エキオン対オーガ
バンザイとエキオンを連れて廃村から出た。
隊長達は火を起こし、狩りに行き、水を汲み、あの廃村に泊まる準備をしている。
その間にエキオンの実力を少し見る事にした。
バンザイを連れてきたのは、あそこに置いておいても役に立たなかったからというだけの理由だった。
エキオンには取り合えず、ゴブリンが持っていた剣を持たせてある。
しばらく村から離れるように歩き続けた。
人の行き来が途絶えていたからには、この辺りのモンスターの数はそれなりに増えているはずだ。
やがてその考えが正しかった事を証明するように、1体のオーガが草原の向こうから現れた。
黒い肌に見るからに硬そうな筋肉に覆われた巨漢。
身長は2、3メートルはありそうだ。
熊か何かの獣の皮を体に巻き付けている。
手には自身の腕の先に頭を付けたような太く巨大なこん棒。
力任せの一撃を人間がまともに食らえば肉は爆ぜ、骨は砕かれるだろう。
リーチは長く、その打撃力は強大だ。
スケルトンとは相性が悪い相手と言えた。
「さて、力を見せてくれるか?」
「分かった。では行こう」
さして気負いの無い声とともに歩き出す。
オーガも接近するエキオンに、そしてその後ろに立つ俺に気が付いた。
オーガが地響きを立てて走り寄ってくる。
エキオンは構えもしない。
オーガは突撃しながらこん棒を振り上げた。
そしてそれを力任せに振り下ろす。
目の前で広がる光景に目を見張った。
エキオンは避けなかった。
振り下ろされた一撃は、エキオンの左手に受け止められる。
剣を持たず、ただ挙げられただけの左手に。
エキオンにダメージは見られない。
左手を上げたまま、今度は右手を振るった。
あまりにも無造作に見える斬撃だった。
しかし、手にしていた剣は見事にオーガの手首を断ち切った。
「ぐぉおぉあぉぁー!」
オーガは耳障りな叫びを上げ、その血がエキオンへと降りそそいだ。
今度は無手の左手をその巨体が振り下ろした。
オーガの表情に浮かぶのは憤怒。
その憤怒がこもった一撃を、エキオンは同じように左手で受け止めた。
こん棒の一撃を止めたのだ。
ただの拳の振り下ろし等、苦にもしない。
そしてその腕も斬り飛ばされた。
そのままくるりと回転すると、オーガの足が2本とも断ち切られる。
オーガはなす術も無く前へと倒れていった。
さらにエキオンが剣を振るう。
倒れゆくその首が跳ね飛ばされる。
叫びは消え、後にはバラバラになった大きな死体が残った。
「圧倒的だな」
待て、バンザイ、お前は俺に抱きつくな。
何なんだ、こいつは。
それにしても。
それにしてもである。
予想以上だった。
オーガは馬鹿だ。
力は強いけれども、それを活かす技も知恵も無い。
それでもその暴力は脅威だ。
まともにぶつかれば熟練の冒険者でも、ただでは済まない。
それがスケルトンなら尚更だ。
スケルトンは例え一部でもその身たる骨を砕かれれば、力は弱まる。
血が流れずとも、ダメージは負うのだ。
まして腕や足を砕かれれば戦うのは困難に、そして背骨を砕かれればそれでほとんどお終いになる。
あの振り下ろしは腕だけでなく、まさにその背骨を破壊する程の一撃だった。
隊長でもダメージは必至。
それを、ああも簡単に防ぐとは。
そして、あの剣技である。
ゴブリンの剣は決して良い物では無い。
満足に手入れがされているはずも無く、刃はボロボロで指を押し当てても傷ひとつ付かなかった。
そんな剣であの硬い筋肉に覆われたオーガを簡単に両断した。
「どうかな?」
「俺といい勝負だろう」
軽く鼻で息を吐き、答えた。
「そうか。それは満足して貰えたって事かな?」
「そうだな。満足した」
こんな馬鹿みたいに強いスケルトンに満足できない奴は、デスナイトか、リッチか、ボーンドラゴンか、それくらいしか需要を満たせないだろう。
後は、伝説上の最強のスケルトン、デスだけか。
村に戻ると、全ての準備が整っていた。
さすがに料理などはスケルトンにはさせられないので、ドジッ子が獲ってきた山鳩を捌き、焼いて食べた。
他にも元々は村だっただけあって、カタブツがいくつかの放置されていた畑から野菜を採ってきていたので、それも塩をふって適当に焼いて食べた。
さすがに風呂は望むべくも無い。
夜になって状態の良い廃屋を選んで、そこで休む。
一応、念のために廃屋の入り口は長年行動を共にした隊長に任せ、エキオンは村の周りの警戒に出した。
今までに無い事が起こっているのだ。
それくらいの警戒はするべきだろう。
特に命令はしなかったバンザイが、なぜか隊長の隣に立っていた。
まあ、普通のスケルトンなので、どうという事もないだろうから放っておく。
エキオンよりも、こいつの奇行の方が妙に気になるな。