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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
避けられない戦い
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終焉

矢はさらに降り注ぐ。


エキオンが再創造した強力な矢がアーレスを襲い、そして婆を襲った。


背後を確認する余裕は無い。


しかし、誰が射ったのかは分かる。


高い所が好きだったな。

お前は。


放たれたのは矢だけではなかった。


1本の槍が婆に向かって飛来する。


「馬鹿」


それはかつて、グレンデルの目を貫いた槍。


アーレスはそれを宙で断ち切った。

目の前に槍の柄が落ちる。


それを踏み抜くと、柄は起き上がり、アーレスに向いた。


アーレスが不意に起き上がった槍に過剰に反応して目の前で横薙ぎの一閃を放つ。


それは俺の腹も浅く割いた。


目の前には剣を振り抜いたアーレスの姿。


そこに手にした剣を伸ばす。


まっすぐに。


まっすぐに。


それはアーレスの喉を捉えて、首を飛ばした。


じゃあな。


アーレス。






アーレスが倒れた。

やっとそこでちらりと振り向いた。


やってきたのはデカブツだった。

そしてその手に乗ったナーとドジッ子、そして隊長。


「遅いぞ。隊長」


崩れ落ちそうになる体を剣で支えた。

再び婆に振り向く。


「苦しくなったな」

「うるさい」

「どうした?また演説でも始めろよ。少しなら聞いてやる」


デカブツの手から降りたナーと隊長がやってくる。


「ふん。まだ策はあるわ」

「そうか。リッチのなりそこない1体と、未だエキオンを打ち破れないデスナイト1体でどうする?」


周囲のレッドボーンはデカブツが片付け始めている。


婆の体がふわりと浮かび上がった。

そんな魔法があるのか?


初めて見る魔法だった。


「それで?逃げるのか?」


未だドジッ子は婆を狙い、弓を構えている。


「いや。目的は果たす。ネクロマンサーの強みはな」


婆が杖を振るう。

その瞬間、雷が荒れ狂った。


「な!?」


二重に魔法を使えるのか!?


後ろへと跳んで避ける。

隊長がそれをまともに食らって崩れ落ちた。


ナーも横に跳んで避けていた。


婆は恐るべき早さで飛来する。


ドジッ子が矢を射った。


それを婆はかわす。

なりそこないでもリッチはリッチか。

俺の侮りを笑い飛ばすように突き進む。


婆はナーの側にあっという間に辿り着いた。

ナーは無手。

そのナーの頭を婆の手が捉えた。


「敵を味方に出来る事さ!」


地を蹴る。

ふざけるな。

ふざけるな!!


その瞬間、ナーの体が燃え上がった。

インシネレイション。

肉体を燃やし尽くす業火。


それがナーを包んだ。


「ナー!」







目の前で部下達が死んでいく。


ラグボーネの魔法兵が放ったファイアーボールが陣の中央を直撃。

修復する間もなく、そこに奴らの兵が殺到していた。


「怯むな!奴らの数は多くない!第2陣を前に出せ!食い破られるな!」


どうすれば良い?

あの獣どもを駆逐するには。


考える間にも、こちらの兵が死んで行く。

一度、陣を下げるか?

しかし、それでは入り込んでくる獣の数を増やしかねない。


塀の上の骸が存外に役立っている。

それが無ければ被害はもっと拡大していただろう。


出来る事なら今すぐ目の前の獣どもをアンデッドに変えて送りつけてやりたかった。

奴らなど、仲間の死体に殺されれば良いのだ。


目の前で部下達が死んでいく。

出来る事なら今すぐ目の前の部下達をアンデッドとして蘇らせ、共に最後まで戦い抜きたかった。


どうすれば良い?

このくそったれな状況を完全に打ち砕くには。


絶望的な状況。

塀の上の骸達を見た。

その姿は地獄の入り口を守る門番のよう。


それなら地獄はこちら側か。


そう考えた瞬間、燃え上がるような怒りが湧いた。


「ふざけるな!」


地獄に落ちるならラグボーネの糞どもと一緒にだ。

私たちだけが落ちたりはしない。


将軍からは死守を命じられていた。

絶対に陣を動かしてはならないと。


しかし、このままじりじりと落とされるくらいなら。


前進を決意する。


その時だった。


塀の外から悲鳴が聞こえたのは。






将軍の号令で攻勢に転じた。

塀の外へと出る。


そこで見たのは圧倒的な蹂躙だった。

巨大な骸がラグボーネの獣どもを駆逐していく。


それはまるでホウキでゴミを掃き出すようだった。


胸がすっとした。


塀の上の骸と良い、あの巨大な骸と良い、今回は訳が分からなかった。


エイディアスには骸を奴隷として売る商人がいる。

その話は知っていた。

その商人があれほどの骸を軍に売ったのだろうか?


ならばその商人に会いに行こう。

会ってお礼を言わなければ。


そう思い、見た先にひとりの騎士がいた。


骸を率いて獣どもを殺して回る。


エイディアスの兵ではない。


身につけた鎧は白く輝いていた。

その意匠は骸骨だろうか。


身につけた人物は決して若くない。

生きていれば私の父と同じくらいだろう。


騎士の姿が目に映った瞬間、私は指揮を忘れ、ただその姿に見とれた。






閣下が走り寄ってくるのが目の端に映る。


そうか。

私は死ぬのか。


この骸は閣下と同じく、死を操る。


このままでは閣下の敵にされてしまう。


ひとつの魔法式をぼやけた思考の頭に浮かべた。


それほど難しい魔法ではない。


魔力を通し、自らの体に掛ける。


閣下。


約束を破ってしまい、申し訳ございません。






裂かれた腹から血が流れ出している。


それでも動く。


ドジッ子はナーを盾にされて矢を射てない。

デカブツでは間に合わず、隊長は動けない。


剣を持つ手に力を込める。


ナーの燃え上がった体からやがてぼろぼろと何かが崩れ落ちる。

何が崩れ落ちているのかは考えたくない。


足を上げ、体を前へと進める。


崩壊は止まらず、やがて、婆の手には真っ白な塊だけが残った。

何が残ったのかは見えている。

その意味を考えたくなかった。


駆ける。


婆の手から闇が溢れ出し、その白い塊を、下に落ちた白いバラバラな何かを吸い上げる。

それに合わせて浮かび上がった鎧には骸骨の意匠。

複数の魔法を同時に使える恩恵なのか、異常なまでの早さだった。


剣を振り上げた。


「遅いよ。もう出来る」


目の前にはまるで標本のように骸骨が浮かび上がっていた。


ふざけるな。


「さあ、お前にはコレが斬れるかな?」


そう言った瞬間、骸骨に集まっていた闇がかき消えた。

頭蓋骨だけを婆の手の中に残してばらばらと落ちていく。


「小娘が!?ヒューマンプライドだと!?」

「じゃあな。婆。よくもナーを殺してくれたな」


剣を振るった。

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