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第壱話

 目が覚めると、知らない天井が視界に入った。

 俺は死んだはずだ。

 あの時の事は全く覚えていないが、最後に自分が思った事だけは覚えていた。


 ああ、まだ両親には会えないのか…、と思いながら体を起こす。

 痛むはずの体は全く痛くなかった。

 不思議に思い、体に掛けられていた布団をどかすと、ボロボロで血塗れだった服から新しい服に変えられていた。

 傷口は塞がっていたが、無数にある傷口が何とも痛々しかった。

 こんなに傷ついていたのか、と自分の体ながら自覚していなかったあの頃の自分に呆れた。


 そして、周りを見渡しながら一言。


「ここ、どこ?」


 部屋は広く、俺の家の2倍くらいあった。

 白を基調とした部屋で所々に金色の装飾が目立った。

 そして、置いてある家具もどれも高級そうでここが夢か天国かと言われた方が信じれた。


 その時、扉が開き一人の少女と侍女が2人入ってきた。

 少女は長い銀髪をツインテールで纏めていた。

 瞳は綺麗なエメラルドグリーンで、とても優しそうな印象を受けた。


 少女は俺の事に気付くと走って俺に抱き着く。


「良かったです…。本当に…良かったです…」


 泣きながらそう言う少女に呆気に取られながら、俺は状況を聞いた。


「ここは…どこですか?」


 俺がそう言うと、少女は我に返ったように、飛び退いて恥ずかしそうにしながら言った。


「ここは王城です…。あの時の事…覚えていますか?」


(あの時って、どの時?)


 俺がポカンとした様子で少女の顔を見ていると、少女は察したのか説明し始めた。


「盗賊に襲われていた私を貴方が助けてくれたんです。お陰で私は無事でしたが貴方は酷い怪我を負って、倒れてしまったのです。傷は私が治癒魔法で治しましたが…」


 最後は歯切れが悪そうにそう言った。

 俺の傷跡は彼女が直してくれたお陰なのか、と感謝しているのだが彼女は俯いたまま申し訳なさそうにしていた。


「どうかしたのですか?」

「えっ…と…。…ごめんなさい。私の今の実力では貴女の怪我をちゃんと治せなくて…傷跡を残してしまって…」


 ああ、そんな事か、と思いながら俺は少女の頭を撫でた。


「大丈夫ですよ。あの時はもう、死ぬつもりでしたから。むしろ、治してくれた事に感謝しています」


 あの時、一つだけ覚えている事。

 あそこで死んでもいい、と思った事だけは覚えていた。


「…そう…でしたか…」


 悲しそうな顔でそう言った彼女を何故か愛おしいと思った。

 その後、特に何事もなく彼女は去って行った。


 これからどうなるのかは分からない。何処かで仕事を見つけて、細々と暮らす。これが俺の運命なのかもしれない。

 でも、もう少しだけ彼女と話して居たいと思った。

 初対面でそう思ったのはきっと彼女がとても綺麗で可愛かったからだろう。所謂、一目惚れという奴かもしれないが7歳の俺にはそんな事は分からなかった。

 ただ、今胸の中にある感情が何なのか。それだけが知りたかった。


 翌日。

 俺は国王に呼び出された。

 今いるのは王座の間と呼ばれるところ、らしい。

 そして、目の前にいるがたいの良いおっさんがこの国の国王。その隣にあの少女が居た。

 彼女を見て俺は思い出した。


(名前、聞くの忘れたなー)


「表を上げよ…」


 低い声で国王はそう言った。俺は俯いていた顔を上げて、国王を見る。


「まずは、娘を救ってくれた事、礼を言う」


(娘…?国王の娘…。という事は…王女…姫…。……は?)


「は?」


 声に出てしまった。

 それを聞いた国王は面白そうに笑い出した。


「ふむ。下心があったから助けたのかと思ったが…。その顔は知らずに助けたな?」

「はい…。あの時の事は記憶にありませんが、誰かのために生きられたら、と思った事は覚えています…」


 俺がそう言うと国王は少し考えて、口を開いた。


「それでは、お前に一つ頼みたいことがある」


(頼みたい事?命令じゃなくて?)


「お前に我が娘の付人を任せたい」

「…付…人?」


(何それ…?)


「よいか?」

「あっ…はい…」


 訳が分からず、引き受けてしまった。

 国王の横で王女様は「やったー!」と喜んでいる。どういうことなのかさっぱりわからない。


 後で聞いた話、王女様は今年で6歳になるらしい。

 そして、6歳になると他国の超一流の学園に入学するのだとか。その付人として行ってほしいという事。

 なんでも、彼女が俺じゃないと嫌と言ったらしい。

 それで、国王は俺がどこかの刺客じゃないかと勘繰り、試したのだという。


(まじかー…。付人…どっちかって言うと護衛か?)


 普通は付人とは別に護衛の人も来るはずなのだが、王女様が拒否したらしい。「彼だけで十分です!」って言ったんだって。無茶言うなよ…と心の中で思っていた。

 しかし、引き受けてしまった物は仕方がない。やるしかないのだ。仕事はきちんとこなす。親父から学んだことの一つだ。


 それから、王女様(マリ―・ロマニーク)の護衛を務めるために、訓練が始まった。

 宮廷騎士たちに交じって必死で訓練した。

 訓練は厳しかったが、騎士の人たちはすごく優しくしてくれた。俺の第二の家族になってくれた。


 そして、出発の日。

 真新しい制服に身を包んで、俺とマリー様は馬車に乗る。


「しっかりとやって来いよ!」

「はい!」


 騎士団長の言葉に元気よく返す。

 今度、ここに戻ってくるのは夏の長期休学時だ。

 それまでに俺は王女様を守れるだろうか。


 俺の不安を他所に馬車は出発した。

評価してくださると、嬉しいです。

そして、投稿ペースが上がるかも、しれないです。

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