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[05:邂逅]

徳永桐子と富田梅子の、ふしぎくんとの出会いのお話。

徳永桐子が初めて高橋斎と話したのは初等部3年の時だった。

その日は、次の日が校内研修のため、放課後がいつもより早かった。ちらっと、隣の校舎の大きな時計を見上げる。


「校内から出なきゃいけない時間まであと20分…もう、梅ちゃんったらどこに行ったの…!!」

今日のホームルームが終わったのは今から30分ほど前。帰る準備を終え、さあ従姉妹の富田梅子とともに帰ろうと迎えに行くと、すでに梅子は方向音痴を発動させてしまった後だった。

時間になっても校舎にいたのが見つかってしまったら、怒られるのは自分である。それだけは避けたい、と思いつつ周囲に目を向ける。ふと、校庭の木の影に見慣れた帽子が目に入った。


「もう!なんでこんなところに…」

「・・・だあれ?」

もう生徒という生徒は校舎から出ており、今校舎に残っている生徒は自分か妹のどちらかだろうと思い込んでいたため、大きな声を出しながら振り向かせてから、桐子は人違いをしていたことに気付き固まった。

こちらを見ている顔には見覚えがある。確か、梅子と同じクラスの高橋斎。おかしな行動をし、気味の悪いことを言う、ということで同学年では有名だった。


できれば会いたくないと思っていた奴に会ってしまった。

桐子はこの時、自分の不幸を呪ったと同時に原因である従姉妹の梅子に対する怒りを募らせた。


「ご、ごめんなさいっ!あの、人を探してて」

「誰か探してるの?探しているの、だぁれ?」

首をかしげている斎に慌てて謝る。しかし、斎は怒っているどころか人探しの手伝いを申し出てくれた。


だが、問題児と有名な斎に名前を言いたくない。そう思い桐子は話題を変えようとした。

「こんなとこで何やってたんだ?」

「んー?あのねー、怪我をしていたの。だから、手当をしてあげてたの」

そう言いながら、土の上においていた消毒液や絆創膏などをランドセルへ戻していく斎。しかし、斎の周りには怪我をしているような生き物はおらず、嘘だったのだろうか、それにしては消毒液など準備が良すぎないか?と思いつつそれを眺める。


「じゃぁ、僕、帰るね」

「う、うん。気をつけてね?」

ランドセルを背負った斎はこくりと頷くと、校門へ向かって歩き出そうとして、足を止めた。そしてくるりと桐子の方を向き、口を開いた。


「徳永さんも、はやくクラスに戻ったらいいよ。富田さん、荷物を持って待ってるよ」

「・・・え?」

ばいばい、と駆け足で去っていく斎を呆然としながら見送り、その姿が見えなくなったところで気付く。

なんで、あの子は私の名前を知っているの?

桐子と梅子は従姉妹だが、顔は似ていない。梅子を迎えに行くと既に帰ったのか姿を見たことも会話をすることも一度もなかった。

まさか、梅ちゃんが「あのこ、君のこと気味悪がってるの」とでも言ったのだろうか?

悪い想像が止まらず、チャイムが鳴るまでそこから動けなかった。




富田梅子が高橋斎と初めてであったのは、初等部3年の時、同じクラスになってから。そして初めて会話をしたのは5月頃で、場所は学校の敷地内の裏山だった。

委員会活動を終えた帰りに、本を借りようと図書館に向かっていたはずが、気付いたら森のなかだった。


「…あれれ?いつの間に」

ちゃんと地図を見ていたはずなんだけどなぁ、と呟きながら頬をかく。ちなみに梅子の手の中にあるのは手帳サイズに縮小印刷された日本地図である。


早く帰らないとまた桐子に怒られてしまう。今歩いてきた方向に戻ればつくだろう、と歩いてきた方向とは別の方向へ視線を向けた梅子の視界の端でがさがさと木の葉が揺れた。


「・・・あれ?君は・・・だれだっけ?」

「私?私は初等部3年1組の富田梅子よ。あなたは?」

「そっか~、おんなじクラスだったんだね。僕は高橋斎だよ」

「同じクラスの高橋くん?…あの問題児で有名な”ふしぎくん”?」

「たぶんそーだよ~」

「そっか~、君があの高橋くんなんだねー。自己紹介の日休んじゃったからまだ全員の名前と顔が一致してないのー。ごめんね」

「い~よ~」

「これからもよろしく~」

「うん、よろしくね」

ここに“ふしぎくんの保護者”こと中村涼一か、梅子の従姉妹である徳永桐子がいればもう少し締まりがあったのだろうが、仕方がない。これが二人の初めての会話であった。


「そういえば、高橋くん。初等部ってあっちだよね」

「ちがうよ~?」

学校はこっち。そう斎が刺したのは梅子が向かおうとした方向とは別方向だった。

梅子はちらりと斎を見る。頭についた葉っぱを取りながらどこかぼんやりとしている様子だった。


「ねぇ、もしよかったら、私を学校まで連れて行ってくれないかな?」

誰かと行動するときには手をつなぎなさい。一瞬たりとも話しちゃダメよ。

いつも桐子や担任となった先生、両親から事あるごとに言われたことを思い出し、斎に向かって右手を差し出しながら頼む。斎はきょとんとしながら梅子の顔と手を見比べ、そっと右手を出した。


「う~ん、これじゃ握手になっちゃうね。えっとね、私、方向音痴でね。気付いたら全然知らないところにいるの。だから、引っ張って欲しいんだけど…」

「…こっち?」

「うん、そっち。道案内、お願いしてもいいかな?」

「いいよ~」

にっこり笑った名前は自分よりも幼く見えた。なんとなく繋いだ手を揺らすと斎は楽しそうに笑う。それが嬉しくて、梅子は斎に手を引かれたまま世間話をした。

そうしている間に、初等部の校舎が見えてきた。

そして中庭に入った時、斎はピタリと足を止めた。


「富田さん、ここから動いちゃダメだよ。すぐに迎えが来るから」

「え?うん、わかった!ここまで連れてきてくれてありがとー」

「いえいえ~」

またね後でね、と手を振る斎に手を振り返し、さて図書室に向かおうとしたその時、後ろから聞き慣れた大きな声が聞こえた。


「梅ちゃん!もう、どこに行ってたの!?」

「あ、桐ちゃん!あのね~、図書館に行こうとしたら、いつの間にか森のなかだったの~」

「は?」

「あ、それでね~、ふしぎくんに助けてもらったの~。」

「え?」

「あれ?知らない?私のクラスの”ふしぎくん”こと高橋くん。優しい子だよね~」






「・・・ねぇ、高橋くん」

「?・・・なあに?」

徳永桐子と高橋斎の2回めの出会いは、1回めの出会いから1ヶ月と少したったころのことだった。

太い木の枝に乗り昼寝をしようとしていた斎は不思議そうに顔を桐子の方に向ける。

どこか力んでいた桐子は、斎の眠そうな様子を見て脱力したかのように木にもたれかかる。そのあと、視線を地面や斎、空へと落ち着きがないようだったが、深く息を吸い込み、決心したかのように斎を見て口を開いた。


「あの、梅ちゃんが…従姉妹の富田梅子がお世話になりました。迷子になったあの子を何度も連れ戻してくれたって聞いたわ。それで、その…あの子を連れてきてくれるのはとても助かるの。でもね、なんで直接私に引き渡さないの?」

引き渡すってひどい!と梅子が言う様子が頭に浮かぶ。

桐子がそんなことを考えていると知ってか知らずか、斎はうーん、と首をこてんと傾ける。


「徳永さんのところに連れて行っていいの?」

「あ、当たりまえよ!むしろ、なんでダメだと思ったの?!」


「だって徳永さん、僕と会うの、嫌だなぁって思うでしょ?」


一瞬、呼吸の仕方を忘れた。


     おかしな行動をし、気味の悪いことを言う、ということで同学年では有名

     できれば会いたくないと思っていた


     迷子になったあの子を何度も連れ戻してくれた


血の気が下がり、


     「あ、それでね~、ふしぎくんに助けてもらったの~。」

     「あれ?知らない?私のクラスの”ふしぎくん”こと高橋くん。優しい子だよね~」


その直後に頭に血が上るのを感じた。


「私は!」

いきなり大きな声を挙げ、逆上しているようにも見えるだろう。それなのに、高橋斎は静かな目で私を見ていた。

声を出したはいいものの、何を言えばいいのかわからず、思ったことをそのまま吐き出した。


「私は、別に嫌じゃない!!」

「そうなの?」

「そうよ!大体、あの子はほんの少し目を離しただけでぜんぜん違う方向に歩き始めるの。だから、だから」

「最後まで、徳永さんのところまで連れて行けばいいの?」

「そう、そうよ!!」


力強く頷いて、やってしまった、と思った。

これではせっかくの高橋斎の厚意に言いがかりをつけているようなものだ。

梅子の話を聞き、噂だけを判断してはいけないと思い。自分が先にそういう態度をとってしまったのに勝手だとは思うが、避けるような真似はしないで欲しい。

そういうことを伝えようと思っていたのに。


口から出てしまった言葉は消せない。

気を悪くしてないだろうか。


恐る恐る顔を向けると、斎はあいかわらず気の抜けたような顔をしていて。

そして

「ふふ、わかった」

嬉しそうに笑った。






「いいなー、桐ちゃん」

「何言ってんのよ、梅。あなたもよく見てるでしょ?」

「でーもー」

「きりちゃん、うめちゃん?」

「なんの話してるんだ?」

「「あ、斎くん!」」

「おい、お前ら俺の存在は?」

「いやー、涼一は、ねぇ?」

「忘れてるわけじゃないのよ?」


高橋斎、そして彼の幼なじみの中村涼一。

彼ら2人は、今でも私達の大切なともだちです。

迷子な梅子ちゃんを初等部まで連れてきながら、桐子ちゃんの元に直接連れて行かないのは、はじめて会った時、斎に対してのマイナス印象を持ったことをなんとなく感じ取ったから。

「よく分からないけど、怖いみたい。じゃあ、怖くないようにしよう!」

という。割とドライなので、「そういうものか」くらいの受け取り方で行動していた、という裏設定があったり。


初等部に入りたての頃は、隠そうとしていなかったので、もっとあからさまにイロイロなことをしゃべったり行動に移したりしていました。自己紹介しなくても相手の名前が分かるし、小人と遊んだりするのはいつものこと。でもそれが、他の人にとっては普通じゃないってことに少しずつ気付き始める…

今回はふしぎくんが周りと違うということを認識し始める前後のお話でした。


ここまで読んで下さりありがとうございました。

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