国家の安泰
お待たせしました、誰も待っていなかったらどうしよう。
そこにはかつての公爵位譲渡の状況が書かれていた。
そのついでに過去アレクサンドライト公爵家が譲渡し損ねた記録もあった。
本来の書類は、王宮から来た書紀官の用意した書類に帳簿から抜き出した数字を入れた後はひたすらサインを入れればいい。もう一つの書類は懲りもせずに調べ上げた先祖が公爵位を継ぎ続けた調書だ。
前者はきまりきった事柄しか書いてないので端折り、というか、アレクサンドライト家の財務書類なんかライオネルが見ていいものだろうか。
「これは確かカーネリアンの内乱じゃないか」
カーネリアン地方に端を発した内乱は王国全土に広がり、ついには王宮までも押し寄せた。
戦乱のさなか、国王と王太子が亡くなるという事態。それを収めたのが、第二王子だった。
第二王子はそのまま国王になり、あとは妹しかいなかったので爵位の交代もなかった。
「まあ、これも原因の一つだな」
アレクサンドライト家がずるずると続いてしまった理由として。
歴史の教科書で知っている内容ではあるが、改めて考えればそうだ。
コランダム公爵家の反乱。
コランダム公爵、その時点でアレクサンドライト家より王家に近い血縁だったは。ある日唐突に王家に反旗を翻した。
最終的にコランダム公爵家は一族郎党皆殺し、その後、王太子の弟王子はコランダム公爵家を継いだ。
そこまで読み進めたとき、ライオネルの顔から表情が消えた。
「なあ、何これ?」
隣国との戦争で、かろうじて生き残ったのがたった一人の王子、そのため公爵位の変更は行われなかった。
果ては疫病で、ダイヤモンド家の一族郎党が全滅したなど。さまざまな断絶話が続いた。
「まあ、そうなんだよな、アレクサンドライト家が、そのまま続くには、王家か、ほかの公爵家が断絶してないとおかしいわけで」
ライオネルは軽く眉根をもんだ。」
そしてレオンハルトは、白磁のような頬を流れる涙をレースのハンカチでぬぐう。
「どうして私は先祖のような幸運に恵まれなかったのか」
たわごとをつぶやく親友を、椅子の一撃で沈めたライオネルは思う。
「もしかして、公爵の交代が順調に行われていることこそ、この国の平和の象徴なのかもしれない」
そしてさっきの一撃の衝撃にいまだ立ち直れないでいる親友を見下ろしてつぶやく。
「大丈夫なんだろうか、この国」