戦場のリズム
◇
赤い骸骨が村の周りを覆い尽くしていた。
レッドボーン。
本来なら使役出来ないスケアクロウ。
スケルトンソルジャーには一段劣るとは言え、普通のスケルトンよりも強力な存在。
生者を憎む赤い骸骨の群れ。
それが村へと襲いかかる。
その様はまるでエサに群がるカニそのものだった。
村の周りの壕を登り、そして堀へと飛び込む。
水が張られているが、それをものともしない。
堀に落ちたレッドボーンを踏み台にして塀を登り、村の中へと降りた。
堀に落ち、踏みつぶされた事で倒れたレッドボーンの数も少なく無い。
その先に待っているのは、ぎっしりと陣を構えて待ち構える重装兵の姿だ。
村人はひとりもいなかった。
エイディアスの精鋭300人。
それが小さな村に折り畳まれたように陣を敷き、レッドボーンの到来を待っている。
入り込んだレッドボーンの1体が近づくと、ひとりの重装兵の手にした柄の長い斧、ハルバードにすぐさま叩き潰された。
鎧を着ているレッドボーンもいたが、関係なしである。
鎧ごと叩き潰し、また構えた。
その刃先はエキオンが再創造した特別製。
強敵であるはずのレッドボーンが簡単に打ち崩されていく。
レッドボーンがもしも人間だったら恐怖したはずだろう。
しかし、レッドボーンは命じられた通りに村へと殺到し、突き進む。
恐怖も無く、怒りも無く、意志も無く。
まるで虫のように。
ただ前へ。
村の中へ。
複数のレッドボーンが陣へと迫っていた。
重装兵達は今度は振り下ろさずに、ハルバードを水平に構えた。
レッドボーンの前に並ぶのは無数の刺。
レッドボーンの進軍速度が緩む。
その瞬間、レッドボーン達の足下が爆ぜた。
重装兵の後ろで時を待っていた魔法兵の一撃。
それが正確に複数のレッドボーンをまとめて打ち砕く。
時折、魔法兵は塀の上へも雷撃を放つ。
雷撃は堀を超え、塀を登ってきたレッドボーンがふりまく水を伝わり、複数の敵にまとめてダメージを与えていた。
村の家々の上には弓兵の姿。
敵の数に合わせて射ち、休み、その進軍速度を遅らせる。
一撃で打ち崩せなくとも、数がまとまれば、それはレッドボーン達を阻む新たな障壁として機能した。
それらすべてをかいくぐったレッドボーンすらも、重装兵の傍らで時を待っていたハンマーを持つ軽装兵に打ち崩される。
エイディアス軍は、待つ間に繰り返されていた訓練そのままに敵を打ち砕いて行く。
もっとも攻められやすい正門ではデカブツがツルハシを振るっていた。
ただの一振りでレッドボーンを砕き、割り、吹き飛ばす。
常にファイアーボールが着弾し続けているような惨状に、赤い残骸の山が生まれていた。
デカブツを使役しているのはナー。
さらにガサツに、ゴキゲンに、ドジッ子に指示を飛ばし、デカブツの一撃をすり抜けたレッドボーンを始末する。
その後方ではサストレがカタブツとグンソウ、そしてバンザイをはじめとしたスケルトン達を率いて入り込んだレッドボーンを叩き潰す。
村に入り込むレッドボーンの数は時間を追う毎に、比例的に増えていった。
それでも村は持ちこたえる。
カドモスが思いつきで行った区画整備が生きていた。
入り込んだレッドボーンの数が増えると、村の隅の区画へと押し流されるレッドボーンの数も増えた。
そしてそれは魔法兵の一撃でまとめて吹き飛ばされる。
村から響く音は壮大なオーケストラにも似ていた。
レッドボーンが立てる不協和音に、兵達の立てる規律ある動作の旋律が加わり、音楽に変わる。
戦場のリズム。
それは途切れる事無く続き、遠く遠く響いた。
◇
「良い音色だ」
遠く離れた街道の上からその音を聞いていた。
これならば、そう簡単には戦線が破綻する恐れはなさそうだ。
しかし、それがいつまでも続く保証は無い。
敵はこちらの狙い通りに村に集中している。
早く状況を決定的に動かさなければ、負けるのはこちら側だ。
街道の上には、エキオンが、隊長がそしてシャドウがいる。
すべて騎乗させた。
シャドウが載っているのも馬のスケルトンだ。
「それじゃあ行くぞ」
「いいんだな?」
「決まってる。リッチを倒す」
敵の背後を突き、一撃で倒す。
生者は俺ひとりだけ。
婆が居る以上、生者を率いて攻める訳にはいかない。
孤軍。
しかし、今回は俺ひとりではない。
村から離れた位置に、レッドボーンが群がっていた。
村に群がっている数から考えればその数は少ない。
その群れの中、村から見て後ろ寄りにローブをまとった1体のスケルトンの姿が見えた。
わだかまる闇の上に立ち、杖を振る。
その杖に合わせてレッドボーンが進軍して行く。
リッチ。
かつての魔法の師。
倒す。
そのために。
一直線に走り出した。




