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操重王ドジャイデン  作者: 長野 郁
7/7

これからのあなたへ

 高尾駅で、銀色ステンレスボディの最新型通勤電車・E233系の快速から連れ立って降り立った僕・清水澄也と函南さんは、この駅で、国鉄時代から走っている旧式の115系勾配線区用中距離電車に乗り換えました。

 この、最後まで残ってきた、いわゆる湘南電車の系譜を引く旧国鉄型電車も、そろそろ他線区並みに新型のステンレス車への置き換えも予期される時期になってきており、その残った活躍の期間も、そろそろ秒読み段階といったところです。


 函南さんは言いました。

「富士急は、日に何本か中央線からの乗り入れ列車があるから、線路はJRと繋がってるけど、大月での乗り換えは、当日に切符を購入する場合、一旦、富士急との連絡改札口でJRの運賃をSuicaで精算したうえで、富士急の切符を買い直さなきゃならないのよねー。富士急はPasmoを導入していないから。直接、フリーパスで連絡改札を通るには、予め『みどりの窓口』で直通切符を買っとくしかないなんて面倒ね。」


 僕は答えました。

「大月かー。やっぱりさ、大月といえばなーみ、なーみと言えば大月だよねー。」

「まぁね、今時、富水なんて言い出す奴は、カビの生えたアニメマニアだけよね。『よぉ、フランダース』とか言い出す奴と大差ないわ。まぁ、豊橋先輩が言っていたように、『パトワーカー1』は古典的名作だけど。マニアにはいまだにバイブルみたいだし。」

「いや、押上信者のバイブルはもっと前の『こだ悪やつら2 ドリーマーズ・アゲイン』じゃないの? そもそも押上監督がマニアに認知された最初ってあれなんだし。」

「でも、マニアックって意味では、『天使の老卵』が最右翼でしょうね。」

「だけど、今、『天使の老卵』って言ったらやっぱりみんな…。」

「ええ、当然堀江罪を連想するでしょうね。」

「でも、押上監督が世界レベルと言われるようになったのは、映画『衝角機動隊 ―月下の騎士 鉄仮面ランナー―』だよね。」

「原作は、島松和彦のマンガ『仮面ランナー』よね。映画版の主人公の女子高生は、きらめき高校に通う、原作での二代目主人公なんだったっけ。」

「今、原作は、もう第八部に入ってるけど…。でも、あの映画、実際には相当換骨奪胎されていて、むしろモービィ・デイック監督の『ドミネーター』に対するオマージュとゆーかリスペクトになってるってーのは、巷間よく言われるところだよね。」

「妖獣武装ヴァンガードを纏って闘うのよね。」

「主人公の口癖、『もう半荘ー!』が名セリフだよね。」

「主人公の名前は田辺和だったわね。」

「この娘の、制服のスカートの裾を掴むクセがそそる…。」

「やだ、そんなとこばっかり見てるのね。」

 ナドとくだらないオタクネタのよもやま話をしているうちに、列車は大月に着きました。


 ここからいよいよ富士急の2000形「フジサン特急」乗車です。

「夏場の週末は、臨時の朝イチの便があるなんてラッキーだったよね!」

「そんなに嬉しい?」

「だって、あの電車がJRの団体専用列車・ジョイフルトレイン『パノラマエクスプレスアルプス』として走ってた頃なんて、まだ小学校にも上がってなかったから、一度か二度、親に連れられてのお出かけの時に見掛けただけだもん。今、その電車がまだ現役で、実際に乗れるってのも、感無量というか何というか…。」

「まぁ、そうかもね。塗色はあの頃の、白地に黄色とオレンジの帯とは変わっちゃったけど。」

「でも、そもそも更に元を糺せば、あの電車は、団体用に改造される前は、往年の国鉄急行型電車の名車、165系だったしねっ☆! あの、国鉄時代からのグリーンとオレンジのツートンカラーの『湘南色』の急行型だよ! そういえば、この前の九州旅行で乗った夜行快速『ムーンライトながら』だって、愛称名がつく前、まだ俗に『大垣夜行』と呼ばれていた『先史時代』には、この165系で運行されていたぐらいだよね。」

「考えてみれば、さっきまで乗ってた中央線だって、今は優等列車は特急の『かいじ』と『あずさ』だけになっちゃったけど、大昔は『あずさ』と並んで、165系の急行『アルプス』もあったものね。」

