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2(後編)

「しかし、驚いたなぁ。あんなにかわいくて若い女の子が、うちの隊に来てくれるなんて」

「ああ。隊長の親戚っていうからついてっきり、猿かゴリラみたいなのを想像していたよ」

「隊長に失礼だぞ、お前。ああ、膝上のスカート。見た瞬間、ときめいちまったもんな。年甲斐もなく、きゅんって。ヤバかったー」

「お前もか。俺もだよ、きゅんきゅん。しかも、剣術でオルフェさんに勝ったんだろ。強いなあ」

「十七って言っていたけどさ、初々しい感じで、ありゃまだ男を知らないだろうな」

「うんうん。キスもしてないよ」

「いや、しかし、誘ったら案外ってこともあるかもな。だってよ、事情アリかもしれないけど、こんな荒くれた隊に入る度胸があるんだぜ? かわいい顔して結構、好きものかもな」

「ミリアちゃんのことを考えていたら、またどきどきしてきたぜ」

「仲よくなりたいなあ」

「しかし、いとことはいえ、隊長には似ても似つかない。隊長の女か?」

「まさか。ほんとうに、ただのいとこだろ。隊長の、なんてもったいないぜ」

「至極同意」

 他愛ない下品な会話が流れる、男子トイレにまたひとり、隊士が加わった。

「隊長の、ってことだけはあり得ないよ」

「まっまま、マナシー組長!」

「あいつは、正真正銘ロアン隊長のいとこだからね。いくら女好きの隊長でも、身内には手を出せないよ」

「そ、そうですか」

「彼女に妙な気を起こしたら、俺がきみたちをさくっと斬るから、よろしく」

 隊士ふたりは、顔を蒼くして去った。

「……カクレイ、個室にいるんでしょ?」

 ばたん。

 リョウランが呼びかけると、ひとつのドアが開き、カクレイが現れた。すこぶる不機嫌そうな顔つきで。

「あいつらが大声でミリアの噂をしながら入ってきたから、聞いてやろうと思って避難しただけだ」

「聞いていたら諫めてくださいよ。ミオを、隊士の脳内慰みものにしていいんですか! だから、隊に入れるのは反対だったんだ」

「俺も反対したぜ。だが、ロアンが……」

「おうおう。カクレイとリョウランも連れ立って、仲よくトイレか」

 噂をすれば、ロアンの登場だ。

「仲よくなんかねえよ。隊士どもの言動を知るために隠れていただけだ、ロアン。ミリアの処遇だが、やっぱり考え直してもいいんじゃないか。やっぱり、入隊は考え直したほうが」

 やんわりとカクレイがロアンを諌める。

「うん? ミリアか。かわいくなったなー。しかしまだ、うぶいなあ。あの生脚をじーっと見ていたら、いけない関係になっちゃおうかなと不覚にも思っちまったよ。『ミリア、甘い夜をともに過ごそう』『いけません、隊長。私たちは上司と部下、それにいとこどうし。禁断の仲です』『いや、愛があれば、なにもかも乗り越えられるさ。いとこだって、結婚はできるだろ』『まあ嬉しい、隊長っ』『今夜は眠らせないよ』『夜明けのコーヒー、一緒に飲みましょうね』なんてね。これから急いで村に戻っても、寒い冬が待っているだけ。しばらく、ミリアは近衛隊で働かせよう。関所、検問をくぐれば一般人も通れるけど、ミリアには内緒な。がははっ。んじゃな」

 豪快に笑い、ロアンは用を済ませて出て行った。

「どうするんですか、カクレイ。隊長の頭の中は、平隊士と同一な、お花畑レベルですよ。このままじゃ、あいつが」

 リョウランが警鐘を鳴らした。

「分かってる。分かっているぜ」

「言っておきますけど、俺はずーっと前から、ミオを嫁にすると決めていました。傷ものにでもされたら、近衛隊そのものをぶっ潰し、王の首を掻き取って叛乱軍側に寝返りますよ」

「冗談に聞こえない。やめろ」

「ミオを喰っていいのは、俺だけですから。カクレイも、つまみ喰いなんか許しませんよ。いかがわしい妄想も禁止です。それでなくても、あなたはモテるんですから、なにもミオじゃなくてもオッケーでしょ。あっ、カクレイどこ行くんですか」

「……仕事」

「約束してください! ミオはリョウラン・マナシーのものだから、絶対に手を出さないと」

「それは、ミリア自身が決めることだ。俺たちがとやかく言うことじゃない」



 リョウランは、面白くなかった。

 せっかく、いとしのミオと久々に再会できたのに、隊士たちが邪魔するし、なによりカクレイ副隊長が邪魔な位置にいる。実質、ミオはカクレイの保護下という立場にあるが、ずっとふたりきりでこそこそ話し込んでいる。今だって、そうだ。カウンセリングだがなんだか知らないが、隣の部屋でこそこそと打ち合わせ中。

 絶対、カクレイはミオに妙な気起こしている。リョウランは確信していた。

 リョウランにとってミオは、特別な女の子。家族と別れてロアンの家に引き取られたときに出会ったのが、ミオだった。家から連れてきた猫ともはぐれてしまい、ミオはリョウランの孤独を毎日なぐさめてくれた。新しい生活に慣れたのも、ミオがいたからだ。いつしか、ミオをしあわせにすると誓い、求婚した。いい返事はもらえていないが、頷かせる自信はある。

 村を出てきたとき、ミオはまだ子どもっぽかった。笑顔のかわいい、ただの女の子だった。だが、今はどうだ。たったの一年の間に、背も伸び、落ち着いてきて、すっかりおとなの女に成長している。いきなり隊の中に入れられて、毎日緊張しながらも健気に頑張っている姿も心を打つ。しかも、あんなミニスカ。欲情しない男はいないはずだ。

 リョウランはむしゃくしゃして、机を蹴った。隊の仕事をおろそかにするつもりはないが、大切なミオにちょっかいを出されては、気が気ではない。

 ましてや、ミオはカクレイにずっと憧れていた。村ではまったく相手にされていなかったが、今のミオなら、カクレイを充分過ぎるぐらいに楽しませるだろう。

「やっと出てきた」

 ミオとカクレイが談笑しながら、隊務室に戻ってきた。ゆうに一時間。副隊長のカクレイは忙しいはずなのに、ほかの仕事そっちのけでミオの『教育』に熱心だ。

「リョウちゃん、さっきはありがとね」

 自分の椅子に座ったミオは、リョウランにほほ笑みかけながら声をかけた。ほら、自然にいい笑顔をしてくるんだ。自分に好意はある。

「さっき?」

「うん。私のこと、すごく気づかいながら勝負してくれたでしょ。負けたのは悔しいけど、リョウちゃんならいいや」

「へえ。負けず嫌いのミオが」

「うん。カクレイにも言われたよ。正直、負けた直後は悔しかったけど、相手の強さを見極めるのも大切だよね。リョウちゃん、強いもの。村にいたときよりも、いっそう強くなったよ。尊敬」

 褒められているのか、間接的にカクレイを賛辞しているのか、リョウランは微妙な気持ちでミオのことばを聞いていた。

「また、やろうね」

「ああ。次はもっと、激しくね」

「ええ。よろしくお願いします」

 剣術もいいけど、もっと体と体で触れ合いたいんだよね、なんて言ったら嫌われるだろうか。傷つけてでも、すべてを奪いたいのに。ミオの無邪気過ぎる笑顔に、リョウランはだんだん戸惑いを感じた。

読了ありがとうございました

続きます

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