そういえば、ご子息たちの中に少し顔が紅潮して息遣いが荒い人がいましたけどどうしたのでしょうね?
「チアキ様……」
私が名前を呼ぶ前にエリザマス公爵令嬢が顔を赤く染めて彼の名前を呼びました。
「私のことを助けてくださり、ありがとうございます。きっとチアキ様なら助けてくれると信じてましたわ」
さっきまでの歩幅が嘘のように一瞬でチアキ様にすり寄りました。
「先程まで令嬢として情けない姿を見せないように気丈に振舞っていましたが、やっぱり駄目でしたわ……。チアキ様の前では私、ただのか弱い女になってしまうのです」
誇り高いと思っていたエリザマス令嬢は急にしなだれながらチアキ様に体を預けようとしてます。そんなエリザマス令嬢は女の私から見ても心を揺さぶられる程、美しくドキドキしてしまいます。
……が、チアキ様は動じることもなく、さっと避けました。エリザマス令嬢もまさか避けられるとは思ってなかったようで、ガクン、と変によろけてます。か、可哀想……!!
「チアキ様ぁ」
すると、エリザマス令嬢とチアキ様の距離が少し空いたその時、突然殿下の傍にいたローヒインさんがこっちにやってきました。
「私、エリザマス令嬢や他の取り巻きにたっくさん虐められて怖かったですぅ~~。きっとこれからも平民だからと色んな人から意地悪されちゃいます。このまま王妃になれるか心配でぇ……だからチアキ様が傍にいてくれるとすっごく心強いんです」
この発言に殿下やその他の子息たちも驚いていました。今、殿下との婚約を発表したところですのに他の男性の元へ行くなんて大丈夫なのでしょうか?
「そうだ!!私の専属の騎士になってくれませんか?」
まるで名案だというように嬉々と言い放つローヒインさん。いやいやいやいや他国のそれも重鎮であるチアキ様になんてことをいっているのでしょうか????交流のない他国の男にいきなり自分を守る騎士になれだなんて非常識すぎます。それをよりによって好感度が底辺どころか地の底まで落ちているチアキ様にいうなんてこの場で首が飛んでもおかしくありません。私は顔を真っ青にしてチアキ様を見つめます。
「な、何を言ってるんだ?ローヒイン。君には僕たちがいるじゃないか。何故そんな野蛮な男なんか……」
「チアキ様はそんな酷い人じゃないわ!!誤解されやすいけど本当に優しくて頼りになる素敵な人よ。私には分かるの」
……チアキ様はお二人いるのでしょうか?少なくとも私の知るチアキ様はそんな優しくて頼りになるお人ではないように思えますが。
本当に優しくて頼りになるお人はゴミまみれの少女のことを汚物なんてことは言わないと思います。
「やめなさい、非常識にも程があるわ。チアキ様は関係ありません。彼にも帰る国があるというのに貴女の我儘で困らせないで」
「ひど~い、そうやって私を苛める……。私、ただ怖くて不安でお願いしてるだけなのに……」
涙を浮かべるローヒインさんと険しい顔のエリザマス令嬢を傍から見ると確かにエリザマス令嬢が虐めているようにしか見えないです。言ってることはエリザマス令嬢の方が正しい筈なのに。
でも、そのエリザマス令嬢も先にチアキ様に寄っていったので、人のことを言えない気もしますが。
「そうだろうね。赤の他人である俺から見ても君みたいな子が王妃になるなんて非常識じゃないの?って思うよ」
今まで黙っていたチアキ様がようやく話し出しました。
「伝統や階級を重きに置くクアトロ国の王太子が階級も作法も全無視で礼儀も知能も無い女を王妃にするなんて狂気の沙汰だとしか思えないし」
淡々と告げるチアキ様の言葉に殿下は顔を真っ赤にして怒り出しました。
「ローヒインは僕の心を支えてくれる心優しい女神なんだ!!彼女以外、王妃に相応しい女性はいない!!!!彼女を侮辱すると許さんぞ!!!!」
「そうだ!!エリザマスのように周りに威張り散らし、身分を笠に着て暴虐の限りを尽くしている令嬢に王妃など務まるわけがない!!」
「貴様!!ローヒインに気に入られたからと調子に乗ってただで済むと思うなよ!!」
そんな彼らの言葉に少し首を傾げておかしそうに口角をあげました。
「はは、こんな知性も性格もド底辺の脳内お花畑の女に好かれるなんて吐き気しかしないね」
チアキ様、笑っていますが目が笑っていません。
「そんな女に惚れて現を抜かしてる君らも同レベルだから。女に惚れて勉学も礼儀も伝統も無視するなんてありえないしね。俺の国に糞に銀蠅、花に蝶っていう言葉があるけど正にそれだね」
まるでゴミ溜めのゴミや蛆蠅を見るかのような目で一国の王子や国の重鎮たちの息子たちを見ます。ああ、そんな目で見られたことのない彼らは怒りからか情けなさからか言葉を失ってます。
今日のチアキ様の言葉はいつもより更にキレに磨きがかかってます。怖い。