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[03:エレベーター]

短編「僕のクラスのふしぎくん」と同じ内容です。

少し言い回しなどを修正しました。


高橋斎、中村涼一、南里大輔、この3人が中1の頃のお話です。



「ねぇ、大輔。最近何か変わったことない?」

中学生になり寮生活を送っていたため、数カ月ぶりに帰宅した日。

久しぶりの家族揃っての夕食で、母さんからそう声をかけられた。

一瞬考え込んだが大輔だが、特に心当たりがなかったため首を横に降った。母は少し安心したような顔をして「そう」と頷いた。


「なにかあったのか?」

「いえね、今日確認されたみたいなんだけど、このマンションから行方不明になった人がいるみたいなの。部屋も見てみたらしいんだけど、旅行かばんとかは普通にあるし、財布や通帳もおいてあったみたいなの」

「それは不思議な話だなぁ」

「そうなのよ。…そういえば、不思議で思い出したんだけどね、その行方不明になった人、数日前から様子がおかしかったらしいわ。まるで顔も体もそのままなのに別人なんじゃないか、ってくらい性格が変わったみたいよ。」

 父と母の会話を聞きながら、俺はノートを切らしていることを思い出し、夕食後急いで買い物に出かけた。


 ノートと、母についでと頼まれたものを買いに行ったら思いの外時間が遅くなってしまった。誰もいないマンションのエレベーターに乗って自分が住んでいる階のボタンを押して扉が閉まった時、パッと2階のボタンが光った。時間は21時を過ぎていて、こんな時間に誰か乗るのか?そう考えている内に2階についた。そこには誰もいなかった。


 次の日、友人と遊びに行ったら思いの外帰りが遅くなった。昨晩と同じくらいの時間だな、と思いつつエレベーターに乗りこんだ。自分の住んでいる階のボタンを押して、扉が閉まり動き始めた瞬間、また別の階のボタンが光った。今度は3階だった。3階についても、誰もいなかった。



 それから夜にエレベーターに乗るたびに、どこかの階のボタンが光ったり止まったりした。




 誰かの悪戯か。そう思いつつ、エレベーターではなく階段を使用しようか考えていたある日。

「あれ、南里くん?」

 自分の名字を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。

「…ああ、久しぶりだな。中村、高橋」

そこには同じクラスの中村と、高橋がいた。

「そうだね~、夏休みに入ってからぶりだから…1週間?」

中村の質問に頷いた時、高橋がふっと視線をマンションにうつした。


「・・・高橋?」

「ねぇ、南里くん。君、ここに住んでるの?」

 中村の質問に答えず、高橋が俺に向かって質問をする。

「ああ、そうだが・・・せっかくだし、よってくか?」

「いや」

「うん!」

 俺の言葉に断りの言葉を入れようとした中村の言葉を遮って高橋が頷く。中村は頭を抱えていたが、なんだかんだ談笑しながら自然な流れでエレベーターの中に入った。


「あ・・・」

俺の声に中村がなんだ?と言いたげな目でこちらを見ているのを感じながら、エレベーターが閉まるのを見つめていた。

扉が閉まった瞬間、5階のボタンが光った。5階につくと、そこにはいつもどおり誰もいなかった。


「誰もいねぇな」

「・・・あぁ」

「じゃぁ、閉めるよ。」

中村は誰も居ない5階のエレベーター前につぶやいた後、その隣にいた高橋が閉まるボタンを押した。

その後は何事も無く、俺の部屋に入った。


 2人に飲み物を差し出した時、中村が急に口を開いた。

「このマンションのエレベーターって壊れてるのか?」

「お?・・・多分、そうじゃねぇかなぁ?ここ最近、ああいうことが頻繁におこってるし。毎回毎回悪戯する奴もそういないだろうしな」

「悪戯?いや、それはないだろ?」

「・・・は?なんでだ?」

 中村はコップを口元に寄せながら答えた。


「だって、エレベーターの内側のボタンは、中にいる奴が押さない限り光らないだろ?」

エレベーターの外にいる人が上か下かを押したとしても、内側のボタンが光るなんてことは構造上ありえないよ。



その言葉に俺はようやく気付いた。

エレベーターの外で誰かが”待っていた”のではない、既にエレベーターの中に”居た”何かが、俺の押したボタンとは違う階のボタンを押していたのだということに。


俺はあのエレベーターという密室で何かと一緒に居たのだということにぞっとした。




 気づいた事実に呆然としている時、中村がトイレを借りると席を立った。その後、少し離れたところに座っていた高橋が俺に近づいていて、服の裾を引っ張った。


「あのね、南里くん。」

「なんだ?」

「エレベーターの中で後ろを振り向いちゃダメだよ。」

「・・・は?振りぬくな?」

突然のことに驚いている俺をそのままに、高橋は笑顔で頷いた。


「理由を聞いてもいいか?」

好奇心に負け投げかけた俺の質問に、高橋は一瞬きょとん、とした後ニコニコと笑みを浮かべ快諾してくれた。


「”あれ”はね、君が居ることは気付いているみたいなんだけど…なんて言えばいいのかなぁ。姿は見えていない?んだよね。そう、今のね、君とおんなじなんだよ。」

だから今までエレベーターに乗っても問題なかったんだぁ、とどこかほのぼのとした雰囲気を醸し出しながら話している。高橋がしゃべるところもそんなに見たことがなかったため、結構こいつ饒舌だな、と思いつつ聞いていた。


高橋は「でもね?」と言いながら手に持っていたコップを机の上に置いた。



「もし”あれ”の姿を見て、”あれ”が君の姿を見つけちゃったらね。君は君じゃなくなっちゃうの。」


 君 が 入 れ 替 わ っ ち ゃ こ ま る も の 。




「だからね?南里くん。」


エレベーターの中で、後ろを振り向いちゃだめだよ。






 頭のなかに、数日前の母の言葉が頭をよぎる。

『このマンションから行方不明になった人がいるみたいなの』

『まるで顔も体もそのままなのに別人なんじゃないか、ってくらい性格が変わったみたいよ』


自分のつばを飲む音が部屋に響く。かすれそうになる声をなんとか絞り出す。

「…いなくなった」

「うん」

「いなくなった人は、どこに行ったんだ?」

何回か目を瞬いて、高橋は困ったように笑った。

「さぁ、わかんない」


でも、たぶん。帰ってこないと思うよ。






それ以来、俺はエレベーターを使用するのは控えている。どうしてもエレベーターを使わなきゃいけない時は後ろを絶対に振り向かないようにしている。

<登場人物紹介>


*高橋 斎

通称”ふしぎくん”。

生まれた時から幽霊や妖怪といった類のものがはっきりと見える。そのため世界の一部として認識している。わりと危険なことに巻き込まれたりするが、対処法をなんとなく理解しているため、危険を回避したりしている。霊感が強いためか勘が鋭く、もはや予知レベル。幽霊や妖怪の中には友好的なものも多く、一緒に遊んだりお話をしたり、お菓子を上げたり。

霊感があることを周りに伝えてはいないけれど、周りはなんとなく理解している。どこかフワフワしているけれど、人懐っこいため可愛がられている。

中等部2年A組。風紀委員会。


*中村 涼一

通称”ふしぎくんの保護者”。

斎とは幼なじみ(幼稚園から)で、幼・小・中と同じ。現在、寮が同じ部屋でもある。

爬虫類好きで、白ヘビを飼っている。愛蛇の名前は”カナエ”

中等部2年A組。生物委員会。


*南里 大輔

斎、涼一とはエレベーターの件以降、よく話すようになった。

中等部2年A組。体育委員会。

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