表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

9(後編)

 ミリアは不安になりながらも、昼食の時間もとらずに仕事に打ち込んだ。

 ようやくメドがついた、二時半。

 カクレイからメールが届いた。不思議に思って、ミリアはカクレイの顔をこっそり窺ったけれど、カクレイは手の中にある書類から目を上げようとしなかった。

『書類、終わったようだな。お前いったん、自分の部屋に戻って休憩しろ』

 副隊長席から、ミリアの様子をずっと見守っていたのだろう。ミリアは左右を見渡して立ち上がった。

「スミマセ~ン、ちょっとお昼休憩してきますっ」

 あれ、ミリアちゃん、休憩まだだったの? なんてことばに見送られながら、ミリアは廊下を走った。

「……おなかすいたなぁ」

 部屋に買い置きしていたお菓子でも、食べちゃおうかな。

 かちゃり。

 部屋のカギを差し込んだとき、カクレイが現れた。

「無茶しやがって」

 荷物を両手に持っていたカクレイだが、脚でさっさとドアを閉める。規律にうるさい副隊長が、部下の女の部屋に出入りしているところは、絶対に見られたくないだろう。

「昼抜きで仕事なんてするなよ。適度に休め。これな、食え」

 見れば、ミリアお気に入りのベーカリーのサンドイッチと、コーヒー牛乳。

「それと、こっちは夜の服。夕食は予約してあるから、今日はお菓子、絶対食うなよ。間食禁止。夜はごちそうだから」

「は、はい。ありがとうございます」

「で、いいか。六時に、リョウランと城下の広場に行け。そのあとは……」

 ミリアはカクレイの考えた今夜の作戦を聞き漏らさないよう、しっかり頭に叩き込んだ。


 終業の五時。

 もちろん夜の巡察当番などもあるから、全員が終わりというわけにはいかないが、とりあえず仕事はこれまで。ミリアもぎりぎり十分前に提出した報告書に、カクレイから認可をもらえた。

「おまけだ」

 ぺったん。

 無事に隊の承認判が押されて、一件落着。

「ミリア・ガーフィールド、お先に失礼しまーす」

 挨拶は大きな声で。

「リョウちゃん、出かける準備をしてくるから、五時半に屯営の裏門ね」

「ふーん。ミオに準備なんてあるんだ」

「うん。着替えたり、お化粧直したり、あと荷物もあるし」

「手伝おうか? 着替えとか着替えとか着替えとか。俺、得意だよ。特に、脱ぐほう脱がせるほうが」

「いや結構。間に合っています。っていうかリョウちゃん、着替えしか言ってないし。セクハラ防止委員会の目が光っているから、あまり言わないほうがよろしくてよ」

 どうにか笑顔で、ミリアはリョウランを振り切った。

 リョウちゃん、好意は嬉しいけど、まっすぐ過ぎて、どうしよう。はっきり言わなきゃ。私は、カクレイが好きなの。

 けれど、昨夜の一件をカクレイに追及されるのは確かで、気が重い。ほとんど覚えていないが、己の軽率を謝るしかない。

「ごちそうは楽しみだけど」

 やっぱりカクレイ節で説教、なのかしら。らぶらぶお泊まりっていうミラクルフラグは、期待できそうにないのかも。それに、カクレイの言っていた『マリヤ』って存在も気にかかる。

 ミリアは、カクレイに渡された紙袋から服を取り出す。

 良家のお嬢さまのような、白い清楚なワンピース。バッグに、靴もある。

「うわ。サイズ、ぴったり」

 隊服のサイズから、カクレイはミリアの体型をだいたい知っているはずでも、見事なまでにちょうどいい。貸りたとも、あげるとも言われていないからますます不安だが、外泊を言われたときから服をどうしようかと困っていたから、ありがたかった。バッグの中には、化粧水やコットンなど、簡単なお泊まりセットも入っている。

「……カクレイ」

 きゅん。

 胸が高鳴るって、こういうことだろう。ミリアは確信した。これは、朝まで一緒にいたいっていう意思表示でいいんだよね。ほかに好きな人がいるって知った今も、カクレイを思う気持ちに変わりはない。


「なにその絵本から抜け出してきたような服」

 裏門で待ち合わせたリョウランは、ミリアのワンピース姿を見るなり目を丸くした。

「え、似合わない?」

「そりゃ、かわいくてよく似合うけど、まるでデートだよ。ほんとに、女の友人と会うの? 男の友人? そんなお姫さまみたいな服、持っていたんだ?」

 矢継ぎ早に質問を繰り出すリョウラン。

「あ、歩きながら、お話ししましょ。こうしていると、リョウちゃんとデートみたいよ。広場までデート」

 リョウちゃんとデート。

 そのことばの響きに、リョウランはデレた。これもまた、カクレイの作戦のうち。追求されたら、腕を組めとまで指示された。罪悪感に襲われつつも、ミリアはそっとリョウランの腕に自分の手を絡ませた。ごめん。リョウちゃんの気持ち、踏みにじるなんて。

「中央広場で待ち合わせなの」

「うんうん。迎えが必要だったら電話してね。何時でも構わないよ、すぐに行くから」

「ありがとう。で、私さ。昨日の夜どうしたのか教えて欲し……」

「俺嫁来る?」

「いえ、いいです」

 いくらデレでも、昨日の秘密は教えてもらえないらしい。

 やがて、広場が見えてきた。先日、リョウランが女の子たちに囲まれた場所だ。

 時刻は六時ちょうど。あたりは夕闇に包まれて来ている。ミリアの白い服も、夕陽色に染まっている。

「「ミリア!」」

 広場の真ん中にある噴水の前。ふたりの女性がミリアを待ち構えていた。もちろん、カクレイの仕込みだから初めて見る人だ。

「待った?」

「私たちも今、着いたところよ。こちらのかっこいい方は恋人?」

「はい。ミオと絶賛相愛中の……」

 リョウランが嘘を並べそうになったから、ミリアはむきになって否定した。

「職場の先輩。幼なじみでもあるけど。近衛隊一番組の、つよーい組長さん。広場まで、送ってもらったの」

「求婚しているんだけどね。なかなか固くって。今夜は、早く結婚するようにミオ……ミリアを諭してやってくれないか」

「それじゃリョウちゃん、ありがとう。隊長にも報告よろしく」

「うん。気をつけて。楽しい夜を。なるべく早く帰っておいで」

 ミリアたちとリョウランは手を振って別れた。


 ……かわいいミオ。超絶愛している。だからこそ、放っておけない。いきなり外泊届なんて、裏があるに決まっている。

 リョウランは、物陰に隠れていた監察のオルフェを呼びつけた。

「追うぞ」

「えー、かわいそうじゃないですか。あんなにかわいい笑顔で楽しそうなのに」

「ミオは俺のものだ。隠しごとは禁止。尾行は、隊長の密命でもあるんだよ。監察のきみには得意分野だろう。隊規に背いたら、切腹ものだよオルフェくん?」

読了ありがとうございました

10へ続きます

毎日更新を心がけています

全12章構成、脱稿済みですので順次アップしていきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