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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
エイディアスの骸骨商会
5/67

カドモス

スパルトイ。


恐ろしく高位のスケルトンだ。

言葉を普通に話せるだけでもそれが分かる。


歴史上でも数体しか確認されていないのではないだろうか?

勿論、目にするのは初めてだった。


まるで輝くように美しい茜色の骨。

美術品が立っているかのような印象だった。


鎧や剣の類いは持っていない。

生まれたままの姿だ。

いや、この言い方はおかしいか。

デスナイトは創造された時点でフル装備で現れると聞いていたが、目の前のスパルトイはそうではない。


後ろから物音がした。

見ると、なぜか隊長はじめ護衛の骨達が全員ひざまずいていた。


なぜか新顔は万歳をしている。

お前の(仮)はバンザイだ。

何かテンション高そうで微妙にむかつくな。


自分の右手を見ると、そこに牙は無かった。

依り代たるドラゴンの牙が消えてしまっている。


普段は古鍵を依り代とし、それを譲り渡す事で奴隷商売を可能としていた。

今回はそれが消えてしまっている。


消えたドラゴンの牙の代わりに右手の甲には印が刻まれていた。

茜色の入れ墨。

三重の円の中に何やら文字のようなものがびっしり書いてあるが。読めない。

中央には何やら複雑な模様が何かの紋章のように刻まれている。

つまり俺自身が依り代になってしまっているらしかった。


これでは俺自身を売り飛ばさないと、スパルトイを売れない。


もう一度、スパルトイを、エキオンと名乗ったそれを見ようとして視界が揺れている事に気が付いた。

めまい。

俺自身の魔力が枯渇している。


あわてて背中のバッグからマナポーションを取り出し、一気に飲み干す。

魔力量には自信があった。

しかし今回は8割方以上が持って行かれた感じがする。

めまいは簡単には収まらない。


「大丈夫か?」


エキオンが近づいてきて、肩に手を置かれた。

ぐいっと引っ張られて顔を覗き込まれる。


「待て。近い」

「おお、すまない。失礼した。しかし顔が青いぞ」


エキオンが手を離した。


「分かるのか?」

「それだけ青ければ分かるだろう」


眼球は無いんだがな。

いや、見えてなければ普通のスケルトンでも動くのには困る。

予想しなかった事態に俺は動揺しているらしい。


「エキオン。お前は何だ?どうしてお前が造られた?」


なぜ、ヒュージスケルトンではなく、スパルトイが造られたのか。

自分を落ち着かせるために、質問をする。


「すまない。私に分かるのは、私がスパルトイである事。名前がエキオンである事だけだ」


特に答えを期待していた訳では無かった。

造り出された者に、なぜ造り出されたのか?と聞くのは無駄な質問だろう。

理性を働かせたくて、取り合えず思いついた事を聞いただけだ。

それでも答えを聞きながら新たな疑問が生まれた。

いや、何で名前を最初から持っている?


「エキオンというのは自分で付けたのか?」

「それは違うと思う。なんて説明すれば良いのだろう?例えば右手を右手と呼ぶ事を知っているように、最初から常識のひとつとして記憶されているようだ」


常識か。

造られてすぐの普通のスケルトンでも言葉を理解する。

それは造られた時点でその魂に自動的にインストールされる魔法コードのひとつによって実現されている。

それは前世の記憶では断じて無い。


生きているゴブリンを捕まえてきて、魔法を使って無理矢理に言葉を覚えさせる事が出来ない事と同じように、ゴブリンの死体等から造られるスケアクロウにも言語を理解させる事は出来ないので、魔法コードひとつで何でも好きな常識を植え付けられると考えるのは間違いだ。


つまり出来ない事は出来ない事なのだとされている。


造られる存在に名前を持たせて創造する魔法コードなどは聞いた事が無かった。

あるとも思えないし、第一やる意味があまり無いだろう。

このスケルトンは名前が魔法コードの中に組み込まれていたと言っているのに等しい。

しかし、俺はそんな事はしていない。


エキオンというのが、あの村人の内の誰かの名前と言う可能性は低いだろう。

まさかあの中に英雄クラスの村人Bがいたとは考えにくい。

そもそも前世の記憶で無い以上、関係ないのは確かか。

分からん。


「デスナイトは造られた瞬間から武器を持って生まれてくると言われているが、スパルトイは違うのか?」

「マスターの許可さえ貰えれば、今すぐにでも造ろう」

「造る?創造魔法が使えるのか?」

「可能だ」


創造魔法。

物を造り、生み出す魔法。

モンスターの中にも使える物は確かに存在する。

まさかそんな上級モンスターを使役する日が来ようとは。


「いや、今はいい。大丈夫だ」


当然の事ながら、モンスターにも魔力はある。

特に危険が無い今、魔力を大量消費されてしまうと、その分をまた俺がチャージしなくてはならなくなるかもしれない。

今はマナポーションで強制的に回復したばかりなので、それは勘弁願いたい。


「そうか。残念だ」

「しかし、ヒュージスケルトンを造ったつもりだったんだが」


エキオンに言ったのではない。

ひとり言だ。

常にもの言わぬスケルトンと共に過ごしていると、多くなる。

それにエキオンが応えた。


「私を呼ぶには相応の対価が必要なはずだ。私にはそれが何かは分からない。しかしそれがヒュージスケルトンよりも私に適した物だったのではないか?」

「いや、今のはひとり言だ。……対価?」


右手の甲を見る。

つまりドラゴンの牙か。

それなら何となく納得出来る。

スパルトイの名前が残っている以上、誰かも同じ事を過去にしたのかもしれない。

不意に文句が思い浮かんだ。

そういう有益な事は、きちんと世間的に発表しておけ。

いや、自分だけが造り方を知っているのは世間に対するアドバンテージだ。

俺でもそう考えるのだから誰も知らないのは当然か。


改めて、エキオンが創造された位置を見た。

エキオンにまるごと持って行かれて、そこには骨ひとつ残っていない。

俺のロマンも消え去った。


取り合えず、この廃村での目的は果たされなかったが、手段も尽きた。

近くの街に向かうには遅いので、今日はここに泊まる事にした。

隊長に命じて、その準備に取りかからせる。


「マスター、あなたの名前を聞きたいのだが」

「ああ。そうか。普段はスケルトンに名乗るなんて事、無いからな。カドモスだ。今後ともよろしく」

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