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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
避けられない戦い
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大戦

具体的にフランスというつもりでは無いのですが。名前は後で変えるかもしれません。

「どうして俺がここにいるって分かった?」

「よお、ビフロンス。自分が昔した事を忘れたのか?お前ひとりに潜入された敵はどうなった?時が経っても、お前ひとりの事を近くの軍隊より恐れる国はまだまだあるって事さ」


騒がしい酒場の隅にその男はいた。


痩せた長身の男。

逆立てた黒髪と黒い目がカラスを連想させる。

着ている服までが真っ黒だった。


男の対面に座る。

エキオンは後ろに立ったままだ。

少しでも目立たせないように、鎧を外し、マントをまとわせている。


「西方諸国のブラックリストに乗ってるのは知ってる。ただ、カルヴァはその影響下に無いから留まっているんだがな」


カルヴァは大戦後に成立した国だった。

かつての法国のしがらみが全く無い。


「自分の仇敵がどこにいるのか知りたいってのはそれほど不思議に思う話じゃないだろ?カルヴァの連中は誰を貴族にしたのか分かってないんじゃないのか?」


俺の事を国外から注目している連中はまだまだいるって事か。

情報はだだ漏れのようだ。


ある程度は分かっていたが、この男が現れるようでは安易に東方から出るべきでは無いな。


「しかし、なんだ?その赤いのは。周りがビビって注目してるじゃねぇか」


忌々しい。

口にし周囲を睨む。


それであわてて周りの酔っぱらいどもが目を逸らした。

マントに身を包んだスケルトンの姿は酒場の中では確かに異様だ。


「護衛さ」

「お前がスケルトンを護衛に使うのは昔から見てるから知ってる。なんだその尋常じゃない魔力の奴はと聞いてるんだ。デスナイトじゃなさそうだがな」

「デスナイトをぽんぽん造れるようになったらまずは法国の残党をくびり殺しに行ってる」

「話す気がないならいい。本題に入るぞ」







かつて世界はひとつの国しか無かった。

法国。

それ以外にはいくつかの辺境と呼ばれる場所に少しの人々が暮らしていた。


今から120年前に反乱が起こる。

法国の一部が新たな国を名乗りそれはやがて法国内のすべてを巻き込む戦争になった。


大戦。


その名に相応しく、戦争は100年を超えても終わらず、世界の人口は戦争前に比べて半分以下にまで減った。


最終的に人が減り過ぎて、モンスターの数が人を上回り、大きく人の生存圏を減らした時点で自然消滅的に終息したという人類史上最悪の戦争だった。


その大戦の地が現在、西方諸国と呼ばれ、大戦から逃れた人々が新たに開墾し、入植したのが東方諸国と呼ばれている。







法国内で新たな国を名乗った側でカドモスは戦った。

潜入し、破壊し、殺戮した。


目の前で酒を飲む男も、かつての同じ側で戦った人間だ。

仲間か?と問われれば敵が同じだっただけと答えるような間柄でしかない。


今どこに属しているのか知らない以上、味方と考えるのは危険だろう。

そんな男が口を開く。


「お前に魔法を仕込んだ婆、今どこにいるか、分かるか?」

「いや、知らないな。と言うよりも、まだ生きてるのか?俺はとっくに」


遮るように男が言う。


「もちろん死んでる。その上で聞いている。本当に知らないんだな?」


知る訳が無い。

俺が大戦に身を投じる時に、別れてそれきりだ。


死んだ婆の行方を聞いてくる。


その事で連想されるのはひとつしかなかった。

俺が察したのが分かったのだろう。


「そう。リッチになってご健在って訳さ」


西方諸国の小さな国で、大量のアンデッドが街を襲う事件が起こった。


男は最初、俺がやったと思ったらしい。


その国と同盟関係にある国で士官をしていた男は要請を受けて、部隊を率い、討伐に向かった。


そこで城を占拠していた無数のスケルトンを排除、始末して回った先で見つけたのは1体のリッチ、そういう話だった。


「リッチは取り逃がした。デスナイトを3体も連れてやがって」


忌々しそうに舌打ちする。


「あの戦力で一目散に逃げられたらさすがの俺でもな。俺が後ひとりは必要だった」

「英雄だろ。ちゃんと始末しろよ」

「うるせえ。もうちょいマシな兵がいればやった」


それでもさすが英雄と言うべきか。

1体は倒したらしい。


デスナイト1体が倒れた時点でリッチは既に逃げた後。

残ったのは惨憺たる街の有様だった。

そして。


「街に大量にあったはずの死体の半分以上が消えたってよ。そのままアンデッドの軍勢に加わったのか、それとも持ち去って何かに使うつもりなのかは知らん」


ちゃんと調べてから来い、と文句を言うと、そもそもの俺の仕事じゃない、と言い放ち、酒を飲む。


「現在地は?」

「それも不明だ。ただし、西方諸国からこっちに流れたのは間違い無いだろう」


おそらくどっかの山奥にでも入っていたんだろう?

酒を飲む手を止めずに続けた。


西方諸国は大戦でずたずたになったままだ。

国も街も道も、何も無い土地なんていくらでもある。

そして、そうした土地はモンスターの理想郷と化しているのだ。


そうしたルートを選べば、人目に触れずに移動するのはそれほど難しい話では無い。

事実、俺も少なくないスケルトンを伴って、西から東へと抜けるのに使った。


男はリッチを追って、こちら側へ。

そこで俺が珍しくエイディアス周辺から動いた話をどこからか仕入れて会いにきたのか。


「つまり」

「そう。後はお前が引き継げ。そもそもあのリッチはお前の師匠なんだろ?しっかりやんな」

「あの婆だって証拠があるのか?」

「あん?リッチなんて簡単に生まれるかよ。リッチになるような腐れ魔法使いなんて、お前の師匠くらいだ。それにリッチがそばのデスナイトに命じる時に、はっきりと口にしたのを聞いたぜ」


酒を飲みつつ、続ける。


「アーレスってな」


ああ。

それは間違い無いな。


「分かった。情報を集める。お前も何か分かったら知らせろ。もしこっちから西方に戻っていたとしてもだ。場合によっては西方に入ってもいい」


ふん、と鼻を鳴らして酒を飲む。


「まあ当然だな。それじゃあ用は果たした。俺は帰る」


まだ瓶に残っていた酒を、直接口をつけて飲み干し、男は席を立った。


ひとつ、確認をする。

それに男は肯定を示した。


「ああ、そういえば」


立ち去る男に言っておくべき事があった。


「お前がドラゴンを討伐したって話、本当だったんだな」

「なんだ?今更?」

「いや、信じるに足る証拠があったんでな。昔、疑った事を謝る」

「ふん。お前にやった牙が高値で売れたか?」

「まあな。お前には借りが出来たと思うくらいには得になった」

「なら、その借りを返せ。あの婆は邪魔だ。始末しろ」


それきり振り返らずに、じゃあな、と手を振って店を出た。

息を深く深く、吐く。

席を立ち、無言のエキオンを伴い俺も店を出た。

もしも海に巨大な怪獣が現れるなら?きっと船は発達せずに、自分達が住んでいる大陸だけで世界は完結するでしょう。ですので、他の大陸には他の文化圏が存在すると思って頂けたらと。

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