第3章
3 共同宿泊所
新学期が始まり、私のこのみしらぬ地での教員生活もスタートした。
ここは、近くに山間僻地の生徒用の共同宿泊所がある珍しい学校だった。
春休み生徒たちはそれぞれ、遠い自宅に帰っていて新学期になると戻ってくるのだった。
私と生徒たちの始めての出会い。
それは、始業式の朝だった。
私は誰よりも早く登校。
橋を渡り朝霧にかすむ校門を入ったときだった。
霧のかなたに1人の少女の影を見たような気がしたのだった。しかし、それは単なる目の錯覚だったのかもしれない。
私は当時ドイツロマン主義に心酔し、
ノバーリスの「青い花」や
ティークの「ルーネンベルク」に
傾倒してもいたから何かと夢見がちになっても仕方なかったのだ。
私のゾフィーはどこかにきっといるなんて確かに信じていたのだ。
始業式私は始めて生徒と対面した。
30人ばかりの混合学級の生徒は私には素朴でひなびた
田舎の子供に過ぎずまさか、その中に後に私の
ゾフィーがいようなんて思いもしなかった。
なぜってその子はその時障害である持病が悪化してその県の
県庁所在地の病院に入院していて始業式にはいなかったからなのだった。
私は上級学年のクラスを受け持つこととなり
9人ばかりの副担任になった。
主担任は40歳代の山下という女先生で後に知ったが、独身だった。
私は早速クラスに行き、
山下先生に紹介してもらった。
おっとりした、渡部(生徒会長)さん、童顔の中内さん、きかんきそうな木下君、
ひょっこりひょうたん島の博士に、似た宮下君
おとなしくて消え入りそうな須郷さん
ひとなつこそうな神栖さん、詩人の斉藤さん
そして、哲学者みたいな割下君
以上8人だった。
「ああそうだ、木暮さんはいつからくるんだったけ?」
ひょっと、山下先生がそう問いかけた。
渡部さんが、「エーと、来週からかな?」
「そうですか、じゃそのとき、また紹介しましょう」
私は別にもう一人の生徒がいることを気にもとめることはなかったが、
その出会いがこうして今でも私の青春の肖像として刻み込まれているのであるから
思えば不思議なことではある。
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