物理的にもクビが飛びそうです
こんにちは、私はリタ。王宮で働く下っ端の使用人です。
私が勤めているのは主に来賓者が宿泊する宮で清掃やお食事を運ぶことが仕事です。客人の身の回りのお世話をするのは行儀見習いである貴族令嬢たちであって平民出身の私は雑用がメインです。
そう、平民出身で顔もスタイルも平平凡凡で特にこれといった特技もなく、影の薄い私はですが何故かこの度、上司からの指示で侍女として近隣国の客人のお世話をすることになりました。
「侍女長。何かの間違いでは?私の仕事は清掃などが主だったはずなのですが……」
「それが他の侍女たちは皆半日足らずで逃げ出してしまったのよ。他の侍女も考えたのだけど貴女が適任だと思って」
「はぁ……、侍女長がそうおっしゃるなら」
どうやら采配ミスでもないようです。
その客人とは我が国、クアロト王国の西に位置する軍事国家で3番目、チュウジョウという地位の方だそうです。こちらでいえば侯爵の地位にあたるのでしょうか?
若くしてその地位に昇進し、まだ独身で更に言えば容姿に優れた男性だそうです。その為か世話を買ってでた侍女たちが客人に対して誘惑していたそうです。
それに対して客人は大激怒で侍女たちを追い出したそうです。行儀見習いの侍女たちは全て誘惑作戦を行い、失敗してしまい出禁となっていて世話をする人がいなくなってしまったということです。
侍女長曰く、
「貴女はそういうのに興味なさそうだし、それに誘惑しようにも、その、ねぇ?」
明らかに視線が顔から下にかけて見ていたように思えますが信頼してもらっていると思うことにしましょう。
「この度、チアキ=レジェクト様のお世話をさせていただきますリタと申します」
挨拶しながら部屋に入れば、漆黒の艶やかな髪に端正な顔立ちの男性が豪華な椅子に座っていました。鋭い目つきですがそれすらも様になっています。確かに誘惑したくなるのも無理はないようです。それだけ魅力のある男性でした。
「驚いた。君みたいな子が来るなんてね」
値踏みするような目で下から上まで全身を観察するレジェクト様。すると鼻で嗤われました。
「俺が追い返し続けたから趣味を変えたのかな。さすがの俺も幼女趣味はないんだけど」
ようじょ……ヨウジョ……、幼女……?
え、私もしかして子どもだと思われてます?これでも歴とした16歳の成人女性なのですが。確かにこの国の貴族令嬢の皆様に比べたら少々胸とかクビレとか色気がないかもしれませんが……、さすがに幼女と間違えられる筋合いはありませんね。
ニッコリと私もレジェクト様に笑顔を返すと、彼は片眉をぴくっと反応させた。
「安心してください。私、金髪碧眼のそれはもう心優しい紳士な男性が好みなんです。……だから私も貴方は趣味じゃないですね」
私は超いい笑顔でそうハッキリと言い放つと部屋に入ってまだ5分も経たないうちにクルリと背を向けて退出した。
……やってしまった。客人になんて酷い態度をとってしまったのでしょう。これは確実にクビですね、クビ。せっかく平民出身でここまで上手く就職できたというのに。侍女長からも「誰も気づかないうちに掃除を終わらせる侍女の鑑」とも褒められたこともあったのですが。いつもは目上の方にあんな態度は取らないんです……!!言い訳ですけど!!長いものには巻かれろタイプなんですよ!!もう何もかも遅いですが……
明日から職を探すしかないですね……
そんなことを考えながらとぼとぼと侍女長に報告すべく長い長い廊下を歩いた。
次の日、何故かクビにならずにレジェクト様に呼び出されて「何で俺がフラれたみたいになってるワケ?」とドスが効いた低い声で問い詰められました。
どうやら仕事は続けられそうですが、命の方が危なくなりそうです。