淑女はいつでも現実的
盛大にわめき散らす兄たちを尻目に淑女たちは優雅にお茶を飲んでいた。
アレクサンドライト公爵令嬢である、ローズマリーは騒々しい物音にものともせず、アレクサンドライト家お抱えコックの用意したお菓子をつまんでいる。
「ローズマリー様はよろしいの、侯爵家に格下げになって」
「ああ、そうね、公爵令嬢のままでお嫁に行きたかった気分はあるわ、将来生まれる子供の箔付けのために、でもこればっかりはねえ」
そう言って、ローズマリーは兄によく似た美貌に冷めた笑みを浮かべる。
目の前でティーカップを手にしている友人、アイオライト侯爵令嬢カモミッラは少々疲れた顔で届いてくる罵声にため息をつく。
「お兄様も放っておけばいいのに、どうせどうしようもないのに」
今現在のアレクサンドライト家が爵位を返上せねばならないのはもはや決定事項だ。じたばたしてどうにかなるものではない。
ならばじたばたさせるだけさせて十分疲れさせてから、あきらめさせればいいのだ。つきあってわめき散らしてどうすると思っていた。
「仕方ありませんよ、レオン様は無駄に面倒見が言い方ですから」
ローズマリーはそう言って苦笑する。
「でもどうしてこのタイミングで就爵を?」
「それは最初からの予定ですわ。だってお兄様がアレクサンドライト公爵になってから、爵位を返上したら二度手間でしょう? 王太子殿下の年齢を考えればこのタイミングだと数年前からお父様は決めていたわ」
「なるほど」
一見すると、優雅なお茶会、だけれど、なぜかそこに控えているメイドは寒気が止まらなかった。
床にうずくまっていたライオネルは不敵な笑いを浮かべて、立ち上がった。
「そうだ、代々続くアレクサンドライト公爵家、我が家にはきっとそのための秘伝があるに違いない、そうだ、文献を、先祖の英知を」
不気味な含み笑いとともに、ライオネルは文書庫に向かう。探すのは最初に返上を免れた先祖の文書だ。
放っておきたいという気持ちを押し殺し、レオンハルトはしぶしぶ相手について行った。
書類をひっくり返し、書類雪崩を起こした惨状を目に回れ右をしたくなる。
「ついに見つけたぞ、この書類に返上を免れた秘密が隠されているのだ」
少々いっちゃってる目をしたライオネルに、どうして自分はこの男の友人をしているのだろうと、自分の過去を顧みてしまうレオンハルトだった。
書類に書かれているのは省略すればこれだけだった。
「当時の王太子が一人っ子だった」
王太子を生んで王妃は大病し、子供を望めない身体になりなどとかなりたち入ったことも書いてあったが、これがなんの役に立たないことは言うまでもない。
二人はしばし固まってその書類を見つめていた。最初に立ち直ったのはレオンハルトだった。
「そんなこともあるだろう」
ライオネルの肩にポンと手を置いた。
女の子は癒しです。