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第10話「コンビニ」

「お疲れ様。もう夜遅いし、四人は先に家に戻っててね」

「後のことは、我々に任せてください」


 高校生組とサジタリウスの計らいで、キャンサー含む小学生組と中学生組の四人は帰路についていた。

 時刻はすっかり深夜。

 家の明かりと街灯の明かりだけが、住宅街の道路を照らしている。


「こんな時間に外出しているのを見られたら、大人達が不審がるでしょうね」

「そうだねー。トラブルに巻き込まれないうちに早く家に帰ろう」


 小学生とは思えない大人びた二人。スコーピオンとキャンサーは、落ち着き払った様子で夜の道を歩く。

 一方で、中学生組。


「はーなんっていうか! 夜の街ってちょっと興奮するわね!! 普段、私達が住んでいる場所とは違う正解になったっていうかさぁ!! ねえ、アリエスもそう思わない!?」

「眠いー」


 いつも眠そうな顔をしているアリエスだが、そろそろ本格的に眠たくなっていた。

 そしてリーブラは、思春期特有の探究心が芽生えたのか住宅街のあちこちをふらふらと眺めている。

 まだ中学生とはいえ、キャンサーにとっては年上である二人だ。

 その彼女達のだらしない振る舞いを見て、キャンサーはため息を吐いた。


「もう遅いし寄り道せず帰るよ。明日は学校なんだし……」

「あ、コンビニ開いてるわね! ちょっと寄って行きましょう!」

「聴け!!」


 まるで飛んで火に入る夏の虫。

 キャンサーは、住宅街の小さなコンビニに歩み寄るリーブラの肩を掴んだ。


「こんな時間でもお店開いてるのねー」

「そりゃあコンビニだし、二十四時間営業でしょう」

「私思うの、コンビニって少し頑張り過ぎだって。いくらお客さんのニーズがあるからってさぁ、流石に二十四時間はマズイわよ。私なら働き過ぎで死ねる」

「まあ、そうかもね」


 働き過ぎ。

 小学生の身分で、既に命懸けの戦いを強いられているキャンサーからしてみれば身近な問題だ。

 キャンサーが魔法少女になって三年目。

 もう三年か、まだ三年か。

 目の前にあるこのコンビニは、営業してからどれだけの年月が経ったのだろう。

 五年? それとも十年?

 では、魔法少女キャンサーはこれから後どれだけ戦い続ければ良いのだろうか?


「ん、キャンサー。深刻そうな顔してるけど、どうしたの?」

「……いや。魔法少女もコンビニも、実はそんなに違いはないんだなぁって思ったんだ」

「……何言ってるの?」


 リーブラは、可笑しなものを見る目でキャンサーを眺めている。

 すると、コンビニの自動ドアが開き、中から買い物袋を持った男性が出てきた。

 深夜に外出している四人を見つけた男性は、不思議そうにキャンサー達を見る。


「おっとマズイ。早く帰るよ」

「はぁーい」


 四人は、早々と自分達の家に向かっていく。

 そんな彼女達の後ろ姿を、コンビニから出てきた男性はじっと見つめていた。

 彼は呟く。


「はぁー、あんな小さいのにこんな時間まで働いていたのか。魔法少女っていうのは大変だねぇー」


 男性は、コンビニ袋からチキンを取り出して貪る。

 丁度その時、携帯の着信音が男性のポケットから鳴り響いた。


「はい」

『……陛下、オフィウクスです』


 クールな調子ながらも、どこか幼さを感じる声が男性の耳に届いた。

 彼女は名をオフィウクスという、陛下と呼ばれたこの男性の部下だ。


「あーお前か。どうしたこんな時間に?」

『どうしたじゃありません。陛下は、今どこへいるのですか?』

「ちょっと近くのコンビニまで。小腹が空いたんで夜食を買いに行ったんだよ」

『そのようなものは部下が買いに行かせます。陛下は、組織のトップなのですよ? もう少し自重してください』


 オフィウクスは、凛とした声色で陛下をさとす。

 それを面倒臭そうに聞きながら、陛下はチキンをムシャムシャ食べていた。


「十分自重してるよ、退屈過ぎて死にそうなくらいにな。で、用事はそれだけか?」

『陛下にご通達があります』

「申せ」

『つい先程、怪人大量生産の研究がされておりました施設が魔法少女によって破壊されました』

「ほぉ。彼処には警備含め、生産に成功した怪人を何体も配置させていたはずだけど」

『はい、全員やられました。研究所が開発した装置も破壊され、こちらは多少の痛手を被りました。……しかし、良いデータが手に入りました。このデータを元に、さらに強力な怪人を作ることが出来るでしょう』

「怪人生産の全権は、お前に託してるからな。期待してるぞ」

『はっ! 必ずや陛下の期待に応えられるよう努力します!』


 通話を切り、陛下は四人の少女が去っていった方を見る。

 そこに少女達の姿はなく、ただ街灯の明かりだけがチラチラと光っていた。


「さてと、まだまだやる事は山積みだからなぁ。早く帰って仕事するか。怪人もラクじゃないぜ」


 誰も居ない夜の街で一人呟く男性。

 魔法少女と怪人。

 どちらの勢力も命懸けで戦っている。

 戦争とは、二つの内どちらかが「負けた」と宣言すれば簡単に終わる。

 だが逆にいえば、「負けた」と言わなければ終わらないのが戦争だ。

 だから魔法少女も怪人も、相手が根を上げるまで互いに働く手を止めることは決してないのだ。

 まあどちらが最後に勝つにしろ、それは今すぐではないだろう。

 老いも若きも人間も人外も。

 意味もなく非効率に、ただただ虚しい戦いは続く。

 互いに絶対に負けられないこの戦争は、結局はただのコンビニエンストア。

 二十四時間三百六十五日営業で開店しているのである。


「あー働きたくねー」


 男性の虚しい独り言が、夜の街に溶けていった。

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