だからこうして看病してるってわけだ。勘違いするんじゃねえぞ。
早くよくなりやがれ。
しばらくしたらようやくアイツの熱が下がって落ち着いてきた。
やれやれだな。
お前は自分の体を大事にしないからだ、なんて言ったらお前じゃなくてリコルです!って怒ってきやがった。
ふう、怒れるくらいよくなったなら魔女学園の話を聞いても大丈夫だろう。
なになに、こっそり忍び込んだ男が大事なところを潰されて街道で晒し者にされてた?
他にも毛根を全て根絶やしにされただの、街中にお触れを出されて女の子全てからシカトされただの危険な話しか出てこねえじゃねえか。
まぁほとんどただの噂だけどねってカイ坊にそんな思いをさせるのかと思ってびっくりしたじゃねえか。
実際には懲役かな?か。
まぁそれくらいなら俺が土下座でもなんでもして肩代わりしてやらあ。
ついでにカイ坊のためにどんな化粧品を使ってるのか聞いてみた。
本人には絶対に言わねえがコイツ……リコルはとんでもなくキレイだからな。
ほうほう、最近はそういうのが流行ってるんだな。こりゃ勉強になったぜ。
帰り道に俺はギルドへ寄ってカイ坊の魔石を換金してきた。
そのついでに雑貨屋で化粧品を見てみるのも悪くねえだろう。
お、こいつはさっきリコルが言っていた化粧品か。
少々値は張るがさっきいろんな事を教えてくれたお礼に買ってやってもいいかもな。
村に帰るときには財布が軽くなっていたが、なんだか心があったけえからそれで釣り合いがとれてるってもんだ。
帰ったらやっぱり剣を研いで、明日はモンスターをこっちから探しにいってやるぜ。
そしたらまた街に半殺しのモンスターをひきずって行ってリコルにトドメを指してもらうんだ。
おっと、会いたいって訳じゃねえから勘違いするなよ。
軽くなった財布の分を取り返そうってだけなんだからな。
ハルトの奴が旅立ち、リッカも行った。
遂にこの日が来たってわけだな。
この日の為に昨日からリコルに村まで来てもらってる。
これで安心してカイ坊……おっとイニスを送っていけるって訳だ。
ついでにあの料理バカにも会ってやるとしよう。
イニスが無事に学園へと入れたのを見届けた俺はその足で村へ戻ろうとした。
したが、王都の雑貨屋が気になっちまってついつい店に入っちまった。
お、この化粧品はリコルが好きなブランドじゃねえか。
なにぃ、まだ王都にしか売っていない新作だって?だから何だってんだ。
……まぁ明日からもっともっとモンスターを狩ればいいか。
村に戻ったらリコルは俺の家で寛いでいやがった。
おい、お前のことはハッサンとララノアの家族に頼んでおいただろうが。
だってこの匂いが落ち着くんだもんって俺はお前の親父じゃねえぞ。
確かに年はそんくれえ離れてるけど、よ。
ああ、そういや王都で買ったアレを渡さねえといけねえ。
今回は無理な頼みを引き受けてもらったからな。
それじゃこれを受け取ったら早く街に帰りな。
おい、もう帰らないってどういう事だよ?
街には魔女がもう一人いるから大丈夫って大丈夫なわけねえだろ。なあ?
それにいきなりこの村に住むっていったって家もねえだろうし。
はぁ?この家にって、お前一体何を言ってるんだ。
だから俺はお前の親父じゃねえって……え、違うって?
……大事な事を女の方から言わせるなんて俺のこっちの剣は錆びついちまってたみたいだ。
そっちの剣もしっかり研ぎ直さねえと。
そしたら今度は俺から、あーなんだ?……改めて言いに行かせてくれ。
だから今日……いや、あと5時間もすれば夕方になるから明日には一旦街に帰るんだ。
村の子供達がいなくなってから……いや正直になるか。
リコルが帰っちまってから俺の胸の辺りはスカスカになっちまった。
だから毎日剣を研ぐ事で気持ちを落ち着けた。
もちろん心の中の剣を研ぐことだって忘れてねえ。
その証拠に明日俺は一着しか持ってねえ一張羅を着て柄にもねえ花を持って。
アイツに会うためだけに——街まで行くつもりだ。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ええ、クリスマスイブといえばやっぱりおっさんの話ですよね。
本編も今日中にあげますのでご容赦下さい。