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すっぱい大作戦

作者: 生きの良いバグ

「おはようフェルプス君」


通信水晶から少しひび割れた声が聞こえた。

ボスの声だ。


「今回のミッションは組織を離れ敵のアジトに単独潜入し囚われた捕虜を保護する事である……」


敵のアジトか。

かなりの危険が予想される。


「なおこの水晶の音声記録は自動的に消滅する」


通信水晶は薄い白煙に包まれた後沈黙を保つのだった。





フェルプスはターゲットの画像を拡げる。


アジトを守る年配の敵女性は上級探知魔法の使い手。

おそらくフェルプスが認識阻害魔法を駆使しても彼女に察知されてしまうに違いない。


ごく普通の住宅にしか見えない敵アジトは図面によると大人の肩程度の檜葉の生け垣に囲まれた一軒家で南東の庭は生け垣のすぐ内側に躑躅や雪見草などの植え込みがあり花壇はアジトの窓に近い側に鈴蘭やパンジーなど低い花が、植え込みに向かって徐々に背の高いアイリスなどの花が植わっていて植え込み下部の穴を隠してくれるものとみられる。


本来は潜入に最適な搬入口が裏庭に面した側にあるのだがそちらは隣接した古アパートに凄腕見張りが常駐していてその老見張りの目をかいくぐるのは如何にフェルプスといえども不可能であると思われた。


表庭の温室の屋根から二階の窓を通って潜入するルートだけが唯一の希望なのだ。


通常敵アジトは夜間になると相当な人数がつめているものの日中は手下どもが散り大物ラスボス一人が残るという。

そして常に捕虜を連れ歩き片時も離さないという。


だがその大物も昼前には一人で巡回に出る。


その半時に充たない巡回中に庭から温室の屋根そして二階の窓を通って潜入しターゲットの捕虜、闇風のセリアを保護しなくてはならない。






フェルプスが覚えたばかりの認識阻害の魔法を唱えるとごっそり魔力が持っていかれたが世界がぐんにゃりねじれた感覚で巧いこと発動できたのがわかった。


敵上級探知魔法の使い手をごまかすというより目撃者対策にすぎない。



フェルプスは捕虜のセリアを思い浮かべる。

我等のアイドル。

無邪気で愛らしい容姿でありながら誰よりも素早い一流の女ハンター。

彼女が敵の手に落ちたと聞かされた時はフェルプスも愕然としたものだ。


そう……ボスからの指令がなくとも単独潜入して彼女を保護したいと願ったほどに。



植え込みから敵の動きを観察していた。


温室からセリアの悲鳴にも似た声が聞こえる。

大物が似合いもしない甘ったるい声でセリアを口説いている様子だがここで飛び出す訳にはいかない。

泡立つほどの動悸を抑えてフェルプスは軍手をはめる。


背嚢には様々な道具が収められているので出来ればこのまま背負っておきたいがセリアが自力でフェルプスについてこられなかった場合も想定しなくてはならないだろう。 彼は必要最小限の道具以外を植え込みの柔らかな土を掘って埋めた。


足がつくような真似をしていると自覚していたが大物とセリアの様子から諦めざるを得ない。

最悪セリアをこの背嚢で運ばねばならないと判断したのだ。





大物が出入り口から現れる。

鍵をかけ、そのまま巡回へと行く様子だ。


さあミッションのスタート!






素早く温室にたどり着くと棚の上でぐったりしていたセリアと目が合う。

フェルプスは(今助けるからな)と目礼するにとどめ脚立をのばして温室の屋根をめざす。


大きな脚立を用意出来なかったのでかろうじて左手の指先が屋根にかかるだけであった。

左の軍手を外しつるつる滑るガラス面に不安を覚えながら右手は温室側面に押し当てる。


フェルプスは風の精霊に祈りを捧げる。

(どうか風魔法でお守りください)


軍手のゴム面が摩擦の力で左手をサポートしてくれるのでそのままアルミ枠をしっかり指先で捉え一気に体を持ち上げる。


上半身を屋根に持ち上げて漸く安堵したもののまだまだ油断出来ない。

彼は精一杯右手をのばして二階の窓の手摺を掴む。


落下の危険が消えたので一安心して周囲を確認していると古アパートに常駐している筈の凄腕見張りが通りから彼を見上げて騒いでいるのが見える。


そして無人のはずの敵アジトの二階の窓が開かれる。






どうやらこちらの情報には穴があったらしい。






「危ない真似をしてからに!」と大物。

「学校サボったのか?」と大物の夫。


「今日は遠足だもん」と僕。

「博物館なんて興味ないし」


大物ばあちゃんは膝に可愛いさかりのセリアをのせて撫でている。

その子はウチの子なのに!


「爺ちゃん今日は何で家にいるのさ」

「風邪ひいて休んでいただけさ」


セリアは爺ちゃんにも愛想が良い。

クッソー! この売女め!

先週は僕のお腹の上で眠っていたくせに!




三頭身の真っ黒でしなやかな毛並みの子猫を見て涙が溢れてくる。


「隣の婆さんが見つけてくれたから良かったもののほんに危ない真似をしてからに!」

婆ちゃんの怒りが収まりそうにない。


「弟にこんな危険な事をさせるなんて何を考えてるの!?」


ボスはモゴモゴと口を動かして言い訳をいう。

「まさか温室を上るなんて思わなかったんだもん。 裏口がいつも開いてるからそっちから入ると思ったんだ、ケホッ」


ボスが咳き込む。

この咳が僕とボスからセリアを遠ざけたんだ。


「猫アレルギーなんだから一緒に住むのは無理なんよ」

「神殿のアレルギー治療魔法が終わるまでの辛抱じゃろが」


そんな……

その頃にはセリアが子猫じゃなくなってしまう。


「いつでも会わせてあげるから今度は学校サボらんと休みの日に遊びにおいで」


お婆ちゃんは裏庭のグースベリーを山盛りに差し出しながらそう言った。

グースベリーって酸っぱいから苦手なんだよな。

こういうのってジャンル的には何になるんでしょうね?

ネタばれしたくないけどタイトル詐欺や粗筋詐欺も困るし……

悩ましい。

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― 新着の感想 ―
通常、軍隊の作戦で一人作戦はあり得ませんが、何か古いドラマのオマージュのようですね。 いえ、別に良いんですよ。そんな作品はあふれてます。ただ、こうやって書くと野暮だなと反省はしています。
[良い点] 緊張感のあるシーン、良いですね。 [気になる点] 句点がなく、ちょっと読みにくいかも? [一言] スパイ大作戦リスペクトですね(笑)懐かしく思い出しながら読みました。楽しかったです。 オチ…
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