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第11話「辞職」

 チュンチュンとスズメの鳴く声がする。

 まだ午前五時という時間帯に、キャンサーは起床した。


「あれ、私……いつの間に眠ってたんだろう?」


 昨日は何をしていただろうか。キャンサーは、記憶を漁る。

 しかし、どれだけ思い出そうとしても、キャンサーの脳内は霧がかかっているかのようにボンヤリしていた。

 いくら思い出そうとしても、思い出せない。

 だがまあ、そのうち思い出せるだろうと、キャンサーは一度布団から起き上がろうとする。


「んっ?」


 するとキャンサーは、布団の中で何者かに抱きつかれていることに気づいた。

 布団を剥ぐって中を覗くと、そこにはアリエスが眠っていた。どうやら寝惚けて潜り込んできたようだ。

 キャンサーは、アリエスの腕を剥がして改めて起き上がる。

 二度寝する気にもなれなかったので、キャンサーは部屋を出てリビングに向かう。

 丁度その時、玄関で靴を履き替えるヴェルゴの姿があった。

 そういえば、今はヴェルゴがランニングに出掛ける時間だったと、キャンサーは思い出す。


「おはようヴェルゴ。朝から性が出るわね」

「アレ、その声はキャンサー? こんな時間にどうし……!?」


 キャンサーの声が聞こえ、反射的に振り向いたヴェルゴ。

 そしてヴェルゴは、背後に立っていたキャンサーの姿を見た瞬間、慌てて目を逸らした。

 無理もない。何故なら今現在のキャンサーの格好は……『全裸』だったからだ!


「キキキ、キャンサー!? 女の子が裸で歩き回っちゃダメだよ!!」

「家の中なら問題ないはずだけど? 私は夜寝るときは服を脱ぐの。知ってるでしょう?」

「それは知ってるけど! せめて下着を履くとか……」

「ああ、忘れてたわ」


 部屋では全裸でいることが多いから、うっかりその格好で出てしまっていた。他のメンバーに、この姿を見られたら確かに怒られてしまうかもしれない。

 そう思いながらキャンサーは、リビングに向かった。


「結局着替えないの!?」

「まあ、どうせ誰も居ないし。水飲んで戻るくらいなら大丈夫よ」


 という訳でリビング。

 無理をすればメンバー十三人が入れる、そこそこの広さの空間にはキャンサー以外は誰も居ない。

 キャンサーは、冷蔵庫から水を取り出してコップに注いだ。

 ふと視線をテーブルに向けると、そこには新聞の朝刊が置かれていた。

 おそらく、ヴェルゴがランニング前に取り出してくれたのだろう。

 せっかくなので、キャンサーは朝刊を軽く読んでみることにした。

 朝刊の見出しには、政治関係やスポーツ特集、国際問題などの普通の記事が掲載されている。

 一応確認をしてみるが、魔法少女関連の記事は無さそうだった。

 魔法少女の存在は、公にはされないよう精霊が手を回している。

 だから、怪人退治のためにどれだけ魔法少女が暴れようと、このような情報誌の類には載らないらしい。

 もし騒ぎになれば、魔法少女達はこれまでのように普通の生活を送ることは出来なくなってしまうだろう。

 だから、これはキャンサー達にとっても有難い処置だった。


「今日も世界は平和で何よりね」


 そう嘯きながら、キャンサーは朝刊以外のチラシ類にも目を移す。

 すると、気になる情報に引っかかった。


「『大人気マスコットキャラクター『カニポン』限定キーホルダー。全国のコンビニエンストアで販売』、だってぇ……」


 少女の手が震え出す。

 新聞には、カニ姿を模した可愛らしいキーホルダーの写真が載っていた。

 その写真に、キャンサーの目が釘付けになる。

 何を隠そうこの魔法少女キャンサーは、『カニポン』の大ファン。

 彼女が日本からこの世界に来てから出会った、数少ない癒しの一つなのであった。

 この限定キーホルダー……何としても手に入れたい。

 しかし、キャンサーにそれを買うだけの持ち合わせはなかった。


「あー欲しいなぁ……」


 欲しいものが買えないという、珍しく小学生らしい一面を見せるキャンサーだったが、残念ながらその貴重な光景を見ている者は居ない。

 そしてキャンサーには、普通の生活すら苦しい状況下でバイト組にお金をせびるような度胸は無かった。

 だから諦めるしかない。

 それは正しい判断とはわかっていても、キャンサーの中に納得が出来ていないワガママな自分が居た。

 ワガママなキャンサーは、そっと呟く。


「あーあ。せめて私もアルバイトが出来れば良いのに……」

「ならば私が手助けするわぁ!!」


 と、その時だ。

 途端にバタンッとリビングの扉が開いたかと思うと、パジャマ姿で枕を抱き締めるリーブラが現れ、キャンサーの元へ近づいていった。


「リーブラ!?」

「話は聞かせて貰ったわよキャンサー。貴女、お金儲けがしたいんですってね? 良いでしょうとも!!」


 そう言うとリーブラは、パジャマのポケットから何かを取り出してキャンサーに渡す。

 キャンサーが渡されたブツを確認してみると、それは『3』と手書きで記されている安物の缶バッチだった。


「……これはナニ?」

「私達結社のバッチよ。書いてあるナンバーによって階位が決まるわ。『1』が最も偉くて、それ未満が家来ね」

「とんだ独裁結社じゃない。……で、これを私に渡した理由は?」

「はー察しが悪いわねぇ! だから、貴女を私達の結社に入れてあげるって言っているのよ!!」


 リーブラの言っている意味がわからないキャンサー。

 だが、どうやら面倒ごとに巻き込まれてしまったという事だけは、否が応でも察したらしい。キャンサーは、無心でコップの水をチビチビ飲み始める。

 そしてリーブラは、仲間を受け入れるかのような慈愛に満ちた表情でキャンサーに笑う。


「ようこそ! 金と睡眠と娯楽の結社『ゴールドプリンセス』へ! 私達は貴女を歓迎するわ、キャンサー!」

「脱退します」


 キャンサーは、考える間もなく辞職を宣言した。

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