「それを言うなら、特急の『かいじ』という名前だって、元々は『アルプス』より短距離の、甲府行の165系急行の列車の愛称だったしねっ! その頃の『かいじ』は、富士急線直通の急行『かわぐち』を大月まで併結してたんだよね。」

「『かいじ』と言っても、創作ギャンブルとは関係ないわ…。」

「原子力潜水艦独立国家とも関係ないよ。」



                   ◇◇◇◇◇



 今日は、七月、夏休みに入って最初の日曜日。僕と函南さんが連れ立って中央線から富士急線に乗り換えたのは、富士登山の為です。あの戦いから半年。高校に進学した僕たちに、善光寺先生から封書で案内状が届いたのです。



 それによれば、この日、富士山頂で、殺人文部科学省を建設する際に国土から抜いた「魂」を大地に戻すために、ヴァンゲリングロボを用いた「呪術儀式」が決行されるというのです。


 その時刻は、正午。その一時間前までに、富士山頂火口外周のいわゆる「お鉢」上にある食事処「山口館」の前に集合、とのことでした。

 この儀式の開催に当たっては、全国を騒がせた「学校殺人計画」の終結ということで、全国から抽選で登山者が選出されて、観客として招待されていましたが、第ゼロおよび第一殺人学級出身者は全員が招待される、とのことでした。両者は、それぞれ別の食事処・宿泊処が集合場所として指定されているらしいです。



  ◇◇◇◇◇



 登山に先立って、僕は函南さんと、学校で、登山ルートを相談しました。


 学校。高校です。


 僕と函南さんは、当初志望していた隼高校には進学しませんでした。というか、事実上無理だったのです。というのも、十月、十一月と、丸二か月にわてってドジャイデン運用の訓練に明け暮れていた僕たちは、ろくに勉強をしておらず、成績は急降下。結局、僕たちは、隼高よりもう一ランク下の、瑞穂高校に進んだのです。


 僕は、登山ルートとして、一番ポピュラーで、登頂完了の地点が「山口館」にも近い、山梨県側の河口湖・富士吉田ルートでの登山がいいと主張しました。アクセスとしては、中央線で大月へ出て、そこから富士急行線に乗り換え、河口湖に出て、そこから富士スバルラインを走るバスで五合目まで行って、その後、頂上までの登山です。函南さんも僕の主張に同意してくれました。

 そして、集合が午前十一時と言う事は、当日の朝登り始めたのでは間に合わないし、夜中に徹夜で登るのも疲れそうだし初心者には危険だと思ったので、前日の土曜日の内に登山を開始し、八合目の山小屋で一泊するのが良いだろうという結論になりました。



                   ◇◇◇◇◇



 当日、夏休みの最初の土曜日の早朝に、僕は、この為に手に入れた登山靴を履いて、リュックの中には防寒着や雨具、軍手も準備して出かけたのです。函南さんとは練馬駅で待ち合わせして、始発電車に乗って所沢経由で国分寺に出て、そこからJR中央線で、高尾で乗り換えて、大月を目指すのです。


 練馬駅改札で函南さんに会うと、彼女は、僕の様子を見るなり言いました。

「澄也くん、今日は御機嫌ね。富士山がそんなに嬉しいの?」


 僕は、普段通り単に全開能天気上機嫌だっただけのつもりだったのですが、どうも、傍目には、いつも以上、自覚以上の「るんるん」と映っていたようです。実際、やっぱり今日の僕は、いつも以上に「るんるん」のようです。車中でも、自然と鼻歌なども出て来ます。

「昨日 見た夢 でっかい小さい夢だよ 蚤がリュック背負って 富士登山~♪」

「澄也くん、『蚤がリュック背負って富士登山』なんて、前に禅昌寺先生が言ってた『身の丈に合わない行為』じゃないの? それじゃあ、くそぶたくんの野球と同じじゃない?」

「いや、そうじゃないんだよ、函南さん。僕には分ったんだ。『身の丈に合わないことをする』のと『夢を持つ』こととは違うと思うんだ。中学の時に毎年マラソン大会やって、三回が三回ともそうだったから、はっきり分かっているけど、僕はどうあがいても、あの行事では、必ず下からベストテンだ。それは生まれつきの能力で、どう逆立ちしてもその差は埋まらない。人間に空を飛べと言っても、鳥でない以上、無理だ。そういうレベルで不可能な事ってのは、現実にあると思うんだ。」

