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第13話「体育」

「……百華。私、この世界でやっていける気がしないよ」

「その台詞、前にも言ってたね」


 昼休憩。

 キャンサーこと蟹谷幸枝は、友人の博多百華と昼食をとっていた。

 中学生以上の魔法少女達は『何も塗られていないトースト』を食べている中、小学生組は給食という特権がある。

 少しだけ申し訳ないと思いながらも、キャンサーは有難くご飯をいただいていた。


「幸枝ちゃん、大丈夫? 最近疲れが溜まってるんじゃない?」

「いや、疲れというよりかは精神面の問題? この年齢でストレスの心配をするのも変だけど……」


 キャンサーは午前中のことを思い出す。

 あの後、家を出てから間も無くした頃に、怪人発生を伝える腕輪が光り出した。

 慌てて現場へ向かい、キャンサーは怪人を即殺。

 そして、つい先程戻ってきたのだ。

 これまでも、学校にいる間に招集がかけられたことは何度かあったが、怪人の発生頻度が高まってからは目に見えて出動回数が増えたような気がする。

 不老不死の魔法少女であるキャンサーは、基本的に戦闘時で死ぬ心配はない。

 しかし、そうは言ってもだ。こう毎度怪人退治に時間をかまけていては日常生活な支障が出て来るだろう。


「人員不足って深刻な問題だよね。仕事は山程あるのに、働ける人手が足りないなんて……そんなのいつか絶対に破綻しちゃうよ」

「あ、それ知ってる。よく新聞やニュースとかで話題になってるよね。流石幸枝ちゃん、博識だねぇ〜」


 魔法少女の事情など知っているはずがない百華は、勘違いした方向でキャンサーを褒め称えた。


「はははっ、ありがとう」

「……でも、本当に辛そうだね。もう一度保健室に行ってきたら?」

「大丈夫。寧ろ保健室は息が詰まるから、普通に運動して気分を晴らしたい。ガチバトル以外で」

「ガチバトル? よくわからないけど丁度良いかもね、次の時間は体育だから思いっきり体を動かせるよ!」




 *****




 そんな訳で昼休憩を過ぎて体育の時間。

 体操服姿に着替えたキャンサーは、クラスメイト達と一緒に体育館に集まっていた。


「じゃあ、今から男女共同でバスケットボールをやる。各自チームを作ってから集まってくれ!」


 体育の先生がそう指示を出すと、クラスメイト達が次々にキャンサーの元へ集まってきた。


「蟹谷さん! 私達のチームに入らない!?」

「おい! 蟹谷は俺達のチームに入れるんだ、邪魔すんな!」

「何よ身勝手ね! これだから男子は……!」


 クラス中の人達に挟まれ、キャンサーはどうしたものかと困惑する。

 魔法少女の力を持つキャンサーの身体能力は、変身前でも一般人と比べて並外れている。

 そのため、キャンサーの体育の評価は文句無しの『5』。クラス中、いや学校中の注目の的であった。

 あまりに注目された当時は、たくさんのスポーツクラブからスカウトが来た程だ。


(あーそうかぁ。今日はチーム戦なのかぁー、参ったなぁ……)


 仕方ないので、キャンサーはいつもの様に隠れ蓑を使うことにした。

 キャンサーは、クラスの集団から離れた所にいる百華の元へ駆け寄る。


「ゴ、ゴメンけど、今日は百華のチームに入るって約束してるんだ」

「えぇーまたかよ」

「百華が居るチームじゃあ、試合にならねーじゃんかぁ」


 男子からブーイングが飛び交う。

 実はこの博多百華という少女は、恐ろしく運動音痴なのである。

 百華が居るチームは絶対に勝つことが出来ない。そういうジンクスが流れる程、彼女の運動能力の無さは際立っているのだ。


「ちょっと男子! 百華ちゃんに失礼でしょう!?」

「あーうるせーなぁ女子達は」


 女子達に睨まれ、キャンサーを誘ってきた男子達は渋々とその場を離れて別のチームを作り始めた。

 キャンサーは、ホッとため息を吐き、隣に居る百華にお礼を言う。


「ありがとう百華。いつもゴメンね」

「良いよコレくらい。幸枝ちゃんは人気者だから、寧ろこういう時に助けになれて私は嬉しいわ!」

「百華……」


 キャンサーは、眩しい笑顔を見せる百華に感動をする。

 困っているときに助けてくれる友人の、なんと尊き事か……。

 百華には、助けになってばかりだ。いつか恩返しがしたいと、キャンサーは人知れず思った。


「あ、みんなチームが決まったみたいだよ。私達も行こう!」


 キャンサーは、百華に手を引かれ皆のいる所に集まった。

 チームを作れなかったクラスメイトとチームを作り、キャンサー達はコートの中に入る。

 一番運動が出来るということで、ジャンプボールはキャンサーが前に出た。

 試合開始のホイッスルが鳴る。

 キャンサーは、圧倒的なジャンプ力でボールを手に入れた。


「百華!」

「うん!」


 抜群のコントロールで、百華の手にピンポイントでパスをする。

 ボールを持った百華に対し、敵チームがボールを奪い取ろうと駆け出した。

 百華はあたふたと慌てる。


「え、えぇーーい!!」


 そして百華は、在ろうことかリングからかなり離れた距離からシュートを決めた。

 ヘロヘロした軌道で、ボールが高くまで飛んでいく。

 そのボールが、山なりになって敵のリングへと入ろうとしていた。

 ……しかし、投げたボールは力無く失速する。

 敵チームの男子がニヤリと笑みを浮かべてボールをキャッチした。


「へへっ、楽勝……」


 と、その時だった。

 突然、彼の手からキャッチしたボールが消え失せた。


「え」

「残念、本当に楽勝ね」


 いや、違う。

 突然ボールが消え失せたのではなく、キャンサーが物凄いスピードでボールを奪い返したのだ。

 あまりの速度に目が付いていけなかった男子は、何も出来ずにキャンサーの後ろ姿を眺めていた。


「ふっ!」


 ダンクシュート。

 おおよそ、小学生女子が出来る技ではないが、キャンサーはその力強いシュートを余裕で決めたのだ。

「おおっ!」とクラスからどよめきが起こる。

 一方、敵チームの皆は、キャンサーの華麗なボール捌きに唖然としていた。


「す、凄いよ幸枝ちゃん!」

「まだまだこれからよ。この調子で行こう!」


 キャンサーは、心地良さを感じていた

 運動すれば嫌なことを忘れられる迷信は本当らしく、今キャンサーの頭の中には怪人のことや魔法少女のことはスッカリ忘れている。

 普通の女の子のように朗らかで、楽しそうに汗を流すその姿は、やはり彼女も普通の小学生だと再認識出来るだろう。

 体育の時間はまだまだ続く。

 キャンサーは、この限りある青春の刻を、出来る限り楽しんだ。

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