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第5話「お礼」

 怪人シャークヒューマンを倒したキャンサー。謎の事象に遭遇したりもしたが、その後は特に何か不思議なことが起こることはなかった。

 そして次の日。

 今日は土曜日、休日である。

 小学生のキャンサーにとっては、まさに自由な日。友達と遊ぶことも、ショッピングに行くことも自由。解放された気分になる特別な曜日だ。

 しかし、キャンサーは特に遊ぶこともなければ、買い物に出かけるお金も持ってはいない。

 ただ、いつものように図書館で借りてきた本をリビングで読むだけの日であった。


「おおっキャンサー! 相変わらず陰気なツラしてんなぁー!!」


 彼女が静かに本を読んでいると、ガサツそうな女性がリビングへ姿を現した。

 彼女は、獅子島乃絵瑠。魔法少女レオの名を持つ高校生一年生だ。

 引き締まった肉体に乱暴な口調。魔法少女と名乗るにはあまりに粗暴が目立つ彼女は、ドサっとキャンサーの隣に腰掛けた。


「……レオ。今日は部活があるんじゃないの?」

「昼からな。午前中は暇だから、いつも退屈そうにしているお前の相手でもしてやろうと思ったんだ!!」

「……はぁ」


 キャンサーは面倒臭そうにレオを見る。彼女にとっては親切心での行いなのだろうが、キャンサーにとってはいい迷惑だった。読書中に割って入られること程、邪魔なことはない。

 しかし、相手は仮にも年上。

 キャンサーは本を閉じて、テーブルの上にそれを置いた。


「で、何をするんですか?」

「うーんそうだなぁ。特に考えてはいなかったけど……そうだ! 外でランニングでもするか!」

「運動なら、毎晩のように激しい動きをしていますけど。主に命懸けで」

「バッカ、怪人退治とランニングは全く別だろう? 青空の下で、風を切って走るんだ!」

「まあ暇だから良いですけど……」


 キャンサーは、レオの誘いに付き合おうとソファーから立ち上がる。


「待ちなさい」


 すると、今度は別の女性がリビングに入ってきた。

 長身のその人物は、魔法少女タウラス。本名、花守戒。レオの二つ上の高校三年生の少女だ。


「……キャンサー。貴女、テストが近いのでしょう? 私が教えて差し上げますから、教科書と筆記用具を持ってきてください」

「え、あ……」


 突然のことに、キャンサーはしばし呆気にとられた。

 ガサツなレオと違い、タウラスは、学校では品行方正で真面目な優等生で通っている。日頃は、学校の行事やアルバイトに励む彼女が、緊急時を除いて、キャンサーなどの他の魔法少女と積極的に関わろうとすることはあまりない。