「そりゃまぁ、そうよね。」

「だから僕は、不可能を追い求めるんじゃなくて、何かもっとうまくやれる他の道を探そうと思っただけなんだよ。所詮、自分は自分。それ以上でもそれ以下でもない。無理に背伸びしても、ろくなことはないと思うんだ。だから、そう考えてみるなら、誰にだって等身大の自分だけに出来ることがあると思うんだ。だから、その出来ることを一歩ずつ積み重ねてゆくことでしか、『夢』には近付くことは出来ないんじゃないかな。」

「そうか、言われてみりゃあそうかもしれないわね。」

「…多分、くそぶたくんにも、そういうのは、あったんだと思う。禅昌寺先生は、それが判っていたから、くそぶたくんにその一歩を始めさせるために、あんなことをしたんだと思うんだよね。」



「…思い出したんだけど、中学の二年の時に、くそぶたくんってば体育着を忘れたっていうんで、澄也くんのところに借りに来て、それであなたが彼に体育着を貸したら、くそぶたくんに短パンを破かれちゃったと言って、慌てて他のクラスの子の所に借りに行ってたわよね。」

「そういえばそんなこともあったっけ。」

「くそぶたくんは、あの通り、控え目に言っても相当太目だから、細っこい体の澄也くんの短パンに、自分の体が収まるわきゃないって、分かってたでしょうにね。貸してくれる人を、他に思い当らなかったんでしょうね…。でも、単にそれだけじゃないのかもしれないわね…。何で、澄也くんじゃなきゃいけなかったのか、わかるような気もするわ。鉄道が好きだったくそぶたくんが、鉄道研には結局入らなかったのに、澄也くんになついていたのも、あなたにはそういうふうに欠陥もあって、それを自分で認めていたからじゃないかという気がするわ。」

「まぁ、出来ないことは出来ないからね。とにかく、富士山だって空中に浮かんでいるわけじゃない。所詮、地続きなんだ。『身の丈に合わないこと』ってのは、空中楼閣みたいに、かけ離れたものを目指す事を言うんだと思う。でも、『地続きの登山』ならば、蚤だって一歩ずつ登ることはできるんだ。『夢』って、そういうものだと思うんだよね。」



                   ◇◇◇◇◇



 河口湖で「フジサン特急」を降りた後、今や全国的にも珍しい設備である「構内踏切」を渡って電車の駅を出て、観光客で賑わう駅前から、登山バスに乗り換えて約一時間、五合目まで行き、五合目からはいよいよ歩いて登山です。


 この河口湖・吉田ルートの五合目は、まだ「登山の基地」というより「観光地」といった色彩も強い場所です。実際、ここにはレストハウスや売店も多く立ち並んでおり、ここまでバスでやって来て、ここを目的地として、そのまま引き返す観光客も結構いるので、たむろする人々も、僕達のようにいかにも登山といった格好の人ばかりではありません。よって、ここから先が、いよいよ本番です。


 賑わう五合目を後に登山道に入りますが、しばらくは樹林の中のなだらかな上り坂で、まだまだウォーミングアップといった風情です。そのまましばらく進むと、樹林は姿を消し、傾斜が急になってゆき、砂礫のごろごろしたジグザグの坂道が待っています。七合目あたりからは、さらに傾斜も本格的になってきて、ごつごつした岩の間を縫うように進むようになってゆきます。

「ちょっと待って。函南さん、速い、速いよ。」

「相変わらずスタミナがないのねー。」


 五合目から、この道を通って八合目まで、四時間ほどかかったので、八合目の山小屋「太子荘」に着いた時には、既に夕方になりつつありました。ここは、八合目にある幾つかの宿泊施設のうちでも、標高的には一番低いのですが、最大の収容人員を誇る最も大きな宿です。

 建物は総檜造りの木造で、夕食はカレーライスに何品か他のおかずが添えられたものでした。就寝時には、寝袋は用意して貰えますが、個室ではなく大部屋で雑魚寝です。この条件で九千六百円ナリという宿泊料金は、かなり高い気もしますが、ここは山中です。仕方のないことなのではありましょう。


