ガラの悪い冒険者モブは妻子持ち
ハエルの家の庭はそこまで大きくはないが子供が息子はまだ小さいので十分に遊べる広さだ。
息子のティムは愛犬と追いかけっこをして遊んでいる。ハエルはそれを眺めているとなんとも言えない幸福感で胸が満たされる。
しかし、今日はすこしの寂しさが胸をかすめた。
「ティム、そろそろ父さんは仕事にいくよ。」
ティムはそれを、聞くと先程の笑顔が嘘だったかのように寂しそうな顔になり、ハエルに近づいて喋りかける。
「父さん、次はいつ帰ってくるの?」
「いつもと一緒さ、1ヶ月ほどでかえるよ。」
「僕嫌だよ。父さん、仕事からかえってくるといつもぼろぼろなんだ。父さんが可愛そうだよ。」
いきなりの息子の言葉にハエルは言葉につまっていると、後ろから女性の声がきこえる。
「あなた、あんな仕事はもうやめて。いつか本当に体をこわしてしまうよ。私もティムもいつも心配で仕方ないの。」
「しかし、お前たちを養っていかないと!俺はお前たちには苦労かけたくない。」
「あなたは十分がんばってるわ。帰ってきたらどんなに疲れていても家事を手伝ってくれて、ティムとも遊んでくれて。あなたは十分いい父親よ。私に苦労かけてもいいのよ。私もティムも裕福な暮らしがしたいわけじゃないの。あなたと3人でいつも一緒いられればどれだけ幸せか。」
「魔族役にくらべたら俺の仕事は安全さ。それにもう少しで出世して上位冒険者役になれる。そしたら一緒に暮らせるから。」
「それでも、危ない仕事じゃない!ナタリアさんの旦那さん亡くなったって聞いて、もう心配で…」
「大丈夫。すぐ帰ってくるから。もう少し、もう少しだけだから。俺はな感謝しているんだ。地球にいた時はどうしようもない人生だった。この汚れた手でもお前が握ってくれて…」
「本当に幸せなんだ。この俺にはもったいないくらいに。それに、あの仕事は罪滅ぼしでもある。」
「あなたが人を殺めたのは妹さんが殺されたからじゃない。私だって貴方の立場なら同じことをしたわ。誰も貴方を責められないわ!」
「それでも!…それでも仕方ないんだ。ごめんよ。絶対帰ってくるから。」
「父さん…」
「帰ったら今度は釣りに行こうな、ティム。来月のミル湖はきっとたのしいぞ。」
「それじゃあ、いってくるよ。」
「あなた……いってらっしゃい…」
ハエルの妻は一度も振り返らなかったハエルの背中を眺めながら流れる涙をそのままにただ無事に帰ることを祈っていた
あれ?予想以上に空気が重いぞ。