少女マンガみたいに。
申し訳ないことに全然ラブがありませんが。
あるところに、少女マンガみたいな恋に憧れているごくごく普通の女の子がいました。名前は、えーっと、花子でいいや……花子といいました。
憧れはしょせん憧れであって、平凡な花子は平凡な学校生活をそれなりにエンジョイしていました。が、ある日突然、花子の平凡な毎日に終止符が打たれたのです。
それはある日の放課後のことでした。花子はクラスの、いや学年の、いや学校中の王子様的存在である男の子に校舎裏に呼び出されました。
何かと思い少しどきどきしながら校舎に行くと、そこには今日も麗しい王子の姿が。そして王子は花子に甘く囁きかけました――僕と付き合ってくれないか、と。
花子は内心とても喜びました。なにしろ相手は王子です。花子も普通の女の子ですから、そんなとてつもなくかっこいい男の子に告白されて嬉しくないわけがありません。それに、このいかにも少女マンガな展開が花子を喜ばせていました。
しかし、すぐにOKしたら、軽い女だと思われるかな、という無駄な計算をした花子は、とりあえず返事は保留ということにして、その日はそこで王子と別れました。
花子はその時、明日には王子にOKの返事をしよう……と思っていたのですが、翌日の放課後、更に驚くようなことが起こりました。なんと、またも花子は校舎裏に呼び出されたのです。 呼び出した相手は王子ではありません。告白された花子のことを妬んだ王子のファンクラブ会員達……というわけでもありません。それは、クラスの、いや学年の、いや学校の、帝王と称されている男の子でした。
帝王は花子に、いつものように上から目線で、
「俺のものになれよ、花子」と言ってきました。何様だお前は、と言われそうな口調ですが、帝王はその辺のアイドルよりかっこいいので、たいていのことは許されるのです。
さて、ちょっと俺様でかっこいい帝王に告白された花子はといえば、パニックに陥っていました。というのは、王子以外に、王子と同等のレベルを持つ選択肢が現れてしまったからです。
花子は迷いました。片やキラキラしたオーラを持つ優しい王子様。片やいつも堂々としていて、俺様な態度だけどそこがかっこいい帝王。
家に帰ってからもどちらにしようか迷いに迷い、夜も寝ずに考え通して、結果、花子は王子と付き合うことにしました。理由は、
「王子だったら私のことをお姫様みたいに大事に扱ってくれそう」だそうです。……あっそ、と言いたくなりますが、まあそれはさておき。
そして花子は、王子に告白にOKをする旨を伝えた後、帝王を振るために帝王のところへ行きました。
帝王は花子のごめんなさい、という言葉にしばし沈黙した後、
「……そうか」
とそれだけ言い残して去って行きました。なんともあっさりした別れのようにも見えますが、しかし花子は見てしまいました。帝王の目のふちに光る雫を。
それからというもの、帝王のあの涙が花子の頭から片時も離れなくなってしまいました。それは、王子と一緒に帰ったりデートをしている時も同じでした。
いえ、別に王子に不足があるというわけじゃないんです。王子は優しくて、でもなよなよしているわけではなく男らしさも持ち合わせていて、彼氏としては申し分ありません。しかし、穏やか過ぎて刺激が足りない、というのもまた事実でした。それに、普段俺様・上から目線な帝王が泣く程自分は帝王に好かれていたのか、と思うと花子の心は揺れ動きました。
帝王のことが気になる、それが恋情なのか同情なのかよくわかりませんが、花子は恋情なのではないかと思い始め、その想いは日に日に強くなっていきました。
王子と付き合い初めて3週間後、花子はとうとう王子に別れを告げ、帝王の元へ行くことを決意しました。別れを告げた時の王子はそれはそれは穏やかで、つまりいつも通りでした。彼は花子にあくまで優しく別れる理由を聞き、
「そう……。でも、帝王に飽きたらいつでも戻ってきて。花子のこと、ずっと待ってるから。」
と言いました。一途な愛の溢れる王子の台詞に、花子は
「やっぱり別れるのやめる」
と言いたくなるのを必死に抑えて、ありがとうと返しました。
そして花子は帝王に、付き合いたいということを告げました。その時の帝王の反応はこれまた素っ気ないものでしたが、花子にはわかっていました。帝王が内心ではとても喜んでいることを。
そして時は流れ、帝王と付き合い始めてから3週間後、花子はまた悩んでいました。悩みというのは、帝王についてのこと。――いえ、別に帝王が浮気したとかってわけじゃないんです。ただ、付き合い始めてからもやっぱり俺様で強引で、今までと態度が変わらない帝王に、少しばかり失望していたのです。もちろん、帝王がそういう人だというのはわかっていましたが、付き合い始めればもうちょっと優しくなるのかと思っていた花子には期待外れでした。
そんな中、思い出されるのは王子の顔ばかりでした。優しくて素敵で、私をいつまでも待っていると言ってくれた王子、ああ王子……!という、どこぞの少女マンガのヒロインみたいな思考が花子の中で展開されていました。
そして、ある日の昼休みの教室で、とうとう花子は友達のA子に、帝王と別れてやっぱり王子と付き合おうかな……という相談を持ちかけました。
花子が真剣な顔をして話を進める中、A子はポッキーをぼりぼりと貪り食いながら面倒臭そうに花子の話を聞いていましたが、話が終わると、淡々とした口調でこう切り出しました。
「それってさーあ?」
「うん」
「あんた、王子にしろ帝王にしろ、どっちのことも大して好きじゃないんじゃないの?」
「………」
花子はまるで頭をがんとハンマーで殴られたかのような衝撃を受け、目を見開き口をぽかんと開けました。
その後、花子は帝王と別れました。しかし、王子とも付き合わず、残りの高校生活を、平凡な彼氏をつくり、平凡なまま終えましたとさ。
おしまい。
くだらない話ですみません(汗)
ここまで読んで下さりありがとうございました!