 翌朝、釜めしの朝食を平らげて六時半ごろ「太子荘」を後にして頂上を目指しました。ゆっくりめのペースで登れば、頂上までは三時間ほどの道のりです。


「だいぶ急になってきたね。」

「この石ころ道、登りにくいわ。」


 喘ぎながら登ってゆくと、なぜか鳥居が立っています。事前に読んでいたガイドブックによれば、これが九合目だそうです。

 そして、最後に石段を登ると、遂に山頂の火口を一周するルートである「お鉢」に到着しました。その入り口には、やはり鳥居が立っています。


「この鳥居が、ガイドブックで見た久須誌神社ね。」

「その脇の山小屋が並んでるところの横に、休憩コーナーがある筈だよ。」


 ベンチの並べて置いてあるそこで、一休みすることにしました。今日は幸運にも天気はよく、霧も出ていません。ここから「第ゼロ殺人学級」の集合場所の「山口館」までは、登って来た登山道から見て左方向に「お鉢」のルートを辿れば、それほど遠くありません。



 そして、火口の方を見下ろすと、「お鉢」から一段下がった火口の縁の周囲に、松明を掲げ持った巨大なロボが車座に整列しているのが見て取れました。


「へーっ、これがヴァンゲリングロボかぁ!!」

「実物を見るのは初めてね。」


 善光寺先生からの封書によれば、このロボは、超重量物運搬用超弩級高高度飛行用双発式ヘリコプターによって山頂まで運搬され、既にこの「呪術」決行日の数日前には据え付けられていたらしいです。ロボが掲げ持っている松明には、まだ火は灯されていないようでした。この松明は、その本体は木造ではなく金属製のようで、「松明」というより、ガスか石油を燃料とした「トーチ」の一種なのかもしれませんが、その辺りまでは、よくは分かりませんでした。まぁ、急に火が消えたりしたら大変ですからね。

 しかし何はともあれ、とにかく、この巨体が勢揃いしたさまは壮観です。



                   ◇◇◇◇◇



 もうじき十一時です。僕達は休憩コーナーを後にして「山口館」の前に向かいました。そこには既に人混みができていて、去年まで一緒のクラスで過ごした懐かしい顔ぶれが集まってきていました。どうも、僕達の休んでいた休憩コーナーには、他の元同級生が居なかったことから推測するに、みんなのうち多くは、静岡側の三ルートのいずれかを使って登って来たのではないかと思われます。


 集まってきた中には、丑号機に乗った、あの掛川くんもいました。彼は、実は、意外なことに、高校でも僕の同級生になってしまいました。僕達とは逆に、掛川くんは、あのアンビリーバブルケーブル切断作戦の一件をきっかけに、何事もやれば出来るもんだと思うようになったというのです。そこで、あの作戦が終わった後、ためしにちょっと勉強してみたら、ものの二か月ほどで、いきなり成績が急上昇して瑞穂高校に合格してしまったのです。


 僕は彼に話しかけました。

「僕たち、山梨側の河口湖・吉田ルートから登ってきたから、帰りもそっちを通って富士急で帰るけど、君はどっちから来たの?」

「静岡側の富士宮ルートだ。新幹線の三島駅からのバスで来た。五合目の標高が高くて、歩く距離が短い分、手頃だと思ったからな。帰りもそっちから行くつもりだ。」


 ふと見ると、函南さんは、早川さん・豊橋さんと三人で、何やら、きゃっきゃウフフと盛り上がっています。早川さん・豊橋さんも、元々隼高校志望だったものの、殺人教育者の一件で、やはり成績は下落。まるで仲良しの函南さんに付き合うみたいに、瑞穂高校に落ち着いてしまっていました。とはいえ、早川さんは、入院していたブランクもあるので、受験直前には相当頑張って勉強したらしい、と、函南さんは僕に言っていました。


 函南さん達三人から二メートルくらい離れたところから、蒲原さんが一人で、そっぽを向いたふりをしながら、この三人の方をちらちら伺っています。本人は素知らぬ振りをしているつもりのようですが、僕の目にも意識し過ぎがバレバレです。どうやら彼女達と話したいようですが…。何やってんだか。

 無論、函南さんはそんな事にはとっくに気付いているようで、この構図を見てちょっと苦笑した僕に気づき、こっちを見て一瞬クスリと笑ってから、すぐまた談笑に戻りました。


 「山口館」は、入って休むだけなら無料なので、直接ここに来て、時間まで中で休んでいた生徒も多かったようです。時間が来たので、そういった生徒達も、一旦ぞろぞろと外に出て来ました。そこへ善光寺先生が現れました。先生に会うのも久しぶりです。善光寺先生は、電気式の拡声器を使って僕達に呼びかけました。

