プロローグ
俺は小さな村に生まれて、特に目立った才能もなく、普通の村人として暮らしていた。
その村では米を育てて、近くの街で売る事で生計を立てていた。
そして、米の時期以外は畑を耕して、少しでも生活を楽にしようと皆が一生懸命に働いていた。
今日も今日とて俺は親父と一緒に畑を耕す。
桑を頭上に掲げて、勢いよく振り下ろす。
ザクッという音を立てて、土を耕していく。
6歳の体には重労働だった。
それでも、俺は泣き言を言わずにひたすら桑を振り下ろし続けた。
畑を耕さなければ、生きて行けないと幼くも理解していた俺は掌の豆が潰れようとも構わず、振り続けた。
こんな貧しい暮らしでも、俺は満足だった。
優しい母親と厳しいが頼れる親父が居てくれた。
それだけで十分だった。
しかし、俺が7歳になった時に両親が流行り病で倒れた。
親戚もなく、頼れる場所がなかった俺は孤児となった。
村の人々は自分達の事で精一杯で、俺を構っている余裕などなかった。
俺は村を出た。
近くの街に行って、何かを職を探そうと歩いた。
子供の体では近くの街まで行くのに10日は掛かる。
それでも、生き残るにはそうするしかなかった。
道中には狼やゴブリン等の魔物が出てきたが、何とか退ける事ができていた。
しかし、どうしようもない飢えと疲労、魔物との戦闘でできた傷が痛み、どんどん俺の体力がなくなっていく。
そして、村を出て5日を過ぎた。
木の棒にしがみつきながら、ひたすら歩く。
足取りは重く、度重なる戦闘でできた傷からは血が少しずつ流れ続けている。
自分でも今、生きていて意識があり、体を動かせている事が不思議だった。
朦朧とする意識の中で、進路上に淡い明かりが見えた。
それと、同時に悲鳴が聞こえた。
既に思考は麻痺しており、ただひたすらに歩く機械のようになっていた俺はゆっくりとその明かりに近づいていった。
鎧を着た者が3人。
その3人に守るように取り囲まれている少女が1人。
そして、鎧の周りを取り囲んでいた男が6人。
男たちの足元には鎧を着た人が何人か倒れていた。
少女は綺麗な銀髪のツインテールで白い肌とエメラルドグリーンの瞳を持った可憐な少女で、純白のドレスを着ていた。
見るからに貴族の格好だった。
その目には涙が浮かんでいた。
俺はその様子を遠くから眺めていた。
押されているのは騎士たち。
全滅も時間の問題だろう。
思考回路が完全に麻痺していた俺は再び歩き続ける。
徐々に狭まる男達との距離。
男達は俺に気付くことなく、目の前に釘付けだった。
男達との距離が10メートルに近づいた時、ふと思った。
(誰かを助けられたら……。そんな生き方ができたなら…どんなに美しいだろうか…)
そう思った。
俺は親父からよく英雄のおとぎ話を聞かされていた。
そして、いつも思った…。
こう生きられたらなと。
(ここで例え死んでも、助けた人が俺の命を拾って、生きてくれたら…その時…俺は…何を感じるのだろうか…)
次の瞬間、俺の体は動いていた。
しがみついていた木の棒を右手に持って男達に向かって走った。
男達は俺に気付く事はなく、ただ目の前の獲物を見ていた。
俺は一番近くに居た男の頭を木の棒で思いっきり殴った。
「ウガッ!?」
男は一瞬よろけると、俺を視認し、怒りを込めた蹴りで俺を吹き飛ばす。
「うっ…」
その衝撃で木の棒を手放した。
「どうした!?」
「なんか餓鬼が殴ってきやがった」
俺はゆっくりと立ち上がり、近くにあった剣を拾う。
それを右手に持って男達にゆっくりと近づく。
目はまっすぐにさっき俺を蹴った男へと向ける。
「餓鬼がっ!」
男はそう言いながら剣を振り下ろす。
俺はその剣をギリギリで交わすと右手の剣で男の足を浅く切った。
男は一瞬よろめく。
「チッ…」
そのまま、俺は剣を男の首めがけて振るう。
しかし、それよりも早くに男の仲間が俺の背中を切った。
俺は切られながらも力いっぱいに剣を振るった。
剣は男の首に刺さり、絶命した。
「この野郎!」
男達が一斉に跳びかかってくる。
男に刺さった剣は抜けない。
俺はすでに満身創痍だったが、体は勝手に動き、最善の行動をとった。
男の死体を盾にして、2人の斬撃を躱すと男が持っていた剣を拾う。
しかし、すでに体に力が入らず、うまく持つ事ができない。
そこで、男の腰にあった短剣を抜き、後ろから切り掛かってきた2人の内、一人の斬撃を躱す。
もう一人の斬撃は俺の左手を浅く切った。
もうすでに痛みという感覚はない。
体はただ、目の前の敵を殺す事だけを目的として動いていた。
男の一人の首元に短剣を突き刺す。
すぐに、短剣を手放して、新しい短剣を抜き、もう一人の首に刺した。
残り3人。
血で見えにくくなった目で残りの3人を見据える。
死体から短剣を二本抜いて、両手に持つ。
そのまま、ゆっくりと男達に近づいた。
俺の体は血塗れで、生きているのが不思議なくらいの傷を抱えている。
しかし、俺は生きていて、それも今、男達を殺そうと向かってきている。
その光景に男達は恐怖を覚え、逃げて行った。
男達が逃げた後も俺は歩いていた。
その足取りは少女に向かっていた。
残っていた騎士は少女を守るために剣を構えて俺の前に立ち塞がる。
「そこで止まれ…!」
騎士がそう言うが俺は止まらない。
ゆっくりと少女に近づいて行く。
「止まらなければ…切るぞ!」
騎士の声には恐怖と焦りがあった。
騎士達もまた、俺の姿に恐怖していた。
俺は騎士達と後、1メートルというところで短剣を両手から離して、膝から崩れ落ちた。
とうとう、力尽きた俺は薄れゆく意識の中でこう思った。
(もう…十分だ…。父さん…母さん…ごめん…。すぐにそっちに行く…。でも、少しくらいは褒めて欲しい…。こんな俺でも…誰かを守れたって…。誰かのために命を使えたんだって…)
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