第3話「怪人シャークヒューマン」
キャンサーとスコーピオンが夕陽の光に照らされた街の中をひた走る。
魔法少女である彼女達は、一般人とは比べ物にならない圧倒的な身体能力を備えている。その気になれば駆けっこの世界大会で優勝することはおろか、自動車を追い越すスピードでの移動さえ可能だ。
「でもどうせなら、空を飛ぶ力くらいあっても良いんだけどさぁ〜」
「同感ですね。魔法少女は飛ぶものですし」
そして二人が自宅から移動を始めて数分ほどで、怪人が現れたと言う場所まで辿り着いた。
「シャーシャッシャッ!! 俺様は怪人"シャークヒューマン"!! 海底で最強のパワーとスピードを誇るこの俺様の力で、人間共を血祭りにしてやるぜ!!」
怪人シャークヒューマンは、下っぱを従えて人々を襲っていた。このままではたくさんの人が傷付き、命を奪われるやもしれない。
怪人による被害での人々の怪我や死亡は、魔法少女の仕事に不備があるとされ、契約違反にされてしまう恐れがある。なので、どんな怪人が相手だろうと、魔法少女は決して怪人から逃亡することは出来ない。
「「変身!」」
キャンサー、そしてスコーピオンが怪人を見つけると二人は魔法少女の力を解放した。
二人は、魔法少女の姿に変身し、怪人の前に参上する。二人を見つけた怪人は、ばっと彼女達に向かって構えた。
「出たな魔法少女め!! 今日こそはお前達を倒し、我ら怪人軍団に勝利をもたらしてやるぞ!! 行け、下っぱ達よ!!」
「「「キィーーーーーーー!!」」」
シャークヒューマンの命令を受けた、下っぱ達が一斉にキャンサーとスコーピオンに襲いかかる。
二人は、下っぱの攻撃を華麗にかわすと、自らの魔法少女の力を下っぱにぶつける。
「切り裂け! アイアンクロー!!」
キャンサーは、右手を蟹のハサミに変形させ下っぱに切り掛かる。鉄のように硬いハサミを思い切り振られ、強烈な攻撃を受けた下っぱ達は、為すすべもなく吹き飛んでいった。
次々とやられていく下っぱ達を見て、シャークヒューマンは悔しげに呻く。
「ちぃ! 役立たず共め!! こうなれば俺様自らが相手をしてやろう!!」
「……スコーピオン。雑魚は私に任せて、貴女はボスを倒すのよ」
「わかったわ」
そう言ってスコーピオンは、尖った棘を持つ尻尾のような物を、シャークヒューマンに向けて構えた。
「死ねええい!!」
シャークヒューマンは、鋭い爪で猛攻を仕掛けるが、スコーピオンはそれらの攻撃を自分の尻尾で受け流す。
そして、怪人の隙をついて、スコーピオンは尻尾の棘を敵の体に突き刺した。
「ぬぐっ!!」
シャークヒューマンが呻き、身動ぐ。
尻尾の攻撃を与えてスコーピオンは、ふっと口角を吊り上げた。
「ふふふっ、今貴方に仕掛けたのはサソリの毒。もうすぐで貴方の体は完全に動けなくなるわ。……これで私達の勝ちね」
スコーピオンは勝利を確信する。
……しかし、その瞬間シャークヒューマンが笑い出した。
「くふ、ふふふふふふ」
「……何が可笑しいのかしら?」
「貴様の攻撃は知っているぞ、魔法少女スコーピオン。お前の猛毒のことを知っておいて、何の対策もしていないとでも思っていたのか?」
シャークヒューマンは、懐から一歩の瓶を取り出し、蓋を開けて中身を口に入れた。
すると、シャークヒューマンの体がみるみるうちに巨大化していったのである。
「ふぅん、これは……」
『シャーシャッシャッ!! この体なら、貴様の猛毒も通用しないぜ!!』
巨大化したシャークヒューマンの大きさは、推定で全長十メートル。小学生である二人からすれば、それは首を直角に上げてようやく顔が見えるだけの変形であった。
怪人が飲んだものは、魔薬マッドネス。
怪人専用に作られたその薬を飲むと、一時的に巨大化しあらゆる性能がアップする効果を持つ。これにより、スコーピオンの毒の攻撃も受け付けなくなるのだ。
「なんてものを……そんな体で暴れられたら街に大変な被害が出ちゃうよ!?」
下っぱを全員片付けたキャンサーが叫ぶ。
例え、シャークヒューマンを倒せたとしても人々の被害分だけ彼女達の評価に傷がついてしまう。命がかかっている以上は、出来るだけ街を破壊させないようにしなければならないのだ。
「そうなる前に倒すだけね。超猛毒生成!」
スコーピオンは、先ほどの猛毒よりさらに強力な毒を作り出していく。これを突き刺せば、例え魔薬マッドネスで巨大化した怪人であっても即死することが出来るであろう。
「毒が完成するまで時間がかかるわ。キャンサー、足止めをよろしく」
「アレの相手をするの? はぁ〜、嫌な役目ね」
しかし、やるしかないのが魔法少女の仕事である。
スコーピオンが毒を作り終えるまでの時間、キャンサーは怪人シャークヒューマンがこれ以上街を、人々を傷つけさせないために立ち塞がるのであった。