「よーし、集まってるようだな、出席を取るぞ、ぐふふふふ。順に名前を呼ぶから返事をしろ。」



 出席を取った後、善光寺先生が拡声器で言いました。

「よし、あと四十五分程で『呪術儀式』が始まる。それまで各自、この辺で待機していろ、ぐふふふふ。幸い今日は晴れていて、火口である大内院もよく見える。ヴァンゲリングロボを見物するのに丁度いいポジションを探しておくのもいいだろう。ヴァンゲリングロボは、真北に位置するのが、A号機で、以下、反時計回りに2号機、3号機…、そして最後のK号機、の順に、十三体が配置されている。そして、火口の中央には、御神刀『殺人丸』が安置されていて、ヴァンゲリングロボによって形成される呪的回路の憑代となるというわけだ。」


 善光寺先生は続けました。

「まぁ、見物に熱中しすぎて火口に転落しないように充分に注意しろよ。そして、『儀式』には二~三十分はかかるようだ。各自、心して『儀式』を見学しろ。『儀式』が終わった後は、お前らも知っての通り、『真のメインイベント』だ。楽しみにしていろ、ぐふふふふ。それが終わったら、午後一時十五分頃からこの『山口館』で昼食を摂って、一時四十分頃に解散とする。その後は、各自、好きなように下山するがいい。おまえらも、もう高校生だ。今回のこの『富士登山』にしても、なんらカリキュラムや公式行事の一環には非ず。今回の案内状にも書いておいたことだが、あくまでも、おまえら個人の意志で集まって貰った迄の話なのである。だから、帰路についても、いちいち集団行動を指導したりはせん。連絡事項は以上である。」



                   ◇◇◇◇◇



 そうしているうちに、ヴァンゲリングロボの「呪術儀式」が始まりました。「五十七メートルを超すと言っても過言ではない」ところの巨大な「ロボ」が、「六十二メートルを超すと言っても過言ではない」ところの「火のついた松明」を、繰り返し火口中央に向かって、十三体が「シンクロ」して振り下ろすさまは壮観でした。



                   ◇◇◇◇◇



 そして、問題の「真のメインイベント」の時間です。それは何かって?



 僕は沼津くんに言いました。

 「比等志くん、いよいよだねっ、メインイベント。面白いよねっ!」

 「いや、澄也くん、これ、やっぱ悪趣味だよ。」

 「まぁ、そう言わずに、せっかく来たんだから目一杯楽しもうよ☆!」



 その会場は、火口一周ルートである「お鉢」上に位置する富士山頂浅間大杜奥社です。


 境内の鳥居の奥に、特設の演台が設けられていました。そこに登場したのは、総理大臣すなわち殺人総理大臣です。演台の後方には、既に首を吊るためのロープと十三段の階段が設置されていて、処刑の準備は万端に整っているようでした。


 そう、皇居で、あの時、両手を後ろに縛られていたのは禅昌寺先生ですが、今、両手を縛られて二人の刑務官に付き添われているのは殺人総理大臣その人です。



 殺人総理大臣は、マイクに向かって宣言しました。


「私は、先般の『ぶらさがりフェスタ』に於いて、『学校殺人計画』及び『人間改良計画』に、政治生命のみならず、人間としての生物学的生命までもを賭けて邁進する所存である、と誓約いたしました! この誓約は公約であります! 今、殺人文部科学省は失われ、『学校殺人計画』の命運は、尽きました! 公約でありますから、私は、ここ、この霊峰の山頂において、私の、この一命を辞するものであります!!」





 ぶらーん。





 小旗が手に手に打ち振られました。この模様は、演台の周囲に設置されたテレビカメラを通じて、全国にも中継されている筈です。



 こうして、「学校殺人計画」は、終焉を迎えたのです。

 笑えて泣けて感動出来て、読むと少し元気になれる。そんな物語を書いてみたいなぁとは前々から思っていたところでした。今回、それを実現に移すべく書いたこのささやかな物語をwebの片隅へのアップロードにてお送り致します。あなたの心と魂に想いがまっすぐに届きますように…。

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