[02:同室者は幼なじみ]
高橋斎は中村涼一のことを好ましく思っている。
幼稚園からの付き合いで親同士仲がいいというのもあるのだろうが、よく集団行動から外れてしまいがちな斎の手を引っ張ってくれ、気にかけてくれる。
斎はよく集中力が足りない、ぼんやりしている、などと言われるのだが、しかたのないことだと思う。
”世界”は賑やかで、騒がしい。
図鑑には載っていない虫に、目の前を横切る小人。
おいでおいでと呼ぶ声や、風に乗って頻繁に届くささやき声。
クスクスと楽しそうに揺れる光、いろんなところにはえている白い腕。
これらは、斎の世界のごく一部である。
しかし、何故か斎以外には視えていないらしい。
そのせいかそういったものを踏みつけたり蹴散らしたりしているのをよく見かける。
視える、そして聴こえるせいで、度々不審な行動をとってしまう斎。
人の中には気味悪がって近寄らない子もいたのに、幼い頃からずっと嫌がらずにそばに居てくれる涼一のことを、好意を抱きこそすれ、嫌いになるわけがなかった。
愛蛇であるカナエを放し飼いをして部屋にも持ち込むことを嫌がる人間は多いが、斎にとっては大した問題ではない。
斎の視界に時折はいりこむ奇妙なものと比べると可愛いものだ。
「あー!!」
「どうしたの?」
「カナエがいないんだ!またどこかに遊びに行っちゃったみたい…」
斎は小声でカナエ、とつぶやいた。
瞬時に、大きな木の枝に巻き付くようにしているカナエの姿が脳裏に描かれた。その木はカナエのお気に入りの場所の一つだ。
「あっち」
「探してくれるのか?」
「うん。行こう?」
「ありがとう」
カナエ!良かった、無事だったんだな!!
感動的な再会を果たしている涼一とカナエをニコニコと見守っていると
「斎は勘がいいな!助かったよ、ありがとう。また頼むよ」
微笑む涼一とその首に巻き付くカナエに
「うん、任せて!」
そう微笑んだ。
1話目とは逆の、斎くんから見た涼一くん視点でした。