ある貴公子の苦悩
思いつきのごく短い話の予定です。
この国には、公爵位は四つある。
ダイアモンド公爵家、コランダム公爵家 ベリル公爵家、そしてアレクサンドライト公爵家だ。
この四つの公爵家は東西南北の国の要所に領地をもち、その領地とは近隣諸国との通行の要所打ちとなっている。
そのため財源は多くの場合交易で成り立っている。
そして、そのような土地を納める領主として、王家と強い血のつながりを持っていることが重要とされる。
彼は焦燥に身を焼いていた。代々続く公爵家、彼の当主就任と同時にその公爵の地位をはく奪されようとしている。
なんて理不尽なと彼は叫ぶ。
そんな彼をその友人は生ぬるい目で見ていた。
彼、ライオネル・リチャード・アレクサンドライト、この国で一番長く続いてきた公爵家の跡取り息子だ。
その友人レオンハルト・ヨハン・アイオライト侯爵、最近就爵したばかりのなりたて侯爵だ。
盛大に公爵位を失うと嘆いている友人に向ける目が生易しいのはほかでもない、彼は公爵を降りて侯爵に格下げされると嘆いているのだ。
今現在侯爵である自分に対して、喧嘩を売っているのかとくってかかりたいのも山々。
しかし彼は真剣そのものだった。
「レオン、私の苦境をどうやったら救われるだろう」
肩を覆うほどの金色の巻き毛、宝石のような緑の目は涙にうるみ、大理石のように白い肌は興奮のためか幾分赤らんでいる。
その色彩をまとう目はなの計上は端正そのもの、黙って立っていれば白皙の貴公子の代名詞だ。
そのやたらキラキラしい姿かたちを忌々しげにゆがめて、ライオネルはわめき散らす。それにこたえる言葉は決まっている。
「そんなものはない」
レオンハルトは冷淡な口調で答えた。
「考えもせずどうしてわかるんだ」
「考えずともわかるわ、法律で決まっているんだから」
アース王国の公爵領は、極めて、重要な地だ。そのため、王族に近いものが、爵位を継ぐことが決まっている。
そのため、王太子が、第一子をもうけた後、王太子の弟達が、それぞれの公爵家を継ぐことになる。
普通、王太子は成人と共に婚礼を行い、たいていはすぐに子供が生まれる。子供が生まれたら、いざという時のスペアとしてとっておかれた第二王子以降の皇子たちは公爵に降格される。
そのため四つある公爵家は二代か三代で、家系が変わる。
本来代々続く公爵家などあり得ない。そのありえないことが起きてしまったのが、アレクサンドライト公爵家なのだ。
「なんという理不尽な法律だ」
憤慨するライオネルをレオンハルトは冷たい目で見据えた。
「お前を公爵家の息子にしたのも法律だ。
都合のいいことだけ享受できると思うな。という極めてもっともな言葉は彼の耳に入っていないようだった。