 なので、いきなりタウラスが現れ勉強を見る、などと言ってきたことにキャンサーは驚いたのである。


「おい! キャンサーは、俺とランニングをするんだよ! テスト勉強なんて後回しだ!!」

「何を言いますか。そんなものより学業に専念する方が何よりも有意義です。私達、魔法少女は仮にも学生なのですよ」

「だからこそ、たまの時間に息抜きするんじゃねーか! 勉強なんて苦行、休みの日にやらせるとか頭おかしーんじゃねーの!?」

「……何ですって? 勉学こそ、人間にとって最も必要なこと。それを蔑ろにするなんて……」


 レオとタウラスが睨み合う。

 部活でも空手部に所属し、運動大好きである魔法少女。

 学年トップで、学校でも家でも学び尽くすことを生きがいとする魔法少女。

 互いに正反対と言っても良い性格の持ち主だ。そのため、こうして啀み合いになることもしばしば起きてしまう。

 とはいえ、自分が原因で喧嘩をさせるわけにはいかないと、キャンサーは二人を止めに入ろうとする。


「あの、二人共……」


 と、その時。

 キャンサーが止めに入る前に、二人を制止する人物が現れた。


「……もう、二人共喧嘩はダメよ?」


 豊満な体を持つおっとりとした少女が二人の間に立った。

 彼女は、魔法少女アクア。本名、青木聖蘭。

 アクアが現れたことで、レオとタウラスは距離をとる。


「……アクア」

「レオ、タウラス。二人共、キャンサーちゃんの事が心配なのはわかるわ。でも、だからってキャンサーちゃんの前で喧嘩をしたら、キャンサーちゃんが困っちゃうでしょう?」

「ああ……。そうですね」


 タウラスは、申し訳なさそうにキャンサーを見る。


「すみませんキャンサー。私としたことが、つい熱くなってしまいました」

「えっと……」

「お、俺も悪かった。何というかその……お前のことが気になってさ」

「?」


 キャンサーは、二人の言っている意味がよくわからず、首を傾げる。


「うふふっ。キャンサー、二人は貴女のことを気遣っているのよ。このところ忙しそうにしていたから」

「気遣い?」


 キャンサーが呟くと、二人はそっと頷いた。


「いや……ここ最近、お前にばっかり怪人退治を任せてるだろう? だから、日頃の感謝というか、俺らでお前に何かしてやれないかなぁ〜って思ったんだよ」

「本来、怪人退治などの危険な仕事は、私達年上が率先して前に出るべきです。それなのに、まだ12歳のキャンサーに多くを任せてしまっている……。正直、申し訳ないと思っています」


 そこまで聞いて、キャンサーはようやく理解出来た。

 要するに、この二人は怪人退治で大変なキャンサーにお礼をしたかったのだ。自分達が戦いに向かえないことに後ろめたさを感じ、せめて自分達が出来る限りの恩返しを、頑張る仲間に返そうとした。

 キャンサーにとっては、高校生である彼女達は、生活を支えてくれる大事な働き手だ。だから、働くことが出来ないキャンサーにしてみれば、ただの適材適所というだけ話だと思っていた。

 しかし、レオとタウラスはそう思えなかったのだろう。高校生の自分達よりさらに幼い少女に危険な戦いへと向かわせてしまっている。それに思うところがあったのだ。


「その……あーなんだ。困ったことがあったらいつでも声をかけろよ。どんな時だって駆けつけに行くからさ!」

「右に同じです。しばらくはまだ、貴女に任せることになるでしょうが、それでも私達に出来ることがあれば、何でも言ってください」


 そう、二人は言った。

 キャンサーは、二人にどんな返事をすれば良いのか少し悩んだが、


「……ありがとう。いざとなったらお願いするよ」


 結局、月並みな返事をするだけに終わった。

 その言葉を聞いて、レオは衝動のままにキャンサーに抱きついた。


「あーこの野郎! 小さいのになんて健気な奴だお前はよぉぉぉぉ!!」

「く、苦しいよ……レオ」


 キャンサーは、力一杯に抱きつくレオに困惑する。


「仲が良いわね〜。キャンサーちゃん、私も出来るだけ怪人と戦えるように時間を作るからね。少なくとも、ここにいる二人よりは余裕があるしね」

「あ、うん。アクアもありがとうね」

「うふふっ、どういたしまして」


 アクアは柔和に微笑む。


「……あ!」


 と、そこで彼女達の腕輪が光りだした。

 どうやら、近くに怪人が現れたらしい。


「全く、休日だというのに忙しない……」

「おう、早速出番か! キャンサー、今回は俺達に任せておけ!!」

「たまには、私達が活躍しないとね〜。うふふっ」


 三人は、やる気満々な調子で、怪人のいる場所へと向かう。

 魔法少女は多忙だ。勉強や部活などをしている最中でも、いつ怪人が出現するのかわからない。でも、頼もしい仲間達がいれば、その苦難も幾分かラクになる。

 キャンサーは、そんな頼もしい年上魔法少女達の背中を見つめながら、自分も外へ出るのであった。

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