予感
創造魔法がうまくいったので、次の予定を消化する事にした。
「よう親父」
「なんだ、ビフロンスのか」
近くの武器屋、パラスに顔を出す。
白い髪をオールバックにした恰幅の良いおっさんだ。
俺の実の父親ではない。
ただのあだ名だ。
「随分、ごついのを連れてるな。隊長はお役御免か?」
それなら俺が貰うぞ?と冗談めかして言う。
ごついのとは護衛に連れているエキオンの事だ。
エキオンには黙ってろと言ってある。
この親父にバレた日にはどこまでしゃべるスケルトンの話が広まるか、分かったものでは無い。
「そんな訳ないだろう。買うってのなら少しはまけてやる」
「俺んとこの武器防具全部売っぱらえとか言うんだろう?また今度な」
スケルトンを売りに出す時に武装が必要な場合は親父に頼んでいた。
付き合いは割と深い方だ。
そして、ここの武器屋は商う商品の関係で、軍関係に顔がきく。
「そろそろモンスターの討伐に行くって聞いたが?」
「ああ。そうだな。予定では明後日にも出るらしい。連れてくのは腕のいいのを選んで500人前後らしい」
「随分、今回は気合いが入っているな」
モンスター討伐には訓練の意味合いもある。
いつもなら120人前後と言った所だった。
それが4倍とは豪気な事である。
「南方にやたらとオークの群れが出ているらしい。それも100を超えるな」
「100?奴ら国でもつくる気か?」
オークの群れと言えば、最大でも40か50かそこらだ。
それ以上の群れなんて聞いた事が無い。
随分ときな臭い話だ。
「どこから出た話なんだ?」
「ゼルト男爵さ」
「余計にきな臭くなったな」
あまりいい噂を聞かない貴族だ。
3年前の隣国ラグボーネとの小競り合いの時に情報を横流ししていた疑いが掛けられたものの、証拠が足りず、また戦いにおいて功績があった事からうやむやになっていた。
実際、貴族を処罰するには相当な証拠が必要になる。
そこらの平民を裁くのとは訳が違う。
最近は軍備の縮小を訴えていた。
それで浮いた費用を外交、特にラグボーネとの対話に当て、未然に戦を防ぐなどと言う領政策を訴えている。
あまりにも露骨な話に思えるが、領民の中にも支持する人間がいるから分からないものである。
「それ、本当に裏とって討伐に行くんだろうな?」
「被害が出ているのは本当らしい。ただ、報告書には130なんて書かれていたってよ」
「有り得ないだろ?それ?ダンジョンの中じゃあるまいし。本当ならいくつの村が無くなってるか、分かったもんじゃない」
「そこなんだよ。潰された村はふたつ。そして、それ以外にも複数の村にも被害が出ている。それもかなりのな」
そう言って上げられた村の数は7つにもなった。
かなりの広範囲だ。
何故か、俺が行った廃村もその中に含まれていた。
あそこはどう考えてもオークの仕業では無いだろう。
それが余計に疑念を強くする。
ひとつの群れが分かれ、合わさり、それを繰り返して村々を襲っていると言うのがゼルト男爵の弁らしい。
130なんて数はどう考えても嘘くさい。
報告に上がってくるのは一般的に戦闘員のみの数だ。
廃村で出くわしたゴブリンなら7と報告されるだろう。
それが130なんて報告されたら、実数としてはその倍以上にふくれあがる。
全て駆逐しようと思ったら500では足りないくらいだ。
「軍はどの程度、信じているんだ?」
「将軍から兵士まで軍は誰も信じちゃいないさ。所が貴族様たってのご希望で今回の数が決まったって寸法よ」
「ゼルト以外にも何人か噛んでる人間がいるって事か」
「だからいつもならワグナー将軍が行くところが、今回は副将のシードの坊やが行くってさ」
「甘ちゃんシードか」
オークが本当に報告書通りなら甘ちゃんシードでは役に立たないだろう。
貴族のボンボンで実戦経験が皆無。
数少ない戦では敵の誘いに簡単に乗って自軍に大損害を出した。
その時に死ねば良かったのにと今でも言われている。
貴族の悪口に花が咲いた後、結局はこの言葉に落ち着いた。
「どんなにきな臭くても俺ら平民はただ座して待つのみさ」
確かにそうだ。
所詮は平民。
貴族にも軍にも口出しなんて出来やしない。
この時の俺はそう思っていた。