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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
エイディアスの骸骨商会
7/67

エイディアスの街

翌朝、廃村を出た。


入り口には2頭だての荷馬車がつないである。

ただし、馬は馬でもスケルトンだ。


馬のスケルトンは当然、言葉を理解出来ないスケアクロウなので、俺には制御出来ない。

ただし、スケルトンソルジャーにはこうした馬系のスケルトンの騎乗能力があるので、俺は駄目でも隊長達には問題なく扱う事ができる。


本来なら荷車いっぱいにスケルトンを乗せるつもりだったが、荷車の中はスカスカだ。

そのスカスカの荷車に座り、いつまでも後ろを向いて、遠くなっていく廃村を眺めていたバンザイが妙に印象的だった。


本当に変な奴だ。

街までは1日とちょっとだ。

それまで馬車に揺られ、道を進んだ。






カルヴァ国エイディアス領。


街の周りを石造りの高く、分厚い塀が覆っている。

その形は上空から見たら6角形になり、その角のひとつひとつに見張りの塔が建っていた。


この辺りはモンスターの襲撃がかなり多い。

いや、襲ってくるのはモンスターだけではない。

隣国との小競り合いも絶えない。


そのための対策としてかなり堅固な塀が築かれていた。

その街の正門ではなく、その後方の林に囲まれた裏手の小さな門へと馬車は向かう。


スケルトンはモンスターだ。

正門からは他の街からやってくる人達が多数通る。

そんな所にスケルトンの部隊にしか見えない一行を向かわせる訳には行かない。

裏門から入るのが通例になっていた。


「よう。ビフロンスの旦那。今回はどうだった?満載か?」


門番のひとりが声を掛けてくる。

ビフロンスとは俺の店の名前だ。

この街では俺の事を店の名前で呼ぶ人間は多い。


「いや、全然だったな。確かに廃村はあったんだが」

「はははっ。そうそう濡れ手に粟とはいかないわな」


明るく笑って言う。

笑う門番の前に全てのスケルトンを並ばせた。

いくら俺が使役しているとはいえ、そのまま街の中まで素通りはさせてもらえない。


「っと、なんだ?その赤いスケルトンは?まさかレッドボーンか?」


門番達が剣へと手を掛ける。

レッドボーン。

使役出来ないスケルトンだ。


人の生き血をたっぷり吸った死体がスケルトンになると、スケアクロウになる。

それも人の生き血を求めてさまよい、そして人を襲うスケルトンに。

殺人鬼や異常者の骨を使うとまれに生まれるらしい。

実際に見た事は無い。


「違うよ。俺も良くは分からんが、コイツだけ色が違うんだ。よく見ろよ。色も赤じゃないし、それにきちんと言う事聞いて立っているだろう?」


俺はエキオンに命じて座らせた。

エキオンは無言でひざまずき、騎士の礼を取った。


待て、エキオン。

それはやりすぎだ。


エキオンとは前もって打ち合わせをしておいた。

一言もしゃべらない事。

そして黙って俺の言う事をきく事。


あまりにも見事な礼に門番も言葉を失った。


「あ、あぁ。っと、そうだな。問題無さそうだ。それじゃあ札を掛けときな」


言われ、胸程の大きさの板にヒモを通した物を骨の数だけ渡された。


板には領主の印が入っている。

つまりこれは認可されたモンスターだという事だ。

何かあれば、何処の誰が街に入れたモンスターなのか、すぐに分かる。


それを1体ずつ掛けていく。

これを掛けていれば、外から入り込んだモンスターだとは思われない。

街の中で混乱を起こさないために、分かりやすい目印としてこれを掛けるのが決まりだ。


全ての骨達に掛け、必要な手続きを行って街へと入った。

きっちりと整備された通りと、ぎっしりと詰め込まれたように並ぶ石造りの家々が見事に並んでいる。


その通りをゆっくりと店に向かって進み出した。






「あ、おかえりなさーい。って何ですその赤いの?」


裏門からほど近い、裏通りに面した店、ビフロンス。

スケルトン専門の奴隷商。


街の内外を問わず、それなりに有名な店だ。

そして俺の店だった。


店の中は入ってすぐにカウンター。

突き当たりには大きな扉がひとつ。

その手前にはテーブルがひとつ、イスが4脚、後は何も無い空間があるだけの殺風景な店だ。


「ああ。アンズ、店はどうだ?」


質問に答えず、質問で返す。


オレンジ色の明るい髪をショートカットにした若い娘が入ってすぐにあるカウンターから声を掛けてきた。

娘と言っても俺の娘ではない。


もうひとりカウンターに立っていた銀色の短髪が印象的な初老の男が一礼した後、俺に近づいて来る。

スミス。

アンズと共に留守を任せていた店の者だ。


表に待たせている馬車の片付けと、スケルトン達を店の中へと運ばせるために、首から下げていた古鍵の鎖を渡すと、スミスは店からそのまま出ていった。


「取り合えず、何にもありませんでしたね。注文無しです」

「そうか。エキオン、話してもいいぞ」

「分かった」

「わ!?しゃべった!?しゃべりましたよ!?」


アンズはカウンターから飛び出してきて、エキオンをぺたぺたと触る。


「あんまり気安く触らないでもらいたいな」

「え?あ!?ごめんね!あれ?ごめんなさい?」

「アンズ、落ち着け」


どう接して良いのか分からないのは分かる。

落ち着け。


「今回の収穫だ。これは売らないで俺の護衛をやってもらう。あまり余計な事を店の外でしゃべるなよ。エキオン、アンズだ。俺の店を手伝ってもらってる。さっきの男がスミスだ」

「そうか。覚えておこう」

「はー、何だかすごいスケルトンですね」

「俺も詳しくは分からんから余計な事は聞くな」


今回は他にもう1体、バンザイを拾ってきた事を告げて、帳簿に載せさせた。

そのままだと目立つので、取り合えずエキオンには体全体を黒いマントで隠させて、その上から例の札を掛け、街中ではこれで行動させる事にした。


店の中の通用口から、裏手の倉庫へと向かう。

そこではスミスがスケルトンの整理をしていた。

すでに馬車は店の裏口から入れて片付けられた後だった。


倉庫には床に整然とシャレコウベが並んでいる。

バンザイを見つけた時の状態に近い。


倉庫の中で魔力をカットし、封印状態でスケルトンを保管しているのだ。

さすがに何もせずただ倉庫の中に立たせておくだけでも魔力は消費される。

それでは数を管理出来ない。

そのためのシステムだった。


「数は?」

「現在、81体です」

「そうか」


隊長達、スケルトンソルジャー、ハイスケルトンを除いた通常のスケルトンの数だ。

つまりこれが在庫である。

数が溜まってきているので、そろそろ行商に出ても良いかもしれない。


「何か変わった事は?」


アンズにも聞いた事をスミスにも聞く。

アンズよりもスミスの方が気がきく事が多い。


「いえ。何もございません。ただ、そろそろ軍がモンスター討伐遠征に出るという噂が出ております」

「そうか。もうそんな時期か」


後で情報を集めてこよう。

軍がかなりの数を率いて近隣のモンスター討伐に向かう事が年に何回かあった。

それで街の周囲の危険度が下がると、それに合わせて人の動きが出来る。

商売に身を置く人間にとっては稼ぎ時となる。


「スミス。今日はもう休む。明日から色々動くからまた頼む」

「かしこまりました」

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