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[04:こっくりさん]

ホラーの定番、”こっくりさん”のお話です。

「「”こっくりさん”って知ってる?」」

しらない。おしえて?

「「喚ぶんだよ」」

なにを?

「善いもの」「悪いもの」

それで、どうするの?

「訊くんだよ」「教えるのよ」

何をきくの?教えるの?

「いろいろ」「知りたいこととか、ぜーんぶ」

たのしい?

「たのしいよ」「おもしろいのよ」


「「だってこれは─」」




最近、隣のクラスの体調不良者が少しずつ増えている。

最初にでたのは1週間ほど前のことで、1日おきに一人、また一人と増え、今朝とうとう二桁に突入した。発熱だったり腹痛だったりと、症状は様々。しかし、全員に共通しているのは魘されているということだった。


徳永桐子は、従姉妹で隣のクラスの富田梅子と委員会活動の帰り道喋りながら歩いていた。

「それにしても、もうすぐクラスの半分が体調不良になりそうなんでしょ?全員でなにかしたの?」

「う~ん、全員ねぇ・・・特に思いつかないわ」

「…まぁ、そうよねぇ。」

あなた、極度の方向音痴だものね。1週間前は初等部の方へ迷子になってたものね。

その前は森のなか、その前に探した時は寮の屋根の上…

…この子、一体どうしたらこんなに迷子になるのかしら。


そう回想していた時、梅子が声を上げた。


「──そういえば、最初に倒れた5人は”遊び”をしたんだっけ」

「・・・”あそび”?」

「うん。関係ないことかもしれないけど…」

「いいから言ってみなよ。何か原因が分かるかもしれないし、ね?」

「…そうね。私もその場面を見たわけじゃないんだけど」

そういい、梅子は一瞬目を閉じ、歩くのをやめた。


「・・・こっくりさん、って知ってる?」


「紙に鳥居とかいろは唄を書いて、10円玉に指をおいてするあの?」

「うん。いろは唄じゃなくて五十音でやったみたいなんだけどね。

 教室で、最初に倒れた5人がやり始めたんだって。それで残っていたクラスのみんなで見ていたみたいなの。”知りたいことを何でも教えてくれる遊び”って説明されたみたいで、どうせ嘘だろ?ってね。」


はじめてみると、スーって十円玉が動いたんだって。誰か動かしてるんだろうって聞いてみたんだけど、皆違うって。最初はどうでもいいことばっかり聞いて面白がってたんだけど、5人の内の一人が変なことを質問したんだって。


「変なこと?」

「『この中で一番最初に死ぬのは誰ですか?』だって」

「は?なによそれ、酷い」

「ねえ。でも、聞いたもんは仕方ないだろって開き直ってったみたいよ」

「うわー、最っ低!」

「良いところもあるんだけどね~」

「それで?なんて答えが出たの?」

「ああ、うん…それがね?」


ミ ナ ゴ ロ シ なんだって。



ゾワッと走る悪寒に思わず体を抱きしめる。

  ミナゴロシ。皆殺し。5人全員皆殺し。

そこまで考えて桐子は首を傾げた。

”こっくりさん”をやったのは5人。しかし、今現在休んでいるのは・・・


「…もしかして、その場にいた人を全員皆殺しってことなんじゃ?」

「…ま、まさかぁ!」

「だ、だよね!」

「関係ないよ!きっと偶然だよ~!」


二人は顔をひきつらせつつ、笑いながらそれぞれのクラスに戻った。




「いつきくん!」

かくかくしかじかうましかー!っとばかりに、桐子は梅子を、眠たげにしていた高橋斎のところへ引っ張るように連れてきて勢い良く説明をした。


「その時うめちゃんはどこにいたの~?」

「うん?えっとね、高等部の裏にある森のなかで」

「あ~、あの時かぁ。お猿さんが出てきてびっくりしたよねぇ」

「ね~」


「「・・・おい」」

この子たち、一体何やっているんだ?

おもわず桐子と涼一の声が重なった。


「それで、うめちゃんのクラスのことなんだけど」

「ああ、うん。呪われちゃったねぇ」

「「呪われちゃったの?!」」

「ハズレが来ちゃったんだねー」

「ミナゴロシにされるの?」

「う~ん、そこまで強くないみたいだし、全員寝込むくらいじゃないかな?大丈夫だいじょーぶ」

「それ全然大丈夫じゃないよね…」

うなだれながらつっこむ桐子に斎はわけがわからないという顔で首を傾げている。


梅子はちょんちょんと斎の方をたたき、質問をしている。

「そういえば、”こっくりさん”ってなんなの?」

「あのね、遊びなんだって。”こっくりさん”、というかお狐様をね、お呼びして、知りたいことを聞く遊び」

「遊びなの?」

「遊びなの~。でもね、危ないからやっちゃダメだよ」

「危ないの?何で?」

「善いものを呼べたら当たり。悪いのが来ちゃったらハズレ」

「? お狐様を呼ぶんでしょ?お狐様にも善い悪いがあるの?」

「お狐様もいそがしいから、そんなに来れないの。だから代わりにイロイロ来るよ」


梅子と斎の会話を聞きながら、涼一は解決法はないのかと質問する。



「?あるよ?」

「「「「あるのか(よ)っ!?」」」」

だったら回避してやれよ!とツッコミを入れる涼一と桐子および遠目に聞いていたクラスメイトたち。

そのツッコミ、もとい叫び声を聞き流しながら、斎はごそごそと準備を始めた。


斎の机の上には、大きな紙と十円玉。

広げた紙の上中央には赤い鳥居、その右下、左下には はい/いいえの文字。さらにその下にはいろは唄。


「・・・斎?」

「なあに、涼一」

「”こっくりさん”のように見えますが?」

「”こっくりさん”ですよー」

「どういうことでしょう?」

「あのね、梅ちゃんのクラスメイトたちは、お狐様を呼べなかったんだよ。ハズレが来ちゃったから、体長が悪くなったんだと思うの。だからね、お狐様にお願いして還って貰おうと思って」

「帰って貰う…?まさか、斎」



「うん、”こっくりさん”やろうね?」



あの高橋斎がやる”こっくりさん”。

涼一と桐子を始め、その場にいた人たちは息を飲んだ。



北西にあたる窓を開け、斎は紙と十円玉を持って中央に当たる机に移動する。

広げられた紙の上に十円玉を乗せる。

十円玉に指を乗せるのは、高橋斎、中村涼一、徳永桐子、富田梅子の4人。他の人達は円を描くように4人を、高橋斎を見ている。


「さあ、はじめようか。」

斎の声に、3人は頷き十円玉に指を乗せた。



静かな教室の中、斎の声が響く。


「こっくりさん、こっくりさん。赤い鳥居を通っておいで下さい」


ぴくり


十円玉が動く。流れるように鳥居に向かい、ピタリと止まった。


「こっくりさん。あなたは2年B組に降りたお狐様ですか?」

斎の質問に間髪入れず動き出す。十円玉は『いいえ』と書かれた場所に止まった。


「違う…か」

「うん、そうだね。でも、いいや」

「大丈夫なのか?」

「うん」

ざわめく周り同様、涼一がつぶやくと、斎は頷く。

そのまま、特に反応を示さず淡々と進めていく。


「お狐さま。2年B組にイタズラをしているモノを知っていますか?」

『はい』


「では、あなたと”それ”では、どちらが強いですか?」

『 わ れ 』


「ーそぅ。それなら、お狐さま。”ソレ”を追い払ってください。・・・できますか?」

『はい』


『た だ し』


十円玉がわずかに震える。


『 ち ょ う だ い 』

ゆっくりと動いていたものが徐々に早くなっていく。


『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』

      『 ち ょ う だ い 』『 ち ょ う だ い 』

『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』

      『 ち ょ う だ い 』『 ち ょ う だ い 』

『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』

      『 ち ょ う だ い 』『 ち ょ う だ い 』

『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』 『 ち ょ う だ い 』


「ちょうだい、って…一体何を?」

当然の疑問は、見守っていたクラスメイトからの声だった。

見返りに一体なにを要求しているのか。各々の脳裏をかすめた答えは、決していいものではなかった。

顔が青ざめていく人が徐々に増える中、それでも十円玉の動きは止まらない。


「いいよ?」

周囲の反応をよそに、斎はけろりとした顔で言う。

いきなり何を言うのか、という涼一の顔を視界の端に入れながら、斎は十円玉を見つめ、にっこりと笑った。


「お狐さまのお名前を勝手に使ったこと、黙っていて あ げ る ね。」

だからよろしくね



ぴたり


十円玉の震えが止まった。

その後、静かに『はい』の場所へ動き、鳥居の絵の下へ還っていった。


「還っちゃったみたい。でも、これで大丈夫じゃないかな?」

「・・・へぇ」

なんだかよくわかんないが、斎が言うのならそうなのだろう。

そう思いながら、「ありがと~」と梅子が斎に抱きつき、周りで見ていたクラスメイトたちがザワザワとしゃべりだす様子を眺めていた。




翌日、学園の医療センターは大騒ぎだった。

寝込んでいた2年B組十数名が一斉に回復し、退院のための診察でてんやわんやしているらしい。




良かった良かった。そうのほほんとしている斎を涼一はじーっと見つめていた。


「なぁ…”こっくりさん”ってさ・・・何で『遊び』なんだ?」

「ん~?」

「質問に答えるって、遊びじゃないよな?それなのに、どうして遊びに区分されているんだ?斎、お前なんか知ってるんじゃない?」

「う~ん?いや、遊びで合ってるよ~?」

「え~?」

「”こっくりさん”は、お狐様のフリをして遊ぶゲームなの。質問にちゃんと答えたり、嘘ついたり、嘘をホントにしたり、悪戯したり。だから、遊びで合ってるよ」

「…なるほど。つまり、俺達側の遊びじゃないって訳か。理解した」

「楽しいんだって~」

「へえ…」


皆殺しにすると言ったり、病院送りにしたり。

”こちら”からすると『遊び』の範疇には収まらないのだが、斎はそう取らないらしい。

こういう時、一般人である自分の認識との差を感じてしまうが、それを斎に伝えるつもりはなかった。どうせ、伝えたって理解できないだろうし。




避ける奴は避ければいい。


自分や桐子、梅子、そしてクラスメイト。


斎には、斎のことを理解している自分たちがそばにいれば、それでいい。




そう、想った。

<登場人物紹介>

*徳永桐子

マイペースだが比較的しっかりもの。責任感が強い。

梅子との関係は従姉妹。

中等部2年A組。保健委員会


*富田梅子

マイペース。以外に観察力がある。だが、天然で相殺されている

重度の方向音痴で、迷子になっては桐子や斎が探しだしている。

中等部2年B組。保健委員会


クラス替えをすると桐子と梅子のどちらかが斎と同じクラスになる